4話 ちょっとした変化から
目覚ましが鳴り、目が覚めた。
ただ、頭がいつもと違い、ボーッとしている。
「…………」
何だろう。よく分からない、不思議な夢を見た。どんな夢かはハッキリと覚えてないけど、今まで経験したことないような不思議な夢。
でもまぁ、夢ってのはそういうんだよな。逆に起きてから全部覚えている夢というのが珍しい気がする。起きた瞬間からかなりの勢いで忘れるようになっているもんだと思うな。だいたい5分経ったら、もうほとんど覚えていない。俺の感覚だけど。
天気は……晴れか。なら走れるな。さすがに雨の日は走らないから。
まだシャキッとしてないわけだし、顔を洗おう。それから走るか。
で、いつも通り5kmほど走り終えてから朝ごはんを食べ、登校する。ちなみに、今日の凪は寝坊です。まぁ、平常運転。特に驚きもしない。むしろ昨日の方が驚いたレベル。
教室に着き、自分の席に座る。うん、今日は早めに着けた。昨日は凪とダラダラしていたからなぁ……。
っと、見渡す限り、まだあまり人が多くないな。教室には数人いる。で、何人かは隣のクラスとかに遊びに行ってるからホントに残っている人は少ない。少ないから静か。……こういう空気は心地良い。
始業まであと20分はある。……鬼塚は、まだ来てないか。
そういや、今日の英語の授業で単語テストあったな。一応単語帳見直しておくか。良い点数取れる気しないけど。暗記は苦手。一度完璧に覚えれば、ある程度は忘れはしないけど、それまでの過程が大変。だから徹夜漬けとか俺には全然効果ない。付け焼き刃は意味ないってこと。
「…………」
こうやってボーッと単語帳眺めているけど、記憶できてる気ホントしねぇな。
お、もう10分前か。だいぶ人来たな。って、ダメだ、全然集中できてない。目が滑るっていうか……朝の勉強はあまり身に入らない。走って頭はハッキリさせてるんだけど。
「よう、黒江」
鬼塚も来たか。
「おう。……前から思ってたけどさ、別にわざわざ毎回俺に話しかけなくてもいいぞ? 部活の奴らとかいるだろ」
「あれ、黒江は知らないか。このクラスで水泳部俺だけだぞ?」
「マジか」
それは知らなかった。
「部活が同じ奴らは別のクラスが多くてな。まー、そんなに数多いわけじゃないからな」
「ほー」
「それに、クラスの奴らと仲悪いってわけでもないけど、やっぱ朝は黒江に話しかけないと始まらないんだよなぁ」
「何だそれ……」
「いや、何となくだよ。なんつーか、もう当たり前になってるだけ」
そ、そうか。
ちょっと照れる。話題変えよう。
「そういや、髄分と遅かったな。いつもならもうちょい教室いるの早くないか? 朝練終わりだし」
「あぁ、しばらく部活禁止なんだよ。ほら、昨日の事件知ってるだろ?」
不満そうに愚痴を零す鬼塚。
やっぱり昨日の今日だし話題はこればっかだな。
「あれな。現場、ここからわりかし近いよな」
「そう! まだ犯人とか見つかってないから、朝練も禁止になってさー、久しぶりにのんびり登校したわけ。はぁ……泳ぎたい」
「ご愁傷さま」
「くっそ、帰宅部ムカつく」
「いやいや、なんでさ。ほら、お前も早く下校できるありがたみを思い知れ」
「確かにたまになら良いけど。それがずっとってのはさすがに嫌だな」
「何にせよ、早く見つかるといいな」
「だよなぁ。放課後市民プールでも行くか……」
「それ本末転倒じゃね? 大人しく帰れよ」
何のための強制下校なんだか。
「へいへい」
「そろそろ授業始まるぞ」
「だな。部活ないし真面目に受けますか」
「部活あっても真面目に受けた方がいいと思うな」
「そりゃそうか。ここの水泳部1つでも赤点取ったら部活停止になるしな。じゃ、また」
「おう」
と、意気込んだのはいいものの――――
