6話 魔術をつかってみましょう
装備を整えたところで、改めて探索しながら道を進む。
探索スキルというのは便利なもので、見ている景色に気にするべきモノがあったら、マーカーが視界に直接映し出されるのだ。
すごいなぁ、どういう仕組みなんだろう?
かくして探索しまくっていると、「アポル」という名前のリンゴっぽいのとか、「ベラの実」というイチゴっぽいのとかを発見した。
どっちも野生種で、アポルは秋から冬にかけて、ベラの実は春と秋の二度実をつけるらしい。
ということは、今の季節は秋頃だな。
となると今から寒くなるだろうから、防寒着をどこかで手に入れなきゃだな。
僕はそんなことを考えつつ、ベラの実を試しに食べてみたら存外甘い。
これはおやつに良さそうだ。
「レイも食べるか?」
尋ねても無言だったレイだが、代わりに小さな口をパカリと開いた。
どうやら食べてみたいらしい。
僕が食べているのが、美味しそうに見えたのかもしれない。
「ほら」
レイの口にもベラの実を入れてやると、口をもぐもぐさせながら目を真ん丸にