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無色透明のトロイメライ  作者: 皐月凉
1章 空っぽの人間から
19/62

18話 静かに変化する前触れ

 九条さんと話した翌日。

 朝走ろうといつも通り朝早くに起きたら――――


「うっわぁ……」


 スゲぇ雨。なんだこれ、どしゃ降りじゃないか。そういや予報見てなかったな。こんなにとは……驚いたわ。いや、夜薄っすらと雨の音がしたような気はするけど。

 わりと近くに川があるし氾濫とか怖いな。あそこの堤防かなり高いから心配いらないかもだけど、やっぱり怖いものは怖い。

 にしても……こんな大雨とかマジかよ。面倒だな。風もかなり強い。これじゃさすがに今日は走りには行けないな。まあ仕方ない。よし、二度寝するか。目覚ましをかけ直してと。


「…………」


 ――――そしてしばらく経ち、再度目覚ましが鳴る。

朝飯の時間になった。やっぱり二度寝はいいな。普段しないからこその貴重さがある。っと、リビング行くか。

 あ、リビングには陽太郎さんと奏さんがいる。随分と陽太郎さんのんびりと飯食ってるな。俺も食べるか。


「おはようございます」

「おはよう、葵」

「おー、葵。よく起きたな。もうちょい寝ててもいいんだぞ?」

「ん? どういうことですか? あ、いただきます」

「今警報出てるわよ。予報見てなかったの?」


 テレビの気象情報で確かに天生市に警報が出ている。


「予報?」

「早めの台風よ。今日1日はこんな感じ。夕方には落ち着くかもね」


 ……おう、マジか。道理で昨日天気悪かったわけだよ。確かに九条さんと別れる辺りでけっこう曇ってたな。


「って、警報か……」

「そう。大雨に暴風。波浪は……関係ないか。もうちょい南行かないと海ないし。この調子じゃ多分午前の間は解除はされないだろうから今日はお休みね。ホームページでも確認したわ。この区画一帯の学校は休校だって」

「だな。だから凪はグースカ寝てるぞ。部屋で警報やら調べたんだろ」

「また休みか。陽太郎さんたちはどうなんです?」

「俺はなぁ……そもそもあそこのライナーが止まってるから仕事に行けないな。会社からも出勤はするなってお達しが来たんで休み確定。むしろ社長が社員含めて一番遠くに住んでるから今日は休みにせざるを得ないって感じだ」

「あの人もう少し近くに住めばいいのにね。他県から来てるのよね?」

「今住んでる場所が気に入ってるんだと。お子さんもまだ小さいしな」

「どうしてそんな場所に会社建てたんですかね……」

「土地代だってよ。ここら他の都市部に比べるといくらか安くあがるらしいし」

「あー、あの地震の影響ですか」

「多分な」


 それもあるだろうし確か陽太郎さんの会社は北の方のはず。ここからだと車かライナーで川を越えないといけない。あそこ南に比べればそれなりに田舎だよな。

 会社として活動するなら大変そうだ。都市部だと交通の便とかあるだろうしそっちの方がいい気がする。……まあ、今の時代ネット使えば問題ないかな。テレビ通話とかもあると聞く。俺は使ったことない。


「奏さんは仕事あります?」

「私は特に今日はシフト入ってないからね。ゆっくりするわよ。洗濯物もどうせ乾かないし久しぶりに乾燥機使おうかしら……。でもあれ嫌いなのよね。使ったら変な匂いつくし、電気代かかるし……」


