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69話 山登り

というわけで、さらにその翌日。


「よぅし、行くよレイ」


「ん」


村の入り口には、僕とレイがいた。

 レイの本日のスタイルは猟師モードで、見送りに来た猟師たちの顔が和んでいる。

 わかる、この激烈に可愛い猟師には、ホッコリするよね!

 ちなみにモーリスさんは、盗賊に壊された柵や建物を見回ったり修理について話し合ったりで、忙しそうで見送りには来ていない。

 というか、来なくていいからと僕から断っておいた。

 だって、忙しい人の時間を割くのは申し訳なくって。

 いよいよ出発するという時、あの年嵩の猟師が表情を引き締めて話しかけてきた。


「様子を見てきてくれるのは、正直ありがてぇ。

 が、くれぐれも無理するなよ?

 命が一番だからな?」


「もちろんです、『命大事に』ですよね」


僕は某ゲームで有名なワードを告げて、ニコリと笑う。

 せっかくあのコンピューターに貰った第二の人生を、簡単に手放す気なんて僕にだってない。

 ちょっと様子を見に行って、僕とレイでどうにかできそうな相手ならどうにかして、無理そうならとっとと撤収だ。

 それに猟師たちからは休むための場所も教えてもらったし。

 トムを探しに行った時みたいに急ぐのではなくて、ちゃんと正規のルートを進むつもりだ。

 それにゴルドー山に入れなくなったせいで、山で採れる希少な薬草類が出回らなくなって、薬が一部足りなくなっているんだって。

 だから少しでも足しになるように、色々採取しながら行くつもりだ。

 というわけで猟師たちに見送られつつ、僕らはゴルドー山へと向かうのだった。



アイカ村を出てからサクサクと山を登った僕たちは、その日の夕暮れ前に中腹までやって来ていた。

 ここまで登ってくるとさすがに寒いし、季節も冬に向かっていることもあって風が冷たい。

 このゴルドー山は富士山くらいの高さらしく、日本にいた頃の僕だったら、富士山の山頂に登るなんて絶対に無理だっただろう。

 しかも五合目の登山道からのスタートなんかではなく、麓から登るのだから。

 でも今の身体は息切れこそするものの、足が重くて動かないということはない。

 こんな状況じゃなかったら、もっと登山を楽しみたいくらいだ。

 ところでレイの方はどうしても身体の小ささから、運動量が僕よりも多いはずなのに、息を乱してすらいない。

 高山病みたいなのも、僕もだけど今のところなる気配がないし、いたって普通。

 レイがゼイゼイする時って、どんな状況なんだろうな?

 シロはというと、登山早々から僕の懐に潜り込んでいる。

 たぶん、こっちが子どもとしては普通だ。

 この中腹で僕たちは一泊して、翌朝に山頂へ出発する予定で、宿泊するための山小屋に到着したんだけど。


「うーん、薬草系の素材はたくさんあるんだけど、魔物がいないなぁ」


そうなんだ、ここまでの道中で魔物はいないこともなかったんだけど、隠れてじっとしている感じだ。

 夜行性なのかと思ったんだけど、前の時も動きが活発になる夜にもかかわらず、魔物が少なかった気がする。

 となると、先日のあの鳴き声の主を恐れて隠れているのか。

 まあ邪魔されなかったから登山がしやすくはあったけどね。


「レイ、今日はここでお泊りだぞぉ」


「おとまり」


「アン!」


僕が告げると、レイは珍しそうに山小屋を見て、シロは僕の懐で鳴く。

 山小屋の中は多少埃っぽくはあるけれど、キレイに片付けられていて、頻繁に使われている気配がある。

 僕はまず暖を取ろうと、暖炉に急いで火を入れて中を暖める。

 そして暖炉がかまどを兼ねているみたいなので、身体が温まる料理を作ることにする。

 こういう暖炉だと、アレがやりたくなる雰囲気なんだよね。

 アレっていうのは、チーズフォンデュ!

 アイカ村で美味しいチーズを手に入れたんだよ。

 アイカ村は酪農をやっている村らしく、飼料の大麦が大量にあった理由も納得だ。

 というわけで、今日の夕食はチーズフォンデュで決まりだね!

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