37話 おはなしをしよう?
「……ホントにいるのか」
校門を出てから数分。誰もいない通学路にて、緊迫したレーヴェの声で呼び止められた。
――――ロードがいる。あの化け物が、またこの街に。
『ああ。魔力の反応はそこまで遠くない』
「……おいおい、誰かを襲っているのか?」
ロードがここで生きるためには誰かを喰らう必要がある。もしくは魔力を得るために誰かと契約するか。
大まかに分類するとこの2つ。細かい部分を突くならまだあると思うけど。前戦ったロードはあの黒い鞭で九条さんや俺から魔力を吸い取っていたし、そういうモノもまだまだ存在するだろうな。
もし契約していないロードだったら喰らうために魔力を使っているのかもしれない。それはもう本末転倒な気がするけど。
『いや、別に人間を襲うくらいなら、わざわざ魔力を使わないさ』
あ、やっぱそうなのか。確かにロードは生身の人間よりかは遥かに強い存在だろう。
ということは――レーヴェが感じた魔力には何か別の目的が?
「どうしてだ……?」
『まあ、十中八九こちらを誘ってるね』
「それは分かるけど」
誘ってるということは、レーヴェの存在はこの地球で知られていることになるのだろうか。ということは、かなりのロードがここにいるのか? それにしてはこの10年静かだった。もしかしたらどこかでロードの被害が遭った可能性は否定できないが、それにしてもいきなり過ぎる。
「誘ってるって、俺か? それともレーヴェか? それとも別の誰か?」
『さあね。私のことを知ってるロードならあのとき、私の使用した魔力を感知できたかもしれないが』
王様なんだからだいたいの奴が知っていると思うけど。
もしくは誰かにあの戦いが見られていたとか……あまり考えたくはない。人の気配とか全然しなかったし。
『とりあえず移動するよ。魔力の反応があった場所まで案内する』
「……分かった。行こう」
思考を打ち切って、レーヴェの指示に従う。そうだ、今はゴチャゴチャ考えるべきしゃない。俺の悪い癖だ。
走って数分。目的の場所へと着く。
「…………ここかよ」
俺はバツが悪そうに呟く。
そこは学校から離れた住宅街の路地裏。住宅街といっても、魔力の反応がした箇所は住宅街の中でも端の方にある。
廃ビルが多く、長らく放置された地区だ。その地区は狭い。しかし、夜になると、人通りも少ないこともあり、酔っぱらいや不良などが多くなる。普通の人ならあまり近寄りたくないだろう。
実際、俺もここにはあまり来たことがない。姿を隠すのにはまさにうってつけというわけだな。
とはいえ、知らない誰かに見られる可能性が少ないのはありがたい、か。
『こっちの方だ』
「おう」
周りに注意しつつゆっくり足を進める。
「レーヴェ、力借りるぞ」
『少々気が早いとは思うが…………まあいいだろう。用心に越したことはないね』
そう言うと、途端に髪が長くなったのが分かる。感覚も研ぎ澄まされたことも分かる。眼も耳も肌も――五感全てが鋭くなっている。
レーヴェに力を貸してもらった証拠。だから――――路地裏のさらに奥に何者かが待ち構えているのも理解できる。気配がする。ロードか。
今度は一体どんな奴だ。なんでこれみよがしに魔力を使用した。レーヴェの予想が外れて誰かを襲っているのか。もし俺――――レーヴェを誘ってるとして、何が目的だ。……疑問が尽きないが、心は冷静に。
「――――」
そして、見つけた。
路地裏の奥深くに佇む姿を。
「……やあ」
目の前のソイツはまるで昔からの知り合いのように気さくに声をかけてきた。
「――――」
そのことよりも何より驚いたことがある。
俺の目の前にいるソイツは――人の姿をしている。レーヴェだってそうだから、不思議ではないかもしれない。しかし、どうしても違和感が拭えない。第一印象は……ただの人間だ。それがロードとは。
今さらな話だがロードに性別がどうとか知らないが、パッと見は男だ。身長は俺と同じくらい。いや、暗くて少し分かりにくいけど、もっと高いか。180前半ってところ。髪は短い。金髪。なぜか白のTシャツ1枚にジャージを履いてる。
「あれ、無視なの? うーん、寂しいなぁ」
そして、流暢に日本語を喋る。それは違和感なく。
俺は少しずつ歩いて距離を詰める。
「おーい。反応してくれないんじゃ、わざわざ呼んだ意味がないじゃないか」
「…………お前、ロードで合ってるよな」
「お、やったね。喋ってくれた。そうそう、ご存知の通り僕はロードだよ」
「そうか」
と、言葉では納得はするけど、すぐにはそうとは思えない。まるで外国人が日本に観光に来たみたいな出で立ちだ。
朗らかな笑みを浮かべていており、とてもじゃないけど、あの獰猛な、獣のようなロードと同種とは考えられない。
「お前は誰かと契約してるのか?」
質問を続ける。
今は情報を集めないと。
「さっきからお前って……僕にもナザリって名前があるんだけど。あ、質問に答えると、契約はしてないよ」
「何? なら――」
「言わなくていいよ。ならどうしてここにいられるのかって話だよね。あ、もしくは魔力を補給するために誰か襲って喰ったのか……ってところかな?」
ナザリと名乗ったロードは愉快そうに笑う。
「実を言うと、まだここに来て人間たちを襲ったことはないよ。人間たちからちょーっとずつ魔力を貰っているだけさ。ああ、心配はいらないよ。そんな命に関わるほどの魔力の量は取ってない。せいぜい体にほんの少し疲れが溜まる程度さ」
「貰っている?」
「君だって、体験したことあるだろう?」
体験? そう言われてすぐに思い当たる節があることを思い出した。……あのロードの影みたいな鞭のことか。
てことは、コイツ……そうか。
「……見てたのか?」
「かなり遠目からだけどね。まあ、この方法ができるロードは限られていると思うけど」
……マジか。じゃあ、やっぱりレーヴェの存在はコイツに知られてるということになるのか。
コイツが本当に見てたとしたら、言い方的には多分あの跡地での出来事だろう。けっこう前々からバレてたんだな。もしくはアイツと仲間という可能性もあるのか。
って、ちょっとずつ魔力を集めることができるロードは少ないのか。確かに、レーヴェも俺の躰に入らなかったらそのまま死んでいたらしいし。
そして、俺のそんな思考をよそにナザリは話を続ける。
「僕もアレと似たような力を使っているだけさ。まだ騒ぎは起こしたくないしね。それにしても――――君のその姿、そしてこの魔力。君と契約しているロードはやっぱり女王なんだね。もしかしたらそうかなーって予想はしてたけど、こう直に魔力の圧を感じると、うん、なかなかのモノだ。……おお、怖い怖い」
何ともわざとらしい口調だ。
ってか、普通にレーヴェのこと知ってたな。というより、圧? 魔力の? どういうことだ。……俺は特に何もしてない。今のところはただ立っているだけだ。……レーヴェがこう、威嚇でもしているのかな。
それにしても、さっきからナザリめちゃめちゃ喋るな。お喋りすぎないか。俺からしたら情報ほしいし、ありがたいと言えばありがたいけども。
「まあいい。それで、わざわざ呼んだ理由を訊かせてもらおうか」
臨戦態勢に入りながら質問する。
「それはもちろん――――君と話がしたかったからさ」
「……あ?」
話? 誰と? コイツと? ……俺と? それともレーヴェ?
君は誰を指してる?
