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無色透明のトロイメライ  作者: 皐月凉
2章 力の責任
58/62

57話 2つの世界を行き来して

 色々とあった日曜日も終わり、翌日。月曜日、つまりは平日の始まり。とううことは、大変な授業がある。

 肉体的にも精神的にも疲労が残るなか、俺は学校へと足を運んだ。


 今日も今日とて朝にランニングをしたけど、正直疲れているんだし、水曜日に備えて休めば良かったと若干後悔している。いつもよりスピード出なかったし、かなり早めにスタミナが尽きてきたしな。

 肉体的な疲労なら今まで経験したことあるからともかくとして、俺ってばこうもメンタルにも左右されるのか。確かに走ってる途中大地震のこと思い出して気分悪くなることはあったけど、まさかここまでとはな……。


「はぁ……」


 というより、なんだか学校に行くの随分と久しぶりな気がするなぁ。土日どちらも外出したことに加えて、ナザリと遭遇して、後藤さんたちとも知り合って……随分とまぁ、俺にしてはこの土日は濃い内容だっただろうか。

 それに加えて、水曜日はナザリとの戦闘が控えている。俺が契約を取り付けたから、やるしかないとは言え、俺1人でか……とどこか不安になり肩が重い。責任重大だな。


「おー、黒江。おーっす」

「おはよ」


 半ばフラフラしながら時間ギリギリに教室に入ると、鬼塚が元気よく声をかけてくれた。お前はいつも元気そうだなぁ。


「……どした? 元気なさそうだな」


 鬼塚が心配そうに顔を覗き込んでくる。


「色々あって疲れたんだよ。休日なのに全然休んでねぇな……」

「ほーん。何あったかは知らないけどさ、それ言ったら俺なんて休日部活だぜ?」

「よくやるわ。尊敬するよ」

「つっても、午前中だけなんだがな。午後は休んでいるし」

「それでもよ」


 いやホントマジで。特に水泳なんて普段使わないような筋肉使うから俺とかちょっと泳いだだけで翌日は筋肉痛だ。いやまぁ、俺全然泳げないけど。

 もちろんずっと泳いでいる鬼塚はその辺りの経験値は違うから、俺とは比べ物にならないだろう。陸上の体力と水泳の体力は似て非なるものだと勝手に思っているから余計に鬼塚がスゴいと感じる。


「ま、こちとら好きでやってることだからな。そのくらい何てことないぜ。じゃなきゃ朝早くから運動なんてできっこないって」

「マジでさすがだわ。……つーか、ねむっ。あー、ダメだ、寝たい」


 疲労が溜まっているせいで頭が働かない。これは本格的にランニング休んで体力回復に努めるべきか。それに、遥に投げられて体は痛いし、少し筋肉痛だし……。今日放課後もか。なかなかにしんどいな。


「授業始まるまで5分ってところか。とりあえず少しは時間あるし寝たら?」

「ホントに少しだけだな。でも、そうするわ。おやすみ」

「お、おう」


 鬼塚の言う通り寝ることにする。……起きれるかな。ぐっすり寝ちゃいそう。




 半分寝て半分起きてのうつらうつらを繰り返しでどうにか1時間目を乗り切り、そこからはスッキリしたので目も冴えてちゃんと授業を受けることはできた。内容を理解できたかどうかは別として。やっぱ数学難しいんだよな。

 

 昼休憩、鬼塚は水泳部の友だちと昼食を取っているらしく、いつも通り俺は1人で弁当を頬張っていた。その間に昨日のことを思い返す。


 俺はナザリと契約した。これで水曜日の深夜、アイツと戦うことができる。ナザリとの戦闘は2回あったけど、どれも短時間の戦闘のみ。あの謎の攻撃も相まってぶっちゃけると実力は未知数だ。時間の壁――――夢幻があるから、そこまで困らないとは思いたいが……いや、その考えは止めるべきだ。そうやって慢心したから俺はあの攻撃を喰らってしまった。そこは反省しないといけない。


