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79話 レイの成長

戻ってきたら、まず村長のモーリスさんに報告したい。


「ねえトムくん、モーリスさんがどこにいるのか知ってる?」


「ああ、広場だろ? たぶん。

 なにしてんのかわかんねぇけど、母ちゃんたちと大鍋でなにか作ってた」


なるほど、モーリスさんは広場で作業中であると。


「じゃあ報告はそっちに行ってみるよ」


というわけで、僕たちは広場に足を向けようとしたんだけど。


「お、あれはなんじゃ?」


まさにその瞬間、リュウさんがフラッと違う方に歩いて行こうとする。


「あ、リュウさん! 一人で行ったら危ない……」


「平気じゃ、誰もワシを傷付けるなんぞできるものか」


僕の制止を、しかしリュウさんが振り切って、スタスタと歩いていく。

 いやいや、僕としてはリュウさんの危険の心配じゃなくて、リュウさんが起こす危険の心配をしているんですけど!?

 でも僕が一緒にいたところで、リュウさんをどうこうできるわけじゃないんだよね……。

 一応リュウさんを追いかけるか、ああでも、早くモーリスさんに報告して安心させてやりたいし。

 僕がどうするべきかと迷っていると。


 ポンポン!


 僕の足をレイが叩いた。


「どうした? レイ。

 お腹空いた?」


僕が聞いてみると、レイはフルフルと首を横に振り、リュウさんが行った方を指さすと。


「みとく」


そう言ってきた。

 これは……


「もしかして、レイがリュウさんを見張っててくれるのかい?」


「ん!」


僕が確認すると、レイはこっくりと頷く。

 なるほど、リュウさんをどうにかできるのって、今のところレイだけだ。

 そしてレイは、少なくとも現時点でリュウさんよりも人の常識を知っている。

 しかもしかも、レイが自ら僕との別行動を申し出るなんて、初めてじゃないか?

 前に別行動をしようとしたら、ギャン泣きして嫌がったのに。

 ……これは、レイの成長の瞬間か!?

 いや、レイ的にはリュウさんを放置するのが危険だという認識なんだろうけど。

 なにせレイは、まだ僕に対するリュウさんのおイタを許していないからな。

 リュウさんをマークしておいて、変な事をしようとしたらサクッとヤッてしまおうというのかも。

 それはそれで物騒なんだけど、この状況は色々な意味でいいチャンスだ。

 僕は姿勢を正して、「エッヘン!」と咳ばらいをした。


「じゃあレイくん、君に任務を与えよう。

 リュウさんを見張って、もし村の人に危ないことをしようとしたら、被害が出る前に速やかに止めるように!」


「ん!」


レイはニケロの街で覚えたらしい兵士の真似をしてビシィッ! と敬礼してみせると、ポテポテとリュウを追いかけて行った。

 ああ、あの後ろ姿に僕は感動している……!

 ちなみにリュウさんが怖いシロは、僕の懐から出てこなかった。



こんな場面があったものの、僕は広場で無事にモーリスさんに会えた。


「トツギさん、ご無事でよかった! どうですか? なにか分かりましたかっ!?」


モーリスさんは僕を見るなり駆け寄ってきて、食い気味に尋ねる。


「落ち着いてください、順番に説明しますから」


僕は苦笑しつつ、火を焚いて大釜を熱している広場から離れることにする。

 ここで話をすると、邪魔になりそうだしね。


「ところで、なにをしているんですか?」


「ああ、大麦を炊いているんです。

 大麦を口にすることに対して抵抗のある者もおりますが、空腹をなんとかする方が先ですからな」


なので早速飼料小屋から大麦を移動させて、炊いて試食してみようとなったらしい。


「まあ、家畜の餌だと思っているのを食べるのって、確かに勇気がいるかもしれませんね」


日本だと、元々そういう雑穀を食べる文化があったから抵抗がないけど。

 小麦しか食べない文化に育つと、かなりの意識改革が必要かも。

 そんな中で、率先して大麦ご飯作りに協力してくれるのが、母親たちだそうで。


「見栄を張るより、子どもにお腹いっぱいに食べさせてやりたい」


皆そう口をそろえて言うそうだ。

 うーん、異世界でも母は強し、だなぁ。

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