55話 帰還して
「では早く戻りましょうか」
城跡公園に戻った俺たちはナザリのことを後藤さんたちに報告しないといけない。報告したあとは対策も練らないとな。やることが多い。そして、帰るために遥のバイクを乗せてもらうことになったので、俺は噂の遥のバイクの実物を初めて見ることになるが……。
「おう……思ったよりデカいな。それ何て名前のバイク?」
「VTR1000Fです」
俺はバイクの種類に詳しくないし、なんならほとんど知らない。スクーターと中型大型程度の区別しか付かないレベルだ。当然、遥が言ったバイクの名前にも心当たりはないが、これ多分中型ではなく大型だというのは分かる。こんな大きいバイクを女子高生が操るのか……いくら免許を取ったとはいえ、遥ってかなりスゴいな。
「どうぞ」
俺の驚愕などいざ知らず、いつも通り平静とした遥にヘルメットを手渡される。
ヘルメットは使ったことはないが、まぁいい、これ普通に被ればいいんだよな。よし、被る。あれ、被ったはいいけど、どうやって締めるんだろうか? 多分ベルトだが……ダメだ、見えないから手探り状態だ。
「えーっと……あれ?」
「こうですよ。ジッとしていてください」
「お、おぉ。悪いな」
遥が俺に近付き、ヘルメットのベルトを締めてくれる。
近い近い近いっ。遥の近さに思わず後退しそうになるけど、我慢はしないといけない。こっちはやってもらってる立場だ。文句は言えまい。締めてもらっている間、恥ずかしいので遥を直視しないよう視線を外しながらついでにと遥のバイクを見てみる。
……ハンドルとシートの間に何か大きい出っ張り? あれ何だ……? まぁ、そんなよく分かんない物があるから、ハンドルを握っているともう1人が入るスペースないかもしれない。このバイク完全に1人用では? これ2人乗りできるのか不安になってくる。訊いてみよう。
「なぁ、このバイクって2人乗りできるの?」
「詰めれば恐らくイケます。きっと大丈夫です。高速に乗るわけではないので、罪に問われることもないでしょう」
何そのゴリ押し。恐らくときっとで意味被っているよね。そ、その……ホントに大丈夫なのかな……? やっぱり不安になってきた。不安というより恐怖? 普通に怖いんだが。
「早く乗ってください。帰りましょう」
バイクに跨がった遥に続き俺も乗ろうとする。どうにか座れたが……ううっ、これけっこう狭いなぁ。これホントに大丈夫? パート2。そして、乗ったはいいけど、バイクに乗るのは初めてなもんで手の行き場が分からない。えーっと、どこ掴めばいいのだろうか。腰? だよな……。
「出発します」
「あ、えーっと……ちょっと待って」
「どうしましたか?」
「あー、えー、これどこ掴めばいい?」
「どこでも構いませんが、胸の方は運転しにくいので腰の方でお願いします」
「あっはい」
遥は何でもなさそうに告げるので、俺は恐る恐る掴む。……暖かい。柔らかい。
変なことは考えないようにしないと。何か別のことを考えないと……そうだ、何か適当な英単語でも頭に思い浮かべよう。えーっと、英単語張の1ページから――――え? エンジンふかしすぎじゃない?
「改めて行きます。気を付けてくださいね」
「ああうんお願いって、気を付けるって何を……えっ、ちょ、速い速い速い――――!」
遥さんあなた、運転するとめっちゃスピード出してくるんですね。まるで知らなかったです。徐々にスピード上げるんじゃなくて初っぱなからアクセス全開これ法定速度越えてないの大丈夫なのっていうかムリムリムリムリムリムリ速い速い誰か止めて!!
