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73話 死んでませんから

「もうひとつ、氷結!」


そして次に湖を凍らせる。

 湖は広いけど、元々ある水を凍らせるだけだと、ゼロから氷を作るよりも魔力を食わないんだ。


「なんじゃあ?」


凍った湖に動きを止められたドラゴンが、呆けた声を出す。

 その背中で、氷だるま状態のレイがなんとか動こうとウゴウゴしていたけど、やがて静かになる。

 ブリュネさんと対戦した時と同じで、テンションが一気に下がったんだろう。

 僕は魔術で飛んでドラゴンの背中に行く。

 ドラゴンは僕を尻尾で叩いたものの、レイに対して攻撃らしいものをしていない。

 なので攻撃の意志がないんだと思ったんだけど、どうやら当たりだったようで、近寄る僕を攻撃してこない。

 ドラゴンの背中に着地した僕は、氷だるまのレイの前に膝をつく。


「レイ、落ち着いた?

 今氷を溶かすからな」


僕は熱風を魔術で生み出して、氷に吹きつけて溶かしていく。

 これ、髪を洗った後のドライヤーとして編み出した魔術なんだけど。

 まさかここで役に立つとは。

 氷がある程度薄くなると、レイは自力で氷を割った。

 その氷のせいで冷えた手を、僕は掴む。


「ああほら、酷い怪我をしているじゃないか……治癒」


僕が皮膚が裂けて血が流れる拳を治していると。


 ひしっ!


 レイが手を僕に握られたまま、両足を使って僕にしがみついてきた。


「レイ? どうした?」


突然の行動に、僕がレイの顔を覗き込むと。


「……」


無言でぼうっとしていた顔に、だんだん涙がにじみ出てきて。


「……っうわぁぁあん!!」


なんと、レイが大声で泣き出した。

 前に宿でギャン泣きされた時よりも、一生懸命な泣き声で。


「しんでないぃー!」


そう泣きわめくレイ。

 そうか、壁にめり込んだ僕が死んじゃったかと思ったのか。

 なんだかんだで、僕はこれまで怪我ってしなかったもんな。

 初めて見た怪我をした僕が、怖かったのか。


「ほら、僕は大丈夫だから」


「わぁぁあん!」


僕が抱きしめると、レイはいっそう激しく泣く。

 治った両手もつかって、まるでセミのごとくしがみついているし。

 あ、泣き過ぎてちょっとえづいた。

 レイの泣き声で、一匹だけ湖の外に取り残されていたシロが気絶から目を覚ましたんだけど、そちらも釣られたように鳴き出す。

 レイとシロの泣き声がこだまするカオスな空間になっているけど、実は僕らがいるココって、まだドラゴンの背中なんだよね。


「なんじゃ、なんじゃあ?

 なにがどうなっとる?

 鬼神が泣くだとぉ?」


湖の氷で固められたドラゴンが、首だけをグリンと回して顔だけこちらを向く。

 あ、この仕草ってトカゲっぽい。

 ドラゴンってやっぱりトカゲ系なんだな。


「あの、あなたもお話を聞いていただけるなら、氷を溶かしますけど?」


僕の申し出に、ドラゴンが「フン!」と鼻を鳴らし、生臭い息が僕らに吹きかかる。


「この程度の氷、どうどでもできる。

 鬼神がムキになってかかってくるから……」


ドラゴンがなにやらグチグチ言っている。

 そのドラゴンの態度が気に食わなかったのか。


「いじめたの、わるいの!」


レイが僕にしがみついたまま、足でゲシゲシとドラゴンを蹴っている。

 あ、ちょっと鱗にヒビが入った。

 これ、本気の蹴りだよ。

 しかもレイは手と違って足には靴を履いていて、その靴も最初にコンピューターに貰ったものなんだよね。

 たぶん、普通の靴よりも丈夫なんだろう。

 なにせレイの蹴りの威力に耐えられるんだから。


「あ、これ! やめぬか!」


痛がるドラゴンを、レイがキッと睨む。


「ごめんなさいする!」


レイの叫びに、ドラゴンがきょとんとする。


「は?」


「わるいこと、ごめんなさい!」


ドラゴンとレイがしばし見つめ合う。

 あー、つまり僕を尻尾で叩いて怪我をさせてしまったのは悪いことで、そのことを謝れと。

 そう言いたいのか。

 理解はできたけど、この理屈がドラゴンに通じるかは別である。


「なにを言っとるんじゃ? 鬼神は」


「ごーめーんーなーさーいー!」


不思議そうにするドラゴンを、レイは地団太を踏むように蹴りつける。

 あ、とうとう鱗を踏み割った。

 さすがに痛かったのか、ドラゴンが「痛いじゃろうが!」と悲鳴のように叫ぶ。

 けどこのドラゴン、僕たちを振り落とさないな?

 うーん、両者の話が噛み合わない。

 たぶんドラゴンは僕の事を背景くらいの認識しか持っていなかっただろう。

 だから尻尾で僕に怪我をさせたという事を覚えている以前に、見えていない可能性がある。

 けどこのままだと、話が進まないというのは分かったらしい。


「あー、ゴメンナサイ、これでいいのか?」


年長者として譲ったらしいドラゴンの棒読みな謝罪に、レイは一応満足したようで。

 「フン!」と可愛らしく鼻を鳴らして、蹴るのを止めた。

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