「話だよ、おはなし」
「……初対面だろうが。いきなり何言ってやがる」
「やだなー。そんなこと言っちゃう?」
な、なんだコイツ……。超面倒くさいぞ。
「…………ひどいなー、もう」
「…………ッ」
それでも、伝わる。ナザリから漂うこのドス黒い雰囲気。
ケタケタと笑い、無邪気なように振る舞う。自分は無害だと演技をしている。
例え俺がレーヴェの力を持っているとしても、自分は殺られないだろうという自信だろうか。それは子どものように。それは恐怖を知らない異常な何かのように。
――――無邪気だからこそ、より一層伝わる。
確かに今コイツは笑っている。けれど、それは作り物の笑み。それが嫌でも分かる。目が確実に笑っていない。
笑顔に隠された悪の感情。怒り? 憎しみ? 恨み? その正体は分からない。しかし――――確実に俺らを敵対視しているのは理解できた。
「で、話って?」
気圧されないよう、俺も話を続ける。
「うーん、まずはそうだね。どうしてアレと戦うことになったの?」
「アレって言うと……あのロードか」
「そうそう。僕が見たときはただ襲われているだけだったけど。どうせあのあとも戦ったんだろう? そうでなきゃ君が生きていられるわけがない。人間は僕らと比べて格段に脆い存在だからね」
随分と、失礼なこと言うな。まあうん、その通りだけども。レーヴェがいなかったら俺はここにはいないだろう。
それと1つ気付いた。この言い草だとあのロードとの決着は見ていないのか。俺がこの姿になって、戦ったあの時間はコイツには見られていない……? いや、それはまだ分からない。コイツが適当言っている可能性もある。
腹の探り合い。何とも嫌な時間が続く。
「まあ、確かにお前の言う通り戦ったよ。どうしてかと言われたら……そりゃ最初は巻き込まれただけになる」
「ふぅん。つまんない回答だね」
「お前から訊いておいて……なんだそれは」
気怠そうに返答するけど……これどうするのが正解なんだ。
ナザリは確実に俺らに向けての敵意がある。しかし、まだ襲ってこない。元よりそういうつもりがないのかもしれない。前みたいに襲ってきたらもちろん反撃するけど、今はまだ判断がつかない。そもそもあのロードは俺以外ににも人を襲っていたからな。
コイツが動いたらすぐに反応できるようにはしないと。
「とはいえ……うん、やっぱりいいね」
そんな俺を見透かしたように笑顔を保ちつつ楽しそうにしている。
「あ?」
「こう話しながらも君は警戒を解かない。いつ僕が君に攻撃しても反撃できるようにしなきゃみたいなこと思っているでしょ?」
「――――ッ」
「あ、図星かな? アハハ、そのくらい君の眼を見れば分かるよ」
クッソ、バレバレだったか。
「……で? 戦うのか? 俺たち」
「それは君次第じゃないかな」
「どういう意味だ」
「そうだね……今の僕はここに来てから一切人間に手出しをしていない。ちょっとだけ魔力を奪っただけ」
「それが本当か嘘かは分からないが、そうらしいな」
「そこは信用してほしいかなー」
イラッとくるけど話を続けよう。
「まあいい。それで、人畜無害なお前は俺を呼んだんだろ。話がしたいとかいっておきながら、何か別の目的があるんだよな? でなきゃコソコソ生きてきた奴がそんな大胆なことしないだろ」
俺も負けじと矢継ぎ早に攻め立てる。
ただでさえ分からないことたまらけなんだ。このままペースを握られるわけにはいかない。
「うんうん。その通り。確かに僕はコソコソと隠れながら生きてきた。それに間違いはない。でも――――これからは違う。君の返答次第では……誰かが死ぬよ」
「…………というと?」
返事が遅れる。緊迫感が伝わる。空気がヒリつく。細胞がザワつく。
ナザリのこの言葉に嘘偽りはない。本当だ。それが分かる。
死ぬ? 誰が? ……分からない。でも焦るな。落ち着け。
「まあ、君を呼んだ理由がおはなしってのは建前。さっきまで長々と語ったけど、僕の目的は知っての通り君だよ。……いや、女王の方か」
「レーヴェに?」
……レーヴェの奴、お前コイツに何したんだ。
つーか、コイツ見つけてから随分と静かだな。俺に話しかけてこない。
「――――うん。そうだね」
「……ッ」
そう内心若干呆れていると、返事と同時に目の前のナザリの雰囲気が途端に変わる。
笑顔の裏にあるマイナスの、悪の感情が徐々に表に現れ出した。これは何だ。……殺気?
「まあ、詰まるところ――――ちょっとした復讐だよ」
そして、理解した。……俺はまた戦わないといけないということに。
リアルがわりと忙しくてなかなか書けないです……
そして、最近プリズマ☆イリヤを全巻揃えるのを目標に買い始めました。あとはツヴァイだけだ。あの世界はかなりFateしていて好きだなぁ
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