「――――」


 他にも問題はある。契約の内容だ。その場の思い付きでどうにかこちらにも有利になるような契約にはできたはずだ。

 でも、どこか穴があるような気がしてならない。別に決戦時において城跡公園に人質は連れていけないし、新たに契約することもできない。その点は安心できる。ロードの契約はある種の縛り。縛りを破れば災いが己に降りかかる。そういう仕組みだからだ。

 パッと思い付くところ、穴――――契約の抜け道というのは、やはり昨日俺と契約を結ぶ前に誰かと契約していた場合だ。あの場では適当に誤魔化されたから、誰かと既に契約している可能性は高いように感じる。証拠がないからそんなのただの勘だし、当てずっぽうだ。しているかもしれないし、してないのかもしれない。正直いたちごっこだ。


 ということは……契約によってナザリの追跡はできない。しかし、もし契約している人がいるのなら、ソイツを探すのはアリか。これなら、俺も抜け道を使えるかもしれない。

 レーヴェは前に九条さんから僅かに発せられた魔力を感知したことがある。レーヴェは天生市全体なら魔力の痕跡を追うことができる。大きい反応に限るものだが。さすがに小さすぎる魔力は追いきれない。実際、後藤さんや遥のロードたちによる魔力行使には気付けなかったからな。

 だからこそ、天生市全体の中から微量な魔力の反応をしている1人を見付け出す――――というのはかなりのムチャだろう。九条さんを不自然に思えたのは完全に偶然の産物だろうしな。


「ったく」


 ……困ったもんだ。弁当を食べながら小声でぼやく。


 前途多難だな。とりあえず今日は放課後後藤さんたちのとこへ行くか。遅くなるなら、奏さんにどう話そうか。っていうか、水曜日どうやって家から出ようか。


 と、そうこうしているうちに弁当を食べ終わり、時間が余ったので教室から出ることに。レーヴェに確認したいことがある。できれば人がいないことろへ行きたいが……校舎裏なら誰もいないかな? 行ってみよう。


 と、校舎裏の端へ移動する。そこは常に日陰でジメジメしており、全然人気のない場所だ。にしても、こんな場所あったんだ。まぁ、そりゃ建物だからあるか。行く機会ないから知らなかったな。

 耳を澄ませて誰かいないか確かめる。……よし、いないな。念のため小声で。


「……レーヴェ、訊きたいことがある」

『何だい?』

「お前、前に九条さんがロードの契約者かもしれないと見抜いていたけど、それってもし契約している人なら誰でも分かるのか?」

『ふむ……。分かるには分かる。しかし、魔力のやり取りがある場合に限るがね』

「魔力のやり取り? つまり、契約内容が……えーっと? 魔力を得ることが難しいロードが契約してその対価に人間の魔力を得るってことか?」

『概ねそうだとも』

「それだと、例えば今回、俺とナザリは契約を交わしたけど、もし俺らみたいな内容だと端から分からない……ってことになるのか」

『まぁそうだね。君たちに魔力のやり取りは行われていない』


 後藤さんも遥もロードには魔力を送っている。だから、レーヴェも勘づくことはできた。あの2人――特に後藤さんはちょっと特殊だがな。後藤さんはカールに一方的に魔力を送っているだけで、後藤さん自身は魔力を用いることができないらしい。俺と遥とは違うところだ。

 そのわりにはあのときの九条さんと違って、後藤さんたち2人は体調を崩している様子はないな。その辺りは管理できるのかな。


「じゃあ、もしナザリが契約していた場合、内容によっては見抜くのはかなり厳しいってわけだな」

『そもそもいたとして、この人数から探し出すのは些か大変だと思うがね』


 些かどころではない。選択肢がありすぎて無理に近いだろう。それは昼食取っている間にも考えたことだ。


「なるようになるしかない……か」


 アイツは騒ぎを起こさない程度……レーヴェに勘づかれない程度には微量の魔力を徴収できるらしいので、特別契約は必要ないのかもしれないな。

 というより――――


「もし仮にナザリが既に契約しているとして、魔力貰う代わりにナザリは何を代価にするんだ?」


 仮定の話。特別契約は必要ないかもしれない。しかし、もし魔力が一定数必要になったとして、アイツは何をするのかが分からない。


『簡単な内容だと生殺与奪を握るといったところか? 前いた奴も似たような感じだったろう? あれは副次的な効果だったように思えるが』


 九条さんのあれか。

 確かあれは……九条さんが俺と話したいみたいな内容だったな。それを叶える代わりにアイツは魔力を得ていた。そして、用が済めば九条さんを喰らおうとした。つまり、契約を達成するまでは殺さないでおく――――言うなればレーヴェの言う通り、生殺与奪をアイツが握っていたということになる。

