42話 嵐の渦中で
最近ハーメルンの方にかかりきりでした
俺を見つけた斉藤は周りの視線お構いなくこちらに歩いてきている。
教室にいる人はあまり多くなくせいぜい10人程度。大半は食堂行ったり、他クラスで食べたりはたまた渡り廊下で食べたりと多種多様。……言い方微妙だな。十人十色? ではなく、人それぞれ。
そもそも上級生の教室に後輩が来ること自体珍しいこと。そして、それが可愛い部類の女子と来たら尚更だ。しかも、後輩女子――斉藤の目的の人物が友だちろくにいない俺ときた。鬼塚とはわりと喋るが、それ以外の相手となれば全くと言っていいほど話さない。そんな奴が相手だ。
その10人ちょっとの注目を浴びながら斉藤は俺のもとへやって来た。
「いやー、教室にいてよかったです。外で食べてたらさすがに探せなかったですよ、ええ、ホントに」
「……何しに来たの?」
「うっわ、何ですそのげんなりした顔。私と会うのそんなに嫌ですか?」
「そうだと言ったら?」
「大声で泣きます。それはもう学校全体に響き渡るくらいの大声で」
「報復方法がめんどくせぇ……!」
殴りますとか言ってくれた方がまだマシな気がするな。ていうか、俺そんな顔しているの? 自分の思っている以上に表情に出やすいの? しかし、その報復方法気になるな。出会って1日程度の関係だが、その本気の泣きに関してはちょっとばかし興味が湧く。
しかしまあ、とりあえずそれは置いておいて。本題をもう一度切り出そう。
「で、何の用?」
「そうですそうです。先輩、昨日これ忘れてましたよ」
そうやって斉藤が取り出したのは俺のボールペンだな。……あれ? マジで? ペンケースを確認してみると……あ、ホントになかった。貸出カードに名前書いたときかな。気付かなかった。
「悪い悪い。助かったわ。ありがと」
「いえいえー。朝に渡せればよかったんですけどね。見事にすっぽ抜けてました」
「そんなことないって。元はと言えば図書室に忘れた俺に非があるんだからさ」
「はい、てことで、確かに渡しました。全くー、気を付けてください。今回がボールペンだったからいいものの、これが財布や個人情報丸だしのやつだったら危ないですよ。もちろん、私は良い子なのでもし先輩のを拾っても、悪用しようとはこれっぽちも思いませんけど。これを機に反省してくださいね。では、私は友だち待たせてるので、本日はこれで……およ?」
昨日知り合った後輩に矢継ぎ早に説教される俺。言葉を挟む隙間がなさすぎる……。
そして、目的完了! もうここには用はないぜ! と言わんはがりの勢いでそのまま去ろうとした斉藤だが、ふとその視線が俺から逸れる。
ん? 何だ……? と疑問に感じ俺も斉藤の視線の先を追う。
斉藤が見ているのは鬼塚ではない。実際、チラッと横目で見れば笑いを必死に堪えている鬼塚がいるし。なに、そんなに面白いの光景ですか? 机に突っ伏してまで笑いを堪えることかよ……。
そうじゃないそうじゃない。で、斉藤は誰を見てるんだ?
「――――」
…………ああうん、九条さんだった。教室にいたんだね。あまり誰かいるとか意識してませんでした。それはそうと、なんか俺らをまるで信じられない、みたいな表情をしている。驚いているのか困惑しているのか分からない、そんな表情。
その隣には前に凪と出かけた日に知り合った村上さんがいる。どうやらこちらで昼食を取っているようだな。村上さんは村上さんで何が楽しいのかニヤニヤしながら手を振っている。
「あのー、どうかしましたか?」
斉藤はいつの間にかそそくさーと九条さんの方に移動していた。何その抜き足。
「い、いえ……。何でもないです。いきなりジッと見て、すいませんね」
「特には気にしないですけど。――あ、もしかして先輩と話してるの気になりました?」
「ち、違います……!」
「いやいや、志乃。嘘つく必要どこにあるの。どっからどう見てもめっちゃ気になってたじゃないのよ」
「もう、朱里まで何言ってるの……!」
頬を赤らめ慌てふためく九条さんをぼんやり眺めるしかない俺。
ふむ、九条さんの言うことも一理ある。確かに普段鬼塚以外が相手だと無口な俺がこうして喋るのは大変珍しいことだと自覚している。そりゃ、誰だろうと不思議がるわな。
「ご無沙汰してるね、黒江君」
「…………どうも。これはこれは村上さん。お元気ですか?」
「うわっ、めちゃくちゃ他人行儀」
「……そんなもんだろ」
「お、いいね! そのやさぐれた感じ! いいね!」
そんなことを考えていたら村上さんにいきなり話しかけられてちょっと焦った。そういうの、心の準備が必要なんです。
何だか村上さんと斉藤どことなく似ているような。周りを振り回すところとか。
「それでそれで? この子は?」
「1個下の後輩」
「は〜い、ご紹介に預かりました。先輩の後輩の斉藤凛ですっ」
「先輩の後輩って……その通りだけど、なんかややこしいな」
「そこを突っ込むのは野暮ってもんですってば」
村上さんとの会話に割って入っては場を荒らしまくる斉藤に俺も困惑している。この子、自由すぎない?
