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無色透明のトロイメライ  作者: 皐月凉
1章 空っぽの人間から
3/62

2話 何気ない日常を

 サイレンに多少気を取られながらもあれから10分ほど歩き、俺の通う高校、椿坂高校に着いた。

 下駄箱で室内用の靴に履き替え、自分の教室までのんびり移動する。

 自分のクラスである2年2組のクラスは40名ほどいる。俺が教室に入った時間が始業10分前ということもあり、もう半数以上の生徒が集まっていた。

 特に誰とも挨拶するわけでもなく、荷物を下ろし、授業が始まるまで寝ようとすると――


「よう、黒江。おはようさん」

「おはよう、鬼塚。随分と早いな」

「まぁな。朝練あるし」

「そりゃお疲れ」


 さっき凪との会話で話題に出た俺の唯一と言っていい友達、鬼塚竜一が声をかけてきた。

 部活をこれっぽっちもやったことのない俺とは対照的に中高共に水泳部でかなりの結果を出している人間だ。


「てか、朝から泳ぐのか?」

「さすがに朝からはしないってば。走って体力作り。そこは黒江とは変わらないな。どう? お前も泳ぐか?」

「不恰好なクロールしかできねぇぞ」

「あぁー……そうだったな。ったく、体力は俺より多いくせして、球技のセンスなし、泳ぎもぶっちゃけ下手。なんか微妙なスペックだよな」

「俺が一番自覚してるっての。とはいうがな、泳ぎに関しては学校のプール授業でしか泳いだことないんだぞ。常日頃から泳ぎまくっている鬼塚と比べられても困る。球技は……まぁその、なんだ……苦手だな」


 サッカーのドリブルをまともにできないし、野球ではボールを投げる飛距離はあるのに、狙った場所からそれなりに外れる。バスケなんてかなり酷い。水泳一筋の鬼塚に負けるくらい。持久走なら勝てるが。てか、そこしか勝てない。持久走なら学年だけでもトップに入る。


「前から思ってたけど、なんで陸上部に入らないんだ? お前ならけっこういいとこまでいくだろ」

「別に俺そこまでして走りたい訳じゃないんだが。それに、わざわざ他人と競いたいとか思わん」

「毎朝5km走ってるくせにか?」

「なんつーか、あれはただの習慣。逆に朝走らないとスッキリしないことが多いまである」

「よく分かんねーな」


 と、鬼塚は元は黒い髪だったが、日に当たりすぎて若干茶色くなってした髪をかきむしる。


「そういや話変わるけど、宿題やったか?」

「宿題……古文のか? 一応済ませたが」

「そうそう。俺さー、部活忙しくてまだ終わってないんだよ。あと半分くらい」

「つまり見せろと?」

「イエース!」


 なんだそのテンション。


「後でなんか奢れよ。アイスとか」

「ケチくせぇな」

「世の中ギブアンドテイクだろ。労働には正当な報酬が支払われるべき」

「報酬って……アイスがか?」

「まぁ、宿題見せるくらいだったらそんなもんだろ」

「ま、そのくらいなら」


 カバンから古文のノートを取り出していると――


「あ、あのっ、く、黒江君」


 誰かに呼び止められた。

 顔を上げると、目が前髪によって少し隠れていて、全体的に髪の長い女子と目が合った。オドオドとしている感じの人。


「え、えーっと……」


 だ、誰だ…………? ヤバい、クラスの奴らの顔と名前が一致しない。一致するの鬼塚くらいだわ。いや、見覚えはあるんだ。こんな雰囲気の人がいるなー……くらいは。それが誰かと聞かれると……何も出てこない。


