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無色透明のトロイメライ  作者: 皐月凉
1章 空っぽの人間から
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10話 まだ寒い朝

「……あー、ねむっ」


 朝5時にアラームが部屋に鳴り響き、ボーッとしたまま目が覚める。

 ベッドから降りてちょっと体を伸ばす。そのままの流れでジャージに着替える。

 着替え終えたらいつも通りの習慣、走るために軽く準備運動をする。屈伸して、アキレス腱伸ばす。


「…………ふぅ」


 最後にじっくり腰を捻りながら体をほぐす。

 よし、まあこのくらいでいっか。

 昨日、帰ってきてわりとすぐに昼寝した時はレーヴェのせいで全然疲れ取れなかったけど、今回はきちんと寝れた。けっこうぐっすりと。疲れはそれなりに取れた。眠さは……多少はあるけど、まあ問題ない。これはいつも通り。


 ただ……やっぱり昨日あのロードに攻撃された痛みは残ってる。怪我はないし、特に目立つような痕もないが、内部がまだズキズキする。とりあえずは内出血とかになってなくて良かったと、安心する。もしあったら、奏さんたちに見られたら説明が大変だ。餘迷惑かけたくないしな。

 普通に動く分には別に問題ないけど、長距離走る……というより運動するのは若干キツい気がするな。準備運動している時も少しずつ痛みがあったわけだし。

 どこが痛いっていうと……なんつーか、全体的に? 

 まあ、といっても、どこまで動けるか分からんからな。様子を見ながら走るとするか。いつもの5km走れるかなぁ。ゆっくりなら何とかなる……かも。ま、無理は禁物ってことで。


「……って」


 なんかいつも通り起きてもう走る準備できてるけど、今日走っても大丈夫か? 一応は殺人犯がいるから学校休みになっているのに、黙って走っていったら奏さんたちに怒られないかな。この時間帯、奏さんも陽太郎さんも寝ているし基本は黙って走ってるけど、さすがに控えないとなぁ……でも走らないと調子出ないしなぁ。


「…………うん」


 さっさと走りにいこう、そうしよう。

 さっきは奏さんたちに迷惑はかけたくないって思っておきながら、これはどうかと思うが、たまにはこのくらい大丈夫だろう。どうにかなるはず。

 顔を洗ってから足音たてずにソーっとドアを開け閉めする。


 空を見上げる。今日は曇りか。雨は予報では降らなさそう。それは助かる。降ったら走るどころじゃないもんな。

 にしても、曇りっていいよな。走るのにベストな天気だと思う。

 何度か昼間に走ったことあるけど、昼の日差しってなかなかキツいんだよな。おまけに夏は暑いし。その点、朝は涼しく例え晴れていても特に日差しはキツくない。走る時間帯ならやっぱり朝が個人的にベスト。冬はあれだ、朝は特に寒すぎるけどな。一長一短。

 そんなことを考えながらのんびり河川敷まで歩きながら移動する。


 周りは静かだ。こんな朝から走るなんてかなりの物好きしかいない。

 たまに俺と同じランニングしている人やロードバイクで走っている人を見かける程度。それも毎日じゃない。まあ、基本は趣味で走っている人が多いだけで、仕事とか用事がある人は毎日走るのは厳しいんだろうな。

 ここには自分だけしかいない。そんな空間が心地良い。


 ……って、やっぱり体が痛いし、ゆっくりのんびり走ろう。

 そして、走り始めて10分ほどが経つ頃。

 走った距離はだいたい3kmかな。仕方ない部分はあるけど、案の定スピードが出ない。痛みが出ないようかなりスピードは抑えているからな。別に誰かと競っているわけでもないし、たまにはこういうのんびりしたのも良いだろう。


 ――――それからどの程度時間が経ったのか気にせず走った。


「あー……やっちまった」


 スピードを落としながら止まり、落ち着くためにゆっくり呼吸する。で、状況を確認して……頭を抱える。

 ここの河川敷は片道だいたい10km近くある。俺はいつも河川敷のだいたい中間地点から走る。そこから途中で折り返して合計で5kmになるよう走っているんだけど……端まで来てしまったなぁ。

 適当にのんびり走りすぎた。ここまで走ってたの全然気付かなった。5km走ったか。


 今から引き返して戻るのか。…………面倒だな。さすがに合計10kmはキツいぞ。いつもはそんなに走らないしな。億劫になるな、これ……。いつもの倍は走るのか。

 なんで今日に限って……というが、あれだな、ゆっくり走ってそこまで体力使わなかったからいつの間にかここまで来ていたことになる。それでもアホすぎる。少しは気付けよ。途中の景色とかでさ。


 好意的に解釈すれば、スピードは遅くても、頭からっぽにして集中しながら走れたってことか。……自分で言っててなんだが、さすがに無理あるな。

 もういいや。戻ろう。うん、ちゃっちゃと走るか。それなりに走ったからどの程度のスピードまで出せるか感覚で何となく分かる。といっても、まあ、そこまで速くないが。これだと鬼塚に負けるな。

 引き返してから3、4km地点まで移動する。……けっこう疲れてきたな。いつもはここまで走らないし。よし、もう一踏ん張り……と足を踏み出そうとしたが、そこでふと足が止まる。


「…………あれ」


 行きは気にしてなかったが、河川敷から少し離れたところにあの跡地がある。昨日、俺が襲われたからあの場所。いつもなら素通りしていたが、今の俺はそうはいかない。目につくと意識してしまう。


 余談だが、ここの正確な名称は『天生市旧椿坂公園跡地』とかいうらしい。帰ってから調べた。要するに、ここは地震で燃やされる前はわりと広い公園だったと。今ではただの草原だが、昔は遊具でもあったのかね。もう公園とは思えないような場所だからな。


 …………それは置いておいて、寄ってみようか。アイツがここにいるかもしれない。縄張りにしている可能性だってゼロじゃないからな。確認するだけ。それだけ。いたからと言って俺がどうこうできるわけがない。ちょっと覗き込んですぐ帰る。ただの好奇心だ。

 河川敷から離れて跡地の入り口に近付く。中をチラッと覗くけど……見当たらないよな、そりゃ。もうちょい踏み込んでみるか……?