 確かにそれが一番手っ取り早く思える。まぁ、俺からしたら物騒な考えだけど、生きるか死ぬかの瀬戸際にいるロードにそんなことイチイチ考えてられないか。ロードが人間に比べて腕っぷしは確実に上だ。だからできる選択肢だな。


「さてと……」

『もういいのかい?』

「あぁ。ありがと」

『いいってことさ』


 訊きたいことは訊けた。長居するわけにもいかない。一旦戻るか。そろそろ次の授業が始まりそうだ。



「あっ、先輩だ。やっほー」

「……斉藤」


 教室に戻る最中、階段で後輩の斉藤凛とすれ違った。すれ違ったというより踊り場にポツンと立っていた。1人か。


「どうしたんです? わざわざ下に降りて。先輩そんな休み時間に活発に活動するキャラに見えませんけど」

「お前な……。別に何か飲み物買おうとしただけだ。特に欲しいもんなかったけどな」


 咄嗟に考えた言い訳を話す。実際、玄関口の近くには自販機が数台置かれている。


「なるほどなるほど。確かにあそこの自販機微妙って言えば微妙ですしね。分かりますよ。メジャーなやつは抑えてますけど、流行りのやつはなかなか置かないんですよね」


 そう言われても何が流行ってるのか知らないんだけど。


「メジャーなのがあるならそれで良くないか? 外れはないってことだろ」

「えー。でもですよ、ここって学校だからか普通の自販機やコンビニより全体的に20円ぐらい安いんですよ。買うなら安く買いたいじゃないですか」


 言われてみれば、ここの自販機安いよな。学校とかの自販機って安い場合が多い気がする。なんでだろう。


「それで、斉藤はどうしたんだ?」

「私ですか? 購買の帰りですよ。ちょっと職員室に用事あったから遅れましたけど。で、そのあと何となくここでボーッとしてただけです」

「ほーん。あれか? 宿題でも忘れたか」

「えっ、なんで分かったんですか。もしかして私のストーカーですか? キモいです」

「適当に言っただけだっての。そういうの傷付くから安易に言わないようにね?」


 そう矢継ぎ早に捲し立てる斉藤の言葉に少しばかしグサッと来ました。年頃の女子に気持ち悪いと言われるのは思いの外ダメージが大きいらしい。


「仕方ないですねぇ。あ、そろそろ授業始まる。じゃあ先輩、私はこれで」

「おう。またな」

「は~い」


 元気良く階段を登り駆けていった斉藤を見送る。

 未だに斉藤との距離感がイマイチ不明瞭なところはあるが、とりあえず特別嫌われてはいないとは思う。気持ち悪いと言われたが、冗談の類というのは分かるからな。

 ……やっぱりそう最初に考える辺り、人間不信は克服できてないのかね。


「っと」


 俺もそうこうしてられない。授業が始まる。急ぐか。

 こんな平和と言える日常とは裏腹な――真逆な世界があるにしても、ここにいる限り学生の本分はきちんと果たすべきだろう。



 時は少し流れて放課後。担任の夏木先生のHRも終わり、クラスにいる各々は部活へ行ったり、そうでない者は帰ったり、荷物を片付け行動する中、俺もクラスメイトと変わらない行動を取っていた。


