8話 野宿しましょう
あれから魔術の習得が急務となり、歩いて素材採取して休憩中にレイの頭をナデナデしながら、どうしてカマイタチが失敗したのかを考えてみた。
あの身体の中で大きくうねったのが魔力とするなら、ひょっとして使った魔力の量が多すぎたんじゃないのか?
よくわからないままに試したので、身体の中のうねりをそのまま放出しちゃったものな。
もしかして、指先くらいの魔力で十分だったのではなかろうか。
となると、もう一度試してみたくなる。
けれど今度こそ被害が出なそうな魔術で。
明かりの魔術なんでどうだろう?
失敗しても眩しいだけだし。
でも一応、レイには目を閉じて貰っておこう。
「レイ、もう一度魔術を使ってみるから、いいって言うまで目を閉じておいてくれる?」
「……?」
レイは不思議そうな顔をするも、素直にギュッと目を閉じる。
うむ、美幼児はこうしているのも可愛い。
じゃなくて、早くしないとレイがずっとこのままだ。
「えっと、ほんの指先だけの魔力で、ライト」
指先の分だけをほんのちょっと押し出しつつ、自分も慌てて目を閉じる。
……あんまり眩しくないな?
ソロォリと目を開けると、僕の指先に電球程度の大きさの丸い灯りが浮かんでいた。
おお、成功だ!
「やった、考えた通りだった!」
喜んでいる僕のコートの裾が、ちょいちょいと引っ張られる。
あ、レイが目を閉じたままだった。
「レイ、目を開けていいよ」
合図と同時にパチリと目を開けたレイの前にしゃがみ、指先の光の玉を見せてやる。
「これが、ライトの魔術」
「……まぶしい」
まあ、間近で見たらそうだろうね。
今は夜ではないので灯りは必要ないから、この光の玉は消しておく。
これで夜も照明要らずだ。
そんなことをしつつ、キラードッグとの遭遇現場からしばらく歩いたところで、そろそろ日が落ちてきたため進むのはここまでとなった。
ちなみに、まだカマイタチの道は途切れていない。
どこまで行ってしまったんだ、カマイタチよ。
そんな風にちょっと遠い目になりながら、野宿の準備をする。
まずすることは、そこいらに散らかっている大木の除去だ。
これで鞄の中にだいぶん大木が溜まったな。
どこかで木材として引き取ってくれるかな。
そして今のところ、鞄が容量一杯になる様子がない。
ひょっとして際限なく入るタイプなのか?
それはともあれ、大木が無くなってスペースができたからテントを張ろう。
「えっと、テントはっと」
鞄から取り出したテントは、僕とレイが並んで寝るには十分なスペースがあり、外気を遮断する仕様で寒くも暑くもなくて快適だった。
「でも、あのキラードッグやイビルボアみたいなのが他にもいたら、夜がちょっと心配だな」
となると、悪いものを弾く結界的な壁が作れないだろうか?
魔術はイメージなんだし、全属性だからできなくはないと思うんだよね。
イメージはガラスみたいな透明な壁で、魔獣とか盗賊とか、こちらに悪意を持つモノを通さないようにする。
出来ればテントを中心に炊事する余裕のある広さが欲しい。
どのくらいの魔力をつぎ込めばいいかな?
でも安全に関してはケチらずにいきたい。
なので失敗カマイタチの半分くらいの魔力を使ってと。
「シールド」
そう唱えた直後、テントを中心にドーム状の透明な壁が出現した。
お、成功した! でもこれが本当に悪意を持つモノが入れないかは、襲われてみないとわからないか。
そこがちょっと不安だけど、無いよりはマシだろう。
「レイ、この壁の中は自由に動いていいけど、外には出ないでくれな」
そう言い聞かせると、レイはしばし首を傾げてからコックリと頷いた。
素直過ぎで、逆に本当にわかっているのか気になる。
でもまだ出会って一日経っていないんだから、コミュニケーションはこれからだよな。
焦らずに行こう。
テント周りの空間の確保ができたら、次にするのは食事の用意なんだけど。
正直あの味気ないミールブロックとドリンクは、切ない気分になるので避けたい。
鞄の中に、調理道具なんかあるかな?
「あ、鍋とフライパンがあった。あと食器がいくつか」
これなら、料理っぽいことができるかもしれない。
まずは火種の確保だ。
レイにも手伝ってもらって枯れ枝を集め、それをそこいらから拾った石で作った簡易かまどの真ん中に置く。
「さっきの光の玉の要領で、ファイア」
指先程度の魔力で魔術の小さな火を出して、枯れ枝に火を移す。
うんうん、魔術もなかなか使えて来たんじゃないか?
かまどができたところで、料理にとりかかろう。
ところでこの「料理」ってスキルは、どんなことができるうんだろうか?
「えーっと、料理のスキル持ちは手際が良くなる。
そして『抽出』や『攪拌』なんかの技が使えるようになると。
これも魔術と同じで、イメージで技が生まれるっぽいな」
レベルが上がるごとに、複雑な作業が技に進化するようだ。
これはなかなかやり込み要素がありそうなスキルだな。