「…………」


 草原にある程度入る。

 入ってからしばらくジッとしつつ辺りを見渡すが――――


「……まあ、いないよな」

 

 ポツリと呟く。

 周りには誰もいない。まだ6時にもなってないのだから当然だ。普段もここは、ほぼほぼ人がいない場所だがな。そして、あのロードも姿形は見当たらない。だから、特に誰かに聞いてほしい呟きではなかった。

 しかし、そんな俺の呟きに反応する声があった。


『そうだね。ま、流石に早々出てはくれないかな。……もうとっくに移動した後かね。気配はない』


 凛とした、とても綺麗な声が頭に響く。

 

「だよな……って、え? あ、レーヴェか?」

 

 思わず流れで返事をするが困惑する。

 ……耳から声が聞こえてこない。この、脳に響く変な感じ……前にレーヴェが呟いた時と同じ。

 というか、この感覚は慣れないな。けっこう気持ち悪い。


『私しかいないだろ? 他に誰がいると言うんだね』

「そのくらい分かってるって。……ああもう、それはいいけど、急に話しかけてくるなよ」

『えー、無茶を言わないでくれ』

「無茶でも何でもねぇってば」


 いきなりすぎてびっくりしたわ。いやホント。


「今さらだが、こうやって話しかけることもできるんだな」

『何度かしたじゃないか。 といっても、ここまではっきり会話できるのは昨日君とじっくり夢で語り合ったからだけどね。今では一方的に話しかけるだけだったし』


 それもそうか。俺がレーヴェのことを何者か分かっていなかったらそもそも会話が成り立たないからな。


「あ、でも、昨日は思いっきり話してきたじゃん」


 ロードに襲われた時に『さっさと逃げろ』とかなんとか言ってくれたよな。


『あれはどちらかと言うと、注意喚起と思うけどね。私は君の返事受け取ってないし、君だって、まだ私を私と認識してなかっただろう?』

「あー、言われてみればそうだよな。あ、じゃあさ、俺から呼んだら返事とかしてくれるのか?」

『構わないが、周りに人がいない時にしなよ。周りからしたら、当然だけれど君の独り言しか聞こえないのだからね。色々と可哀想な目で見られるかも。ま、それはそれで私からしたら愉快ではあるけれど』


 なかなか心に攻撃してくるな。


「喧しいぞ。最近はぶるー……何だっけ? 確かそんな名前の無線機器みたいなのがあるはずだから、そんなに不思議な目で見られるかって言われたらまだマシだと思うけど。っていうか、そのサディスト発言どうにかしろよ……」

『自覚はないんだけどね』

「なおさら性格が悪い」


 まだ自覚がある方が幾らかマシだ。


『それと、君が言ってるのはBluetoothイヤホンやヘッドフォンのことだろ? スマートフォンやパソコン、他にもオーディオ機器を無線で接続できる機械……で合ってるはずだが』

「お前……詳しすぎないか?」

『凪ちゃんが使ってるのを見たことあるからね。見ただけで大まかな要領は掴めたよ。私は君みたいなアナログ人間ではないんでね。といっても、私自身は使ったことはないけれど』


 う、嘘だろ。けっこうショックなんだが。俺も少しはデジタルに慣れないと……。

 ん? あれ? 今レーヴェ、凪って言ったよな。


「そういや、凪のことも知ってるんだな。サラッと凪の名前出してたけど」

『うん? そりゃもちろんさ』

「俺の見ている景色をずっと眺めていたとか言ってたもんな」

『そういうこと』


 俺が黒江家に来てからずっとレーヴェと一緒にいたから、そりゃ当然凪や奏さんたちのことも知っているのか。これまた不思議な感覚だ。レーヴェには隠しごととかはできないんだな。

 と、ここで話を打ち切ってもう一度辺りをグルッと見渡す。


 風の音と木々の擦れる音、そして俺の呼吸する音しか聞こえない。


「まあ、アイツはもうここにはいないだろうし……帰るか」

『だね。それをオススメするよ。早く帰りな』

「おう。あ、それとさ」

『ん? 何だい?』

「話しかけてくるとき、できれば周りに誰もいない時で頼む」

『ふむ。善処しておこう』

「確約してくれ……」


 にしても、ロードには知性とかがあるらしいし、さすがにまた同じ場所ってのは単純すぎたか。だったら、どこに消えたのだろう。もっと別の住処でもあるってことかな。

 んー、だったら北の方だったり? ここよりかは自然が多いし、大人しくする分にはいい場所だろう。身を隠しやすそうだし。もしくは、もう天生市にはいない可能性だってあるな。


 そんなことを思いながら俺は跡地から去った。




1章終わるのに10万文字以上はいってみたい。キツいけど。一応それ目指してのんびり書いてます

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