「おーい、黒江」


 下校しようと席を立ったところで鬼塚が声をかけてきた。


「お疲れ。お前は今日も今日とて部活か」

「おう。……と、その前にさ」

「ん?」

「いやー、ちょっと訊きたいことがあってよ。今日の英語の課題何だっけ? ノート急いで取っていたら聞き逃してな」

「それ途中寝ていただからだろ?」

「あ、バレた?」

「つーか、それなら夏木先生のとこへ行けばいいだろうに」


 俺も1時間目軽く寝てしまったから人のこと偉そうに言えないか。


「……やー、自分から寝てましたって申告したくないな」

「はいはい、課題はえーっと……ここ、次の単元の英文の和訳な」

「オッケー! ありがと!」

「部活カンバ」

「おう! また明日!」


 これまた爽快に教室を走り部活へ行こうとする鬼塚。教室や廊下は走るな。迷惑ですよー。あ、躓いた。元気なことで。


 俺も用事を済ませようと校門まで歩く。学校からあのビルまでどう行けばいいんだっけか。えーっと――――


「ねぇねぇ、あれ誰なの?」

「さぁ……?」

「つか、あのバイクカッコ良くね?」

「確かVTRだろ? いいもん持ってんなぁ」

「あの人スタイル超いい……」


 校門に近付くにつれて男女問わず帰宅部の方々とひそひそ話が俺の耳に届く。

 話を詳しく聞く限り、どうやら校門前に誰かいるみたいだ。バイクを携えて。そのバイクはVTRという名称でかなりの大型らしい。そして、乗っている人の性別は女性とのこと。


「…………」


 ダメだ、心当たりがありすぎる。どうしてわざわざここに来たのか、お前ここの生徒だろそんなバイク跨がって教師に見付かったらどうするんだとか、俺が放課後あそこに寄らないと思ったのか――色々と疑問が尽きないが、この群衆の中話しかける勇気は俺にはない。

 予想外の人物が校門近くにいることが判明して思わず頭を抱えそうになるが、知らない人の振りをしよう。人混みの中紛れればまずバレない。そう決心して足音立てずにゆっくり去ろうとする。


 しかし――――


「葵さん」

「えっ、ちょ、まっ……っぶね」


 そうは問屋が卸さず、俺の存在に一瞬で気付いたらしい遥は勢いよくヘルメットを投げられた。先手を打たれたか。というか、気付くの早すぎだろ。いきなり投げてくるもんだからヘルメット落としかけた。危ない危ない。


 しかしまぁ、視線が集まっているなぁ。コイツは何者だ? とおぼしき視線が突き刺さる。目立つのには慣れてない分、居心地がかなり悪い。


「行きますよ」


 遥は既にヘルメットを被っており、ガラス部分は特殊加工がされているのか顔は見えない。これでは誰か見分けは付かないな。一応は遥も通っている学校だからか気を遣っているのだろう。


「歩いて行くから先行ってて」

「いえ、私が連れていった方が早いです」

「俺バイクに乗りたくないんだけど」

「私は構いませんが」


 これは俺の本意とは違って別の意味で受け取ったな。俺はあの暴走バイクには乗りたくないという意味で言ったのに。遥は迷惑をかけたくないのようなニュアンスだと思ったのかもしれない。


「いいから被ってください。行きますよ」

「いやだから」

「早くしてください」


 ……押しが強くて断れそうにない。


「分かったよ。ヘルメットこれどうやって閉めればいい?」

「昨日のと違って留め具があるよで簡単に閉めれます」


 あ、ホントだ。昨日のはベルトみたいな感じだったから難しかったけど、これなら簡単だ。

 ……それはそうと、やっぱり周りの視線がキツい。無視しようにも俺にはできない。どうしても意識してしまう。早くこの場から去りたいけど、遥の運転はかなり怖い。このパラドックスよ……。


 せめてもの願いとして――


「安全運転でお願いします」


 これだけは頼みたい。


「はい」


 ――――そう返事したものの、昨日と同じでスピード出しすぎでした。マジで心臓に悪い。死ぬ。










地獄界曼荼羅とても面白かったですね

年末年始も何があるのか楽しみです。クリスマスもあるっぽいけど、ボックスガチャそこまで回れるかなぁ。正直種火余りまくっていてそんなにいらない

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