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76話 変身ドラゴン

突然現れた青年にびっくりするが、冷静になれば簡単なことだ。

 ドラゴンが消えて青年が現れたということは。


「え、あのドラゴンさんですか?」


「いかにも」


僕の確認に、青年になったドラゴンが頷く。

 なるほど、人の姿になれたのか、おかげで謎が解けた。

 この山頂の洞窟の道は、とてもじゃないけどあのドラゴンの巨体が通れるような広さはなかった。

 なのに、ドラゴンはどうやってこの湖にたどり着いたのか?

 なんのことはない、この人の姿で歩いてここまで降りてきたのだ。

 それにゴルドー山にドラゴンが飛んで行ったという目撃談も、ニケロの街でもアイカ村でも聞いていない。

 ドラゴンがこの山にやってきた際も、あの巨体でやって来たのではないのだろう。


「あの、とりあえずこのローブを着てください」


僕は鞄から取り出したローブを、青年ドラゴンに差し出す。

 マッパでうろつかれると、レイの教育に良くない。

 それに、もしかしてドラゴンの目撃談はなくても、マッパの青年の目撃談はあったりしないか?

 それはともあれ。

 一人―― 一匹? 増えたところで、昼食を作ろう。

 でも、なにを作ろうかな?

 すごく心配してくれたレイのために、テンションが上がるメニューにしてやりたい。

 そしてレイは卵料理と肉が好きだ。でも親子丼ばかりというのもなぁ。

 あ、だったら卵と肉と野菜で、三色丼を作るかな?

 そうと決まれば、魔術で竈を作りながら材料を取り出す。

 肉は牛丼用のストックでいいとして、卵はフワフワのスクランブルエッグを作るか。

 スクランブルエッグをフワフワにするためには、フライパンの火加減がコツだ。

 溶き卵をゆっくり混ぜながら弱火で焦らずじっくり火を通して、余熱で熱しすぎないようにすぐに皿に取り出す。

 それとキャベツを千切りにして、三つをバランスよく麦ご飯の上にのせれば、三色丼の完成だ!

 レイをお腹にくっつけたまま料理するのは、なかなかに骨が折れたよ。


「ほぅらレイ、お昼ご飯ができたぞ?

 僕の膝の上に座ったままでいいから、ちょっとクルッとして前を向こうか」


「……」


レイは「ご飯」という単語に反応して、そろりと顔を上げた。

 ああ、泣き過ぎて目元が腫れてるよ。

 きっとヒリヒリと痛いだろう。


「治癒」


魔術で腫れを治してやると、レイがモゾモゾとお尻を動かして、僕の膝の上で前向きに座り直す。

 よかった、食事をする気になるくらいには、気分が回復したみたいだ。


「レイ、レイが好きな卵と肉をのっけたどんぶりだぞ?」


「たまごとおにく」


三色丼を手に持たせてやると、レイの目がキランと輝く。

 うんうん、レイはそういう顔をしている方がいいよ!

 そしてレイは、僕の膝の上で小さく「いただきます」をしてから、三色丼にスプーンを刺してすくう。

 お、卵と牛肉と千切りキャベツを上手にスプーンに乗っけるなんて、通だな。

 そしてあーんと口に頬張ると、「うむ」と言いたげに頷き、またスプーンを動かす。

 どうやらレイのお気に召したようだ。

 その様子を、青年ドラゴンが不思議そうに見ている。


「あなたもどうぞ、レイの好物を合わせたものです」


「……先程から気になっておったのだがのぅ。

 レイというのは、そやつのことか?」


どうやら、「レイ」という名前が気になったらしい。


「あの、名前をつけるのって駄目なことだったんですかね?

 名前がないと呼びにくいと思ったんですけど」


それに、鑑定欄に名前の項目があったし。

 名前があるのが普通だと思ったんだよな。

 けど、なにか生体兵器のルールみたいなものがあって、名付けにもしきたりがあったりしたのか?

 急に不安になった僕に、しかし青年ドラゴンは「いや」と首を横に振った。


「駄目なことはないぞ?

 ただ、今までそんなことをする者がいなかっただけだ。

 我らの個体認識に使われるのはナンバーか、もしくは固有のスキル名だな」


なるほど、レイだと「No.03」もしくは「鬼神」が、名前の代わりだったわけだ。


「だが、あれほど手の付けられん暴れ者だった鬼神が、これほど大人しいとは、驚きだな」


青年ドラゴンは、無心に三色丼をモグモグしているレイを見て感心している。

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