71話 山頂の洞窟
雪で和んだ僕たちは、気を取り直して山頂にある洞窟を目指す。
パネル地図をみながら山頂付近を捜索していると。
「あ、あれかな?」
やがてそれらしい場所を発見した。
その洞窟は山頂から下へと延びているようで、結構深そうだ。
入口には手押し車が放置されていて、たぶん鉱石を採取に来た人たちが使うんだろう。
石壁には灯り用のカンテラの下げられていて、よく人が出入りする場所なのが窺えた。
「さて、下りてみるかな。
ライト」
僕は宙に魔術の灯りを浮かべて、洞窟に入っていく。
洞窟に入って風が和らいだので、寒さもマシになった。
山登りが終わったと悟ったシロが僕の服の中から出てきたので、ちょっとホッとする。
シロの毛が当たってムズムズしていたんだよね。
ところで寒くはないけど、洞窟の中には風が通り抜けている。
たぶん、どこか別のところに出入り口があるんだろうな。
おかげで空気が流れているので、窒息の心配はなさそうだ。
その上、他の危険も感じられない。
「中に魔物はいないなぁ」
探索スキルで探っても、ヒットするのは鉱石ばかりだ。
レイの気配察知にも引っかからないのか、横をポテポテ歩いている。
魔物がいないので、ただ歩くだけの散歩に等しく。
途中で休憩をしてさらに進むと、やがて広い場所に出た。
「へぇ、湖だ」
そこは湖ができていて、地底湖っていうのは聞くけど、山の中にあるのはなんていうんだろう?
カルデラは山の上の窪みに水が溜まったものだから、違う気がするし。
でもどっちにしろ、自然の神秘だな。
「……」
その湖をじぃーっと見るレイは、そもそもこんな大きな水たまりを見たことがないわけで。
川とは違う水のある景色に、興味はあると思うんだけど。
問題は、湖の存在よりも気になるものが、その湖の中にあるってことだ。
まるで島のように茶色いモノがこんもりとしているんだけど、ソレがかすかに動いているんだよね。
……ってことは、アレって生き物?
え、デカくない?
その正体を確かめるべく、僕は早速鑑定してみたんだけど。
「は? エラー?」
鑑定結果が現れるはずのパネルに、「エラー」の文字だけが浮かんでいた。
これって、鑑定できなかったってこと?
今までそんな現象は起きなかったのに。
突然の謎現象に、僕が呆けていると。
クイクイッ
レイが僕の服の裾を引いた、次の瞬間。
ザバァッ!
湖から大きな水音がして、あの茶色いモノが起き上がった。
ああ、やっぱり生き物だったか。
「ふぃ~、いい水加減じゃった」
そんな声が響くと同時に、茶色いモノがぐぅーっと伸びをする。
その姿は、分かりやすく言えば大きなトカゲだろうか?
トカゲの頭に角がついて、背中にコウモリの羽根みたいなのがあって、うん、これはまんまドラゴンだね。
こんなドラゴンがやって来たら、そりゃあみんな逃げるよな。
それよりも今聞こえた声は、ひょっとしてこのドラゴンの声だったりするんだろうか?
え、ドラゴンって喋れるの?
僕が色々混乱していると、そのドラゴンの顔がグィン! とこっちを向いた。
「なんじゃ? おぬしらは」
そしてそう言ってくる。やっぱり声はドラゴンのものだった。
しかし、これに迂闊に返事をしていいものか。
鑑定が効かなかったのも気になるし。
けど、まだレイが飛び掛かっていかないんだよなぁ。
相手がデカ過ぎるからか?
でも今までだって、大抵の魔物はレイよりもサイズ増し増しだったんだけど。
正直、僕は強い魔物がいる可能性は想定していたけれど。
それもレイの攻撃力や僕の魔術でなんとかなるだろうと高を括っているところがあった。
けれど、これはどうすればいいんだ?
困惑している僕だったけど。
「む?」
そう呟いたドラゴンの視線が、レイに止まった。
「キサマは……」
ドラゴンがそう呟くと、ギロッと鋭く睨む。