「九条さん、どうしたの?」


 鬼塚が助け船を出してくれた。九条さんね。覚えた。下の名前は分からないけど。


「あ、お、おはようございます、鬼塚君。えっとですね、その、黒江君が今日日直で……」

「…………え? あ、ヤベ、忘れてた」

「アホか」

「返す言葉もごさいません」


 完全に頭から抜けてた。


「ごめんなさいごめんなさい。えっと、日誌は……」

「私が取りました」

「あ、それはどうも。日誌はもう全部俺が書きます」

「そこまでは大丈夫ですけど……。私も書けるところは書きますので」

「マジですいません。他にやることは……?」


 ちょっとテンパっている。どう見てもオドオドしてるのは俺の方だ。


「でしたら、移動教室の鍵をお任せしていいでしょうか?」

「はい、もちろんです」

「ありがとうございます。何かありましたらまたお願いします」


 礼儀よくお辞儀をしてから、九条さんは自分の席に戻った。


「黒江……なーんでお前俺と話すとき以外敬語になるんだよ。人見知りか」

「がっつり人見知りだよ。分かってんじゃねーか。知ってて言ってるだろうが」

「当たり前。お前学校で俺以外とロクに話さねーからな。つか、人見知り直せよ」

「簡単にできたら苦労しないってば…………」


 少し頭を抱える。

 全然知らない人と話すとき、ホントにテンパる。これがマジで見知らぬ人とかならともかく、同じクラス人だと向こうは俺のこと名前くらいは知ってるから変に意識してしまう。


「うーん……」


 あれ、なぜか鬼塚が唸ってる。


「おい、今さら忘れ物に気付いたか?」

「違う違う。九条さんが誰かと喋ってるとこ初めて見たなーって」

「そうなのか?」

「よく机で本読んでるとこは見かけたけどな。そこは黒江と似たようなもんだ」

「やかましいぞ。……まぁ、物静かな人ってことだろ。俺の場合、特に誰かに話しかける必要がないから黙ってるだけで。向こうも似たようなもんでしょ」

「なるほどな」


 で、今回俺が日直忘れてたからわざわざこっちに来て話してくれた、と。ホントすんません。


「まぁ、いいや。今日の昼一緒に飯食おうぜ」

「いいけど……いつも部活の面子と食べてるんだろ?」

「いつもってわけではないぞ?」

「そうなんだ。ていうか、いきなりどうした? 部活で何かいざこざでもあって気まずいとかか?」

「いや全く。ただ、何となくだよ。それに黒江いつも1人で食ってるからな。とてもとても可哀想で……」


 わざとらしく泣き真似してくる鬼塚に若干呆れながら突っ込む。


「……別にそれが苦とかないんだが」


 弁当1人で食べるとか、周りがとやかく言うかもしれないけど、それが当たり前になったら何とも思わない。


「まぁいいじゃないか。たまにはよ」

「んー、それもそうだな」


 そうこうしているうちに、キーンコーンカーンコーン…………。と、チャイムが鳴る。


「じゃ、次の休み時間にノート返すわ」

「はいよ」





▽▽▽▽▽▽▽▽▽



「連絡はこんな感じかなー。はーい、みんな今日もお疲れー」


 授業終わりのHRで、先生が連絡事項を色々と喋った後。


「あ、ゴメンだけど、日直の2人はこの後荷物運ぶの手伝ってほしいから職員室来てね。じゃ、みんなまた明日ー」


 その一言と共に、生徒たちは口々に「さよならー」と言い、教室から去っていく。


「じゃなあ、黒江。部活行ってくるわ」

「おう。部活頑張れよ」

「ふっ、言われなくても。そっちも雑用ファイトな」

「そんな量もねぇだろ」

「だろうな。あ、ノートサンキュー」

「報酬期待しとくぞ」

「オーケー」


 軽く雑談してから鬼塚は部活仲間と合流しに行った。

 昼頃、あいつと飯食っている時には、練習キツいだの、朝から早いだの、愚痴っていたが、泳ぐのは本当に好きみたいだ。それでかなりの……大会でもよく分からんが、結果出してるからな。たまに表彰されてる姿を見たことがある。


 まぁ、物事好きや成功という感情がないと長く続かないと思うがな。失敗を続けるといつか冷めてしまうと思う。無理矢理続けようとすればできるけど、モチベーションは上がらないだろう。

 ……そうしてる場合じゃない。職員室行かないと。


「あ、黒江君……」

「すいません、九条さん。お待たせしました。職員室に行きますか」

「は、はい」


 別に問題なく普通に話せてるよな……? 同級生に敬語が普通じゃないとか思わないでもないが、放っておく。

 それから会話せず、お互い無言で職員室まで歩く。


「いきなりごめんね? ちょっと荷物あってさ」


 赴任してから5年目らしいまだ若い女性の先生、夏木先生がパソコンを使ってる手を止めて話し始める。ちなみに担当は英語。


「このノートなんだけど、教卓に置いておいてくれない? 私だけだと一気に運べなくてね」


 あ、これ今日の授業で回収した古文のノートか。返却早いな。


「分かりました」

「あ、はい。運びます」


 さて、40冊はノートあるし……さすがにそんなには九条さんに持たせるわけにもいかないよな。30冊は持つか。よし、イケるイケる。これなら1人でもイケる気がするが。


「残りお願いします」

「ありがとうございます。その、大丈夫ですか?」

「平気ですよ」

「お、力持ち~。教室は後で閉めておくから鍵開けといていいよ。ノート置いたら早く帰りなさいね。近頃物騒だから」

「はい、分かりました」


 物騒……? 何のことだか。

 それは放っておいて、俺は簡素に返事をしてから、職員室を後にする。

 これといって問題はないけど、運んでて若干視界が遮られるな。職員室から教室まで階段登ったり、渡り廊下渡ったりするから心許ない。


「っと、着いたか」


 教卓にノートを置き、肩を回す。


「あ、黒江君。お疲れ様です」

「あぁ、いえ、はい、大丈夫です」


 もう少しマシな反応できないものか。


「すみません、ノート沢山持ってもらって」

「このくらいなら特に問題ないんで、気にしないでください」


 むしろ、女子である九条さんが俺より多く持つとか、こっちの精神がキツい。

 さすがに仮にも男として情けない。……仮にも? いや、俺はどう見ても男だわ。仮にもって言葉変だな。


「じゃ、俺は帰るのでお先に失れ…………って、あれ?」


 ふと、2階にある教室の窓から校門辺りを見下ろしたら、部活に励んでるはずの人たちがもう帰宅している。テスト休みはまだのはずだし。運動部文化部問わず下校している。雨降ってる訳でもないよな。……あ、鬼塚もいる。


「皆さん、帰ってますね」

「……ですね。九条さんは部活は?」

「してないです。黒江君も……ですよね?」

「はい。あれ? 今日休みとか連絡あったっけ……」


 夏木先生は部活休みについて何も言ってなかった。

 帰宅部の俺が気にすることでもないんだけど、どことなく気になる。


「えーっと……先生も早く帰りなさいって言ってましたし、私たちも帰りましょうか」

「そう……ですね」


さっさと下駄箱に移動して靴を履き替える。

校門で九条さんと別れの挨拶を済ませ、朝聞いたサイレンがした辺りの方向へとぶらぶら歩き始める。


 こういうときネットで調べられたら楽なんだろうけどな。俺ガラケーだからネット使用料かなりかかるから滅多に使わない。とはいえ、クラスの奴らも何か朝の噂をしていた人はいなかったような……。まだ情報が出回ってなかったとかか? 

 あぁ、物騒ってこれのことかな。やっぱり何かしらの事件があったのだろうか……。


少しずつ話の展開を広げたいと思います。

わざわざ読んでくれた方、ありがとうございます。宜しければ感想や評価などしてくれると嬉しいです!

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