82話 なんかがニョキニョキしてた
結果として、なにがあったのかはすぐにわかった。
なにせ振り向くと、それまでは視界になかったはずの、高い建物が見えたんだから。
え、どゆこと?
「なんだあれ?」
モーリスさんの口から漏れ出たのは、まさに僕の今の心境とシンクロしている。
しかしこの答えは、どこからも返ってこない。どうやら誰も答えを持っていないようだ。
けどなんか、すごくマズいことが起きている気がするぞ。
僕はそんな予感をおぼえつつ、とりあえず突然現れたように見える建造物を確認しに行こうと、そちらに向かって歩いていると。
「あ、レイ!」
なんと、向こうからシロを抱っこしているレイが駆けてきていた。
「アン!」
「……!」
レイは僕を見つけると突撃してきて、僕の足にピトッとくっつく。
「どうした? レイ」
僕がシロごとレイを抱き上げてやると、両手と両足を使ってムギュっと捕まってきて、僕とレイに挟まれそうになったシロが慌てて脱出して、僕の頭の上によじ登った。
僕と離れての行動は初めてだったけど、寂しくなったのかな?
けどレイ、それだとまるでセミみたいだよ。
でも見たところ、特に怪我をしているわけでもなさそうだ。
っていうか、一緒なはずのリュウさんはどこに行ったんだ?
「レイ、リュウさんはどこにいるの?」
僕がそう尋ねると、レイはしがみ付いた状態でモゾモゾとしてから、頭だけ動かして渋ぅ~い顔であの建造物を見る。
「あの、高い建物にいるの?」
「ニョキニョキして、上に行った」
レイは説明しているようだが、その説明が非常に謎だ。
ニョキニョキって、そんな植物が生えたんじゃないんだから。
ちなみに今僕たちがいるのは、アイカ村の中でも山賊被害が酷かったエリアだ。
ここから山賊が入り込んできたらしくて、まさにやりたい放題って感じである。
家屋が壊されているものの形は残っていて、暮らせないこともない家もあれば、火をつけられて燃えてしまった家もある。
ゴルドー山の麓という立地から林業が盛んなこともあり、家屋が木造であったのが、損壊が酷くなった理由と言える。
その代り、木材が豊富なので建て直しも容易であるというメリットもあるのだが。
けれど、家というものはそんなにすぐに建つものではない。
木材が豊富でも、それを使って家を建てる大工さんたちが修復や再建にてんてこ舞いで、人手が全く足りていないという問題が挙がっていた。
今は魔物問題が解決し、他の街や村から大工を呼び寄せることができるだろうから、これから状況が少しはマシになるだろうけど。
家が壊れた人たちは、家の形が少しでも残っていたら、なんとか工夫して住んでいる。
けれど全く住めそうにない人たちは、誰かの家にお世話になったり、野宿をして家の再建を待つしかない。
そんな場所に突如建ったのが、この謎の建物だ。
「これって、タワマンだよな?」
そう、近くで見ると、この謎の建造物がタワマン――タワーマンションに見えるのだ。
アパートだったら、ニケロの街でも木造のものがあったので、田舎の村だと珍しいだろうが、別段珍しいものではない。
そんなアパートとこのタワマンが違うことは、この世界では異質だけど、僕には見慣れている鉄筋コンクリート製っぽく見えることだろうか?
その鉄筋コンクリート製のタワマンの上から、なにかが落ちてきた。
って、リュウさんじゃないか!
タワマンの上から落ちているリュウさんは、あわや地面とぶつかるかというところで落ちる途中でスピードが落ち、やがてふわりと着地した。
着地の仕方がどういう現象なのか謎だけど、スキル的なものか、はたまたドラゴンの身体能力だろうと推測する。
「ふっ、我にかかればざっとこんなものだな」
一人満足気なリュウさんに、僕は詰め寄る。
「ちょっと、リュウさん! これは一体なんなんですか!?」
この質問に、リュウさんは顔をしかめる。
「なんなのだとは、我の方が言いたいぞ。
ヒトとは我の鼻息ひとつで死ぬほど、脆弱な生き物だというのに。
穴倉や掘っ立て小屋ですらない、ただの地べたで暮らすなど、なんという無茶をするのか!
これだとすぐにも死んでしまうのではと危惧してだな、軽く住処を建ててやったまでよ」
「建てた?」
って、どうやって?
この点をレイとリュウさんの二人からよくよく話を聞くと、なんとなく概要が見えてきた。
リュウさんが気の向くままに村を見て回っていると、村の一角の家屋がボロボロになっているエリアへやってきたんだそうな。
お目付け役としてちゃんとついてきていたレイに、「あれはなんだ?」とリュウさんが尋ねたので、レイは「わるいヤツがこわした」と答えたんだとか。
ここまでは、別段おかしなやり取りではない。
リュウさんは「なるほど」と頷き、一人何事かブツブツと呟いていたかと思ったら、急にリュウさんの足元からこのタワマンが地面からせり上がって来たと。
そういうことらしい。
話を聞くと、レイが「ニョキニョキ」としか表現しようがなかったのもわかる。
まさかタワマンを生やすとは、生体兵器おそるべし、だな。
そして、なんとなくだけど、レイのこのセミ状態の理由が分かった気がした。
いくらお目付け役を自ら買って出たとはいえ、レイにこのタワマン生やしを阻止するのは難しかっただろう。
むしろ、一体誰にだったら止められたんだ?
僕にセミみたいにくっついていたのは、寂しかったというよりは、お目付け役をちゃんとできなかった悔しさからだったのかも。
リュウさんのことを聞いたら、珍しく渋ぅ~い顔をしていたしね。
これは仕方ない、レイは悪くないよ。その代わり僕を探しに走って来てくれたしね。
いいこ、いいこと頭を撫でたら、レイはようやくセミ状態から脱して僕の足元へ自分で立った。
それでも、僕のズボンを掴んでいたけれども。