「上から指示あって、しばらく学校閉めることになったの。まだ犯人近くにいるかもしれないし。……ゴメンね? わざわざ来てもらって。早く通達できれば良かったんだけど、ここ一帯の学校が閉鎖になるから取り決めに時間かかったの」
担任の夏木先生の一言により休校になりましたとさ。
…………マジか。
軽くHRして今日の学校終わったぞ。
「明日からどうなるか分からないけど、一応朝の7時には学校のホームページ更新されるはずだから確認しといてね。あ、きちんとすぐに家に帰るのよ! 寄り道禁止!」
それだけ最後に忠告され、学校が終わった。
…………うん、帰るか。
「じゃあなー。気を付けろよ」
「そっちこそ」
軽く鬼塚に挨拶してから俺も下校する。
しようとしたけど、どうせ下駄箱にすぐ移動しても人が多いだけだろうし、時間を開けてから行くことにした。下校が始まってから10分ちょい経ってから移動する。
よし、だいぶ人が減ったな。というより、もうほぼいない。
少し時間喰ったが、帰るとしよう。あ、でも弁当どうしようか。毎朝奏さんが作ってくれるし、家で食うものな……ちょっと申し訳ない。まぁ、どちらにせよ、学校だろうが家だろうが弁当食べるのは変わりないし……。
なんて考えごとしながら、下駄箱を開けようとしたら手が誰かの手とぶつかる。
「あっ、ごめんなさい」
すぐに手を引っ込め、謝る。ん? ここでぶつかるとか、誰だろう。
「いえこちらこそ……あ、く、黒江君」
「九条さん……どうも」
九条さんか。びっくりした。
昨日も思ったが、前髪長くて目が半分隠れている。しかもけっこうな頻度で俯いているような……? イマイチどんな顔かは分からない。俺の方がそれなりに身長あるせいもあるが。
全体的に細いし美人そうではある。
これは内気な凪とは違うタイプの人見知り……さては自分に自信がないタイプ人見知りか周りの視線が気になりまくるタイプの人見知りか。……って、なんだ、向こうに失礼だな。俺も人のこと言えないし。
そっか、出席番号近いもんな。……あれ?
「まだ帰ってなかったんてすね」
「く、黒江君こそ……」
「あ、俺は、その、えっと、生徒の数が減るの待ってたんで……」
「わ、私もです」
俺は上がり症のタイプの人見知り……周りの視線が気になる感じです。絶賛人見知り発揮中です。
そろそろどうにかしたいとは思ってるけど、俺の性格上、上手くいかない。すぐに頭真っ白になる。現に今もそうだ。
絶対、変な人認定されてるよな。否定できる気はこれっぽちもしないし、できるほどコミュ力高いわけでもないから、俺……。
そんなことできたら、中学全く喋らないような事態に発展しないからな。そうなった原因はまた別にあるけど、今はいい。ただずっと引きずっているってのがな……。いい加減どうにかしないとは思ってるけど。
「あ、あのっ」
なんて物思いにふけつつ、お互い靴を履いたところで、九条さんに呼び止められる。
ちょうど俺が「お疲れ様です」とか言って帰ろうとしたとき――
「よ、宜しければ、途中まで……一緒に帰りませんか?」
「…………え?」
いきなりすぎて声が詰まる。
「えーっと、ど、どうしてですか?」
「その、ですね……ちょっと1人だと、こ、心細いと言いますか……」
あぁ、もしかしたら殺人犯が歩いてるかもしれないのに、確かに女子1人ってのは怖いのか。
うっ、凪が心配になってきた。大丈夫か、アイツ?
「そ、それと、黒江君とお話したいこともありまして……」
「俺と、ですか?」
「はい……」
そして、九条さんの声が段々と小さくなる。
「あー……その、俺で良ければお付き合いしますが」
「本当ですか!?」
パッと弾けるような笑みを浮かべる九条さん。
……初めて九条さんの笑顔を見たような。知り合って間もないから、当たり前かもしれないけど。
と、言う訳で、九条さんと下校することになりました。
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