78話 ドラゴン襲来
原因が分かったので、では山を下りようとなった僕たちなんだけど。
「ほう、あれが人間の集落か。
ワシが知るのとはずいぶん様子が違っておるのぅ」
現在、僕たちの前をずんずんと進み、木々が途切れた隙間からアイカ村を見下ろしている青年ドラゴンがいる。
そう、何故かついて来てしまったんだよね。
「人間の集落が見てみたい」って言って。
なんでも、今までずぅーっと山奥に引き籠っていたんで、人間を見るのは久しぶりだんだってさ。
このドラゴンの久しぶりのスパンがどのくらいか、謎だけど。
同行するにあたっての問題は、この青年ドラゴンがマッパなことだ。
人里に下りるのにそれは駄目だろうってことで、急遽僕の服を着せてある。
そして誰かと遭遇した時に、「ねえドラゴンさん」なんて呼び掛けるわけにもいかないので、ドラゴンを和名に変えて「リュウ」と呼ぶことにした。
するとこの名前が、どういう理屈でか世界から名前として認識されたのか、鑑定で名無しだった欄に「リュウ」と載ってしまった。
ヤバい、レイに続いて生体兵器に名前をつけちゃったよ。
これ、後々になにか影響があるのか?
そんな青年ドラゴン改め、リュウさんの移動による、魔物たちの慌てっぷりもすごかった。
探索スキルで様子を見ていると、右往左往しているのが丸わかりで、山の中が非常に騒がしい。
リュウさんを連れて歩いている僕の方が、いっそ申し訳なくなってくる。
レイも情けをかけたのか、そんな魔物たちを追いかけて行ったりしない。
状況はアレだけど優しさを手に入れたことには変わりなく、それはいいことだな。
そんな大騒ぎをしつつ、ようやく村が見える所まで下りてきたわけだけど。
「ところで、リュウさんが知っている集落って、どんな風だったんですか?」
気になった僕が聞いてみると。
「うん? ワシが造られた頃は高い塔がそびえ立ち、夜でも昼間のように明るい場所であったぞ。
マスターが隠れられてから千年ほど寝ていたたら、それらが全てなくなり、穴倉の家になっているのには驚いたがな」
なんか、極端な回答が返ってきた。
え、なにその文明の逆回転現象?
現代東京から縄文時代にタイムスリップしたみたいだな。
「その千年で、スキルを使わなくなったとか?」
「さてな、スキルシステムがダウンしたのやもしれん」
そんな会話をしながら歩いて、やがてアイカ村へ到着した。
「あ! 兄ちゃん帰ってきた!」
アイカ村の入口をウロウロしていたトムくんが、僕たちに気付いた。
大きく手を振りながら、こちらに駆け寄ってくる。
「もう!
もう一回山に行ったって後から聞いて、心配したんだからな!」
プンプン顔なトムくんは、本当に心配してくれた様子だ。
僕たちがゴルドー山の調査に行くってことを、一部の村人にしか伝えていなかったんだよね。
なにせ今、山は立ち入り禁止区域になっているんだから、堂々と向かうわけにはいかない。
だからトムくんは、僕がいなくなってから聞かされたわけだ。
「あんなスゲェ声の魔物がいるんだから、兄ちゃんたちだってガブッと丸かじりされちゃうかもだろう!?」
そう言いながら僕をポカポカと叩いて来るトムくん。
だけどね、その声の正体が、今僕の後ろにいるんだよね。
「ワシは人間なんぞ食わんぞ、見るからに大して美味くもなさそうなのに」
リュウさんが不満そうに小さく零す。
そうだね、そもそも食事が必要ないんだから、わざわざ人間を選んで食べる意味ってないよね。
それに確かに、イビルボアやアーマーバッファローとかと比べると、人間って食いでがないかも。
トムくんは発言内容は聞こえなかったらしいけど、僕の後ろにいる人影にようやく意識が向いたらしい。
「あれ? また誰か来たの?」
「うん、たまたまそこで行き会ってね。
近くの村を聞かれたから、一緒に来たんだ」
「……」
目を丸くするトムくんに僕が用意しておいた言い訳を述べると、リュウさんがローブの中から無言でトムくんを見下ろしている。
こらリュウさん、トムくんは魔物じゃないんだから、威圧しようとしないの!