「……葵さん、アンタ大丈夫か?」
「はぁ……はぁ……。うん、でもやっぱムリ」
「ちょっと横になっときな」
「そうする」
遥との地獄のランデブーを終え、肉体的には無事だけど精神的にはグロッキーな俺は後藤さんたちのビルへ戻った。そこで慶が迎えてくれて今ソファーに倒れている。酔ってはいない。ただ疲れただけだ。
「葵さん、仏頂面の後ろに乗ったのか……」
「うん。めっちゃスピード出すし、信号赤にならないかぎり全然止まらないしスピードも落とさないし、しかもわざと信号の少ない道通っていたしで……なんか疲れた」
まさか遥にこんな一面があったとはな。もしかしたら爆走するのは楽しいと思っているかもしれないな。楽しいと思った瞬間には消えてなくなっているのだろうが、また次の瞬間に楽しいと思って――と、そんな堂々巡りを繰り広げていたら、なんだか面白いなと勝手に想像してしまう。
ふと思えば遥はワンピースを着ているのによくバイクで走り回っていたな。その、捲れたりしないのかな。
「慶は後ろに乗ったことあるのか?」
「全くない。いや、あれの後ろとか嫌に決まってんだろ。あんな危険なマシーンに乗るよりかは、断然ジェットコースター乗る方がいくらかマシだってーの」
「完全に同意する。……そういや後藤さんは?」
ざっと見渡したところ見当たらない。
「さぁ? 葵さんたち送ってからまだ戻ってきてないけど」
「マジで? 報告することあるのにな。遥、連絡した?」
「今してみます――――どうやらスーパーで買い物をしていたそうです。もうそろそろ戻られると」
全く、俺らが大変なときに呑気に買い物とは……。いや、午前の間、遥が捜索していてくれたときにティータイムしていた俺に言えることではないけども。
「あ? 何かあったのか?」
「まぁ、色々纏めて報告しようと思ってるからとりあえず後藤さん待とうかな」
「そうすっか。紅茶飲むか?」
「いや、今は横になっとく」
「おう。じゃ、俺は何かおやつでも作ろうかね」
そういそいそとキッチンへ行く慶を見送る。コイツ今おやつ用意すると言わずに作ると言ったよな。薄々感じてはいたが、見た目のイカつさとは思いの外、藤原慶という人物は家庭的なんだろう。
そして、ソファーに寝転んで15分ほど経とうとしたとき。
「お待たせー」
買い物袋を引っ提げ後藤さんは帰って来た。うん、思ってた以上に呑気な口調だ。
「およ、遥から連絡あってもしやと思ったけど、葵たち帰ってきてたねんな。ほい、これオレンジジュース。冷えてるで~」
「あ、ども」
「ありがとうございます」
受け取りつつも、俺はどうしてオレンジジュースなのかチョイスに疑問を感じる。もっと他に定番の例えばコーラといった飲料もあるはずだ。それに慶だってよく紅茶を淹れてくれる。それに甘んじることだってできる。いや、長々語ったところで、そもそも俺は炭酸飲めない。ありがたいと言えばありがたいだろう。
一口飲む。うんうん、確かに冷えている。美味しい。
「外けっこう暑くて、つい飲みたなったんよ。それで、けっこう早かったけど、何かあったん? 手がかりでも見付けた?」
「手がかりというか、本人に会いました。……本人? 本ロード? ま、まぁ、ナザリに会いました」
「……………………え、えぇ!?」
「おいおい、マジかよ」
たっぷり間を取ってから目を白黒とさせる後藤さんとキッチンの奥から声量はないが驚愕の声を響かせる慶。やはりいきなり結論を言うと驚くか。とはいえ、前置きを長くするのは聞いている身としては鬱陶しいと思うよな。さっさと本題に入れと言われそうだ。
「ちょ、まっ、葵も遥も!?」
「はい、会いました」
「おーい、ちょーっと待ってって! お前らだけで始めんじゃねぇよ。これ作り終わったら俺も話聞きてぇんだけど! もうすぐできっから!」
慶の叫びが聞こえるので、一旦話を中断する。後藤さんは今にも聞きたがっている雰囲気を醸し出しているがな。
キッチンの方はと……どうやら何か甘い匂いがする。お菓子何を作っているんだろう。うーん、ベッドで寝転びながら慶が作る工程を見ていたが、恐らくパンケーキ辺りだろう。正直詳しくないから断言はできないけど、わりと手軽に作れるお菓子かな。
「……?」
お菓子……? パンケーキはお菓子か? おやつなら分かるけど、お菓子って定義は何だ? 慶もおやつを作ると言っていた。パンケーキをお菓子と呼ぶのは何か変というか、違和感が拭えない。俺が思うお菓子というのはスナック菓子やスーパーで手頃な値段で帰るものであって、パンケーキや普通のケーキならそれはお菓子ではなく、スイーツと呼ぶものではないのか…………どうでもいいか。
よくよく思い返せばホントにどうでもいい考えだと分かる。別にどんな呼び名だろうと通じれば問題はないだろう。
「おう、お待たせ。腹減ってるなら食っていいぜ」
「ほーい、あんがとー」
「ありがとな」
「ありがとうございます」
皿を複数持ってきてテーブルにパンケーキを置く慶に対して、のんびりとした口調で返す後藤さん、これといって特筆すべき点はなく普通に感謝を告げる俺、どこまでも無機質な声、三者三様の返答だ。
俺も少しつまんで話を再開する。……美味しいな。
「で、ナザリと会った経緯なんですけど。後藤さんと別れてから遥と一緒に行動していて――――――――」
それから5分以上かけて事の顛末を2人に伝える。途中、遥に捕捉を貰いつつもちゃんと話せたと思う。これできちんと伝わっただろうか。人にどう伝えれば分かりやすいか経験がなさすぎて困る。
「……と、まぁこんなところです。色々先走って決めちゃってすみません」
先に謝る。状況が状況とはいえ、ナザリとの契約とか俺だけでは決めるのは不味かったよな。
後藤さんと慶は俺たちの話を聞いてジッと黙っている。きっかり黙ること1分、後藤は口を開く。この間はどこか居心地が悪かった。
「……まぁ、葵が気にすることはないやろ。仕方ない仕方ない。それで、いくつか訊きたいことあるんやけどいいか?」
「はい」
「もしナザリが人通りの方に逃げたとして、ナザリを追いかけて仕留めることはできんかった?」
「そうですね。……まだナザリの情報が少なくて何とも言えませんが、前に俺を傷付けた謎の力を意識し過ぎて厳しかったかなぁと」
「うーん、でもさ? アイツ今の僕じゃ勝てない云々言ってたんやろ? その言葉から鑑みるに葵の言う力……ってのも使えんかった可能性あるんちゃうん?」
「あっ」
言われてみればそうかもしれない。だから、ナザリはわざと人質を取ろうとした発言をして俺と契約までこじつけたのか? さっきも言ったが、アイツと戦った時間はかなり短いのめ情報がないから他に夢幻を破る手段があるのか知らないけど、それを除けばもしかしてあの場で倒せたのか?