 というより最近学校休み多くない? ロードの騒ぎもあったことだし。今日は木曜日だから明日学校行けばまた土日で休みが入る。


「どうする? 飯食ったらまた寝るか?」

「さっき二度寝したんで変に目が冴えてるんですよね。ぶっちゃけあんまり眠くないんで起きておこうかなって。何か家事とかあれば手伝いますし」

「その言葉、凪にも見習わせたいわ……」


 アイツは暇さえあれば寝るやつだからな。致し方なし。その割には夜遅くまで起きて絵を描いてるらしいし、夜行性かよ。生活リズム少しは整えた方がいいと思うんだがなぁ。


「俺も特にすることないしな。寝室で大人しくしておくか。何かあったら呼んでくれ」

「はいはい。といっても洗濯はどうせ乾燥機使うから干さなくていいわ。……背に腹は代えられないか」


 確かに俺も乾燥機使った後の匂い好きではないけど。


「昼のおかずももう作ったことだし他にすることは……じゃ、あなた、食器洗いよろしくね」

「ほーい」

「葵は……うーん、することないわね」

「分かりました。じゃ、また用事あれば呼んでください。……ごちそうさまでした」


 それだけ言い残し部屋に戻った。ベッドに腰をかける。


「さぁて」


 ……戻ったはいいが、することないな。今は8時か。うーん、眠くはないんだよな。だからといって勉強する気は起きない。テスト近いし勉強しないといけないのは分かっているんだがな。そんな勉強に対しての集中力はない方だからどうせ続かないのは目に見えているし。

 凪の部屋で何か本を数冊借りるかな。でもアイツ寝てるよな。さすがに入るわけにもいかないか。

 ここに戻る前にちょっとだけ凪の部屋のドアを開けたけど、とても気持ち良さそうに寝てたからな。起こすのもアレだし、いくら妹とはいえ部屋にがっつり入る勇気はない。普通に迷惑だしな。


「どーしよっかなぁ……」



▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼



 なんてのんびり本を読んだり、起きてきた凪と話したりと適当に過ごしてるだけで時間は経ち、警報で休校になった日は終わりを告げた。

 そして朝。もう台風は通り過ぎていきすっかりと晴れ……ではないな。まだ若干曇ってる。風も普段よりかは強い印象。台風のせいか元々天気が荒れてたのか……それは知らない。

 まあ、雨は降ってない。さて、走りに行くか。

 外に出たけど……ううっ、やっぱり風強いわ。もう夏に近いし寒くはないけど、曇ってるし……雨は降らなさそうかな。まあいいや。さっさと走ろう。


「……ふぅ」


 いつも通りの5km、走り終えた。

 昨日の台風のせいで河川敷めっちゃ濡れてて走りにくかったわ。途中何回か足滑らせちゃったし……危なかった。靴も水たまりのせいで染みるし、雨とか降った日の翌日は走るのに向かないよな。

 晴れの日も夏辺りだったら暑すぎるからやっぱり雨が降らない曇りがいい。冬とかの寒い日はまだ日差しがあった方がいいかな。

 そんなことを思いながら家に帰宅。シャワーを浴びてから朝飯を食べる。

 今日は珍しく凪が寝坊せず起きてきたので一緒に途中まで登校することに。


「ねぇねぇお兄ちゃん」

「どうした」

「最近さ、お兄ちゃんに友だちできた? 前話していた男の人じゃなくて」


 家を出て俺らが別れる交差点までの道中、凪から話しかけてきた。

 ……いきなり何の話だよ。驚くんですけど。あー、でも、世間話とかそんなもんか。


「……で、どうしてそう思った?」

「だってさ、前にお兄ちゃん本屋で本買ったよね。それも今月発売された新刊」

「いやうん、買ったけど」

「それってかなり珍しいよね。お兄ちゃんがわざわざ本屋で本を買うという行為が」


 そうか? と言いそうになるが、実際に珍しい部類に入るから強く言い返せない。


「いつもなら本読むのに図書館とかで済ませるのに。――――ずはり! その本は誰かに勧められて買ったと見た! だって、お兄ちゃんネットとか見ないし、オススメとか流行りとかそんなに詳しくないでしょ」

「確かに、本屋寄ったときにオススメとかの宣伝や新刊コーナー見るくらいでしか流行り分かんないけどさ。それだけでよくそこまで発想飛ばせるな」

「お兄ちゃん基本新刊とか気にしない人だからね。読みたい本を読むタイプでしょ? で、特に好きな作家さんはいないって話てたことあったから狙って新刊買うのは不思議だなって。それで誰かに勧められたのでは? と思ったんだよ」


 …………凪の推理、スゴいな。なんかやたら的確なんだけども。


「前話していた人はかなりの運動系の人らしいし、本勧めた人はまた別の人かなぁって」

「随分とまあ、鋭いな」


 妹の洞察力が凄まじい。


「およ? 正解?」

「一応は凪の言う通り、勧められて買った本だよ。友だちかどうかはまだ微妙なラインたと思うがな。なんつーか……普通に知り合ったクラスメイトだよ」


 どこから友だちと呼んでいいのか俺には区別ができません。威張れることじゃないけどな!