「黒江君と、な、仲良いんですね。斉藤さんは」
「そうですねぇ。私もそう思います。ま、昨日話すようになったばかりですが」
「ほほう。昨日から? にしては、随分と距離近いね」
そこに食いつく村上さん。
実際、そうだよな。今さらだが何なんだろう、この後輩は。改めて斉藤のコミュ力というやつのスゴさを思い知る。
俺はわりと心の壁が厚い方だと自覚している。鬼塚と知り合ったとき、ちょっとずつ話していくうちに徐々にその壁が失くなったような感覚だった。九条さんも同様だ。だが、斉藤の場合その心の壁を貼る前に一気に俺に近付いた。貼る余裕なんてなかった。
「何なんでしょうね? 私も不思議です」
「斉藤でそれなら俺はもっと不思議だってば。こちとら人と接するの慣れてないんだよ」
「黒江君はそうでしょうね……」
九条さんは少し感心していたような顔で苦笑しつつそう返答する。それどういう感情なんだ……?
まあ、九条さんは俺と話すようになるのにかなり時間かかったよな。話し始めてからはそうでもないが、話すまでにか。どうやら中学時代から俺を知っていたようだし。……ごめんなさい、俺が周りに無関心すぎだだけです。
「だよなー。俺も黒江と打ち明けるのに随分時間かかったぜ」
「鬼塚……そこで入ってくるのか」
「だって、面白そうじゃん?」
「お前な……」
ニカッといい顔で笑うな、イケメン。これどう収集つければいいんだ。
斉藤は斉藤で俺の肩を楽しそうにバンバン叩いてくる。コイツの距離感マジでどうなってるの。
「まあまあ。いいじゃないですかー、私と知り合って悪いことないですよ」
「それ自分で言うのか」
「イエっス! それに私だって楽しいですよ。先輩みたいなやさぐれキャラと話すのは」
「それ褒めてる? つーか、やさぐれって……さっき村上さんも言ってたけど、俺そんな性格じゃないんだけど」
「あのですねぇ。主観と客観じゃいくら公平に自分を見つめてもかなり違いが生まれますよ。確かに、やさぐれって言っても不良みたいにグレてるわけじゃないですけど、うーん、何て言うか……とりあえず面倒ごとは嫌い! 感が滲み出てると言いますか。今とか一応は先輩中心のコミュニティで起きてることですよ。それなのに先輩は一歩引いてますよね?」
……スゴい図星。普通に見抜かれてるぞ。基本俺はあがり症だし、かなりの人見知りだ。できれば目立つのは嫌というか、集団の後ろにいるような立ち位置にいる方が安心するというか。こういう状況にまず慣れてない。
斉藤とは昨日から話すようになったわけだが、普段はおちゃらけた口調なのに、妙なところで鋭い。
「あー、何となく分かる」
「おいコラ鬼塚」
「普段話してるときはそんなのないぞ? ただ俺が思うに、黒江はあまり自分を過大評価しないってのがな……」
「斉藤の言ってたこととだいぶ話逸れたが、それやさぐれと関係あるか?」
「あるだろー。もっと自分に自信があったらそんな卑屈っぽさもなくなるって。ほら、今はお前中心だろ? 話纏めろよ」
「無茶言うなよ……!」
さっきから他のクラスメイトが「黒江ってあんなキャラなんだ」とか「黒江って何者?」とかジロジロ見られている。は、恥ずかしい。
「まあ、人前で話すのが苦手な人だっていますよ。私がそうですし、無理強いはよくないかと……」
助け舟を出してくれた九条さん。いい人過ぎる。
「人の性格なんて十人十色だからねー。見るからに黒江君はそういうの不向きそうだもんね」
それにうんうんと頷き同意する村上さん。
別に鬼塚と斉藤が悪いってわけじゃないけど、適切な距離感を守ってくれるというのはこういう性格の俺からしたらありがたい。
「確かにそうですねぇ。先輩、私と話すとき自分からぜーんぜん話題振りませんし、苦手なんだなってのは充分分かりま……って、時間が! すいません、私はここで。失礼しました!」
「あー、うん。またな」
「はーい、またでーす」
新しく知り合った後輩は嵐のように現れ、嵐のように去っていった。斉藤ってば何がしたかったんだろ……って、それは俺の忘れ物渡すためか。それにしては、随分と暴れたなぁ。で、よく分かんないタイミングでいなくなるっていう。
……そういえば、さっき友だちがどうのって言っていたな。
「……なんかスゴい奴だったな」
「鬼塚が言うとか相当だな」
「やかましいぞ」
隣で村上さんは。
「でも、話してて楽しかったよね」
「朱里はそうかもだけど……私は……」
「なに、志乃はあの子苦手?」
「そういうわけじゃないけど……何だかズルいなぁって」
「ズルいって何が?」
「そ、それはいいから……っ」
「えー、なにー、気になるじゃーん」
九条さんと村上さんはくっついてイチャイチャしている。にしても、前凪と会ったときも思ったけど、2人とも仲良いですね。