……だとしたら判断をミスった…………?
「まぁ、そこまで気にすることないって。こんなん後やからグチグチ言えることや」
軽く唇を噛んでいると、後藤さんはそう声をかけてくれた。
「……はい」
「あと訊きたいことなんやけど、今のナザリに葵以外の契約者はいると思う?」
「それは何とも。適当にはぐらかされましたし。もしいても、3日後には連れていけないはずなんですけどね」
はず、と言うしかないのがどこかもどかしい。やはりあの契約内容に穴があるのか。でも、できる限りの最善は尽くしたと思う。
「とりあえずは色々やらなあかんことが多いなぁ。あそこ、夜に人通りあるか知らんけど、一応は封鎖しておかなな」
困った困ったと呟く後藤さん。そこに慶が口を挟む。
「だったら3日後の夜に俺とぶっきらぼういるか? 葵さんの話の通りなら俺たち援護とかできねぇけどよ」
「そこは今のところ待機としか言いようがないな。ただ、もしナザリが契約の穴を突いて人質とか出してくるなら、そのときは遥と慶にもやってもらわないとあかんやろう。ただまぁ、アイツの狙いは葵らしいし、葵には無理してもらわんとあかんけど……大丈夫か?」
「さ、さぁ……? やっぱあの攻撃を警戒してしまうというか。すんなり行きそうではないですね」
「せやなぁ。できる限りの援護はしたいけど、契約内容に背くと、こっちに罰が降り注ぐってのは僕も理解しとる。カールにそう言われたしな。だからこっちも葵のした契約の穴を突きたいとこやけども、厳しいところや」
後藤さんは困ったように腕を組み「うーん……」とひとしきり唸ってから。
「ま、一旦は3日後に向けての準備やな。ちょっと連絡するとこあるから僕抜けるわ。今日はもう帰ってもええから、そうやな、明後日……火曜日の放課後にでもまたこっち来てな」
「あ、分かりました。お願いします」
「ほーい。遥も慶も一応は明後日予定開けといてよ」
「おう。どうせ部活とかしてねぇんだ。基本は暇だっての」
「はい」
荷物を纏めて後藤さんはまたここから退室した。俺のせいでもあるけど、ホントに忙しそうだな。
「さてと、慶はこれからどうする?」
「んー、適当に過ごして……まぁ、夕方近くになったら帰るつもりだな。葵さんの話を聞いたところ、俺に出番はなさそうだしよ」
「だといいけどな」
「そうだな」
と、パンケーキを食べ終えた慶は食器を洗いにキッチンへ戻った。俺はどこへ行こうかな。もう帰るかここにしばらく残るか。どうしようか――と迷っているところへ肩を叩かれる。
「葵さん、付いてきてください」
残る人物は1人だけ。……遥だ。
そういえば、レーヴェについて話さないといけないことになっていたのを思い出した。後藤さんたちには話していない。
「おう。……遥の部屋か?」
「いいえ。私の部屋の隣です」
そうやって案内された場所は――――柔道場のような部屋だった。床には体育とかで見たことがある高校の柔道場のような畳。そして、空調設備以外何もない。せいぜいサンドバッグがぶら下がっている程度。ここで生活できるとは思えないだだっ広い空間。遥の部屋の隣にこんな場所があったとは。
「……ここは訓練場みたいにところ?」
「はい」
「えーっと、俺と遥と戦うってこと?」
「その前に葵さんのロードについて教えて下さい。女王とはどういう意味か、あなたがまだ話していないことを」
そう言った遥は、無機質だが――――どこか真っ直ぐな眼差しを俺に向けてくる。
灼熱カバディ……能京vs奏和戦感動した…………!
高谷……ホントに最高だった…………(泣)