「まーた難しく考えるんだから。それでそれで、そのクラスメイトって女の子? 女の子なんだよね?」

「なぜ限定する……。ってか、近い近い」


 なぜか目を輝かせてこっちに近寄ってくる。ドキッとするから止めてほしい。


「で、実際どうなの?」

「……女子だよ」

「おぉー! やるね、お兄ちゃん。ついに女の子の知り合いができるとは。女っ気ゼロだったお兄ちゃんが……」

「だから近いって。離れろ。つか、お前も男っ気ゼロだろ」

「やーん。お兄ちゃんのいけず」


 凪を引っ剥がす。暑苦しいです。そしていくら妹とはいえそんな近くだと変に緊張してしまう。恥ずかしいです。

 そりゃまあ、俺に女子の知り合いができるとは珍しいけどさ。なに? 親心でも発揮したの? そういうお年頃?


「お前な……外では俺並に人見知りするくせしてそういうことろでは食い付くのか」

「それは言わないお約束」

「ったく……」


 自分は棚に上げるその姿勢……どこから来るんだか。


「それと! 図書館で本借りるのはいいけど、たまには本屋で新しく買った方がいいと思います」

「…………いや、今度は何さ?」


 また急に話ぶっ飛んだな。


「図書館で借りるのは確かに安くなるけど、きちんと本屋で買わないと作者にはお金が入らないからね。そこのところ、分かってる? 作家だって生活があるんだからなるべく本屋で買う方がいいのだよ」

「そりゃ多少は理解してるけども」

「その割には図書館とかで済ませるよねぇ」

「ライトノベルやらを買ってる凪はそうかもしれんが、俺の場合、作者が生きてないこともあるから。昔の何十年前の本とか。そういうのだったら、そもそも本屋にないこともあるし、図書館で借りた方がいいんだよな」

「そう言われるとそうだけどさー」

「つか、話題の方向転換急すぎないか?」

「ん〜、そう? まあ、お兄ちゃんが本屋で新刊買ったって言ったから思い出したしね」

「全く……。たまには本屋でも買うことにするよ」

「おお! だったら私のオススメする本買って?」

「それ凪が読みたいだけだよな?」

「……あ? バレた?」

「調子に乗るな」


 なんて適当に凪と会話を積み上げていく。

 

「じゃ、私はここで。帰ったらまたその女の子のことについて聞かせてね〜」


 そうこうしていると、いつもの交差点に着いたので凪と別れる。

 身内のゴシップってそんなに気になるのか? 

例えば凪に彼氏ができたとして…………うーん、何だか変な感じがする。モヤモヤって表現が正しいのか?

 これは……嫉妬? というより、あれだな――凪に彼氏ができる、その前提がまず思い浮かばないな。これっぽっちも想像つかない。

 だって凪だぞ? 俺と初めて出会ったときはずっとビクビクしてたし、初対面が相手なら必ず目を合わせることができないような奴だぞ。店員と話すときとか俺の後ろに隠れる人だからな。っていうか、それだと俺もけっこうキツいんだけどな。

 俺と接しているときと比べても想像できないけど。


「…………まあいいか」


 人の考えなんて分からないもんだ。家族なら尚更だ。ずっと一緒にいるのに考え分かったら怖いもんな。にしては、凪に新刊買っただけで凪が色々と見透かしていたな……いいや、別に。それは置いておいて。

 何を思おうか、そんなの凪の自由だ。……できれば、俺を巻き込まないでほしいが。

 よし、凪に考える言い訳やらは後で考えるとして、さっさと学校に行こう。





 ――――――――そして、俺の気持ちとは裏腹に、運命の歯車は今日を境にさらに加速して狂い始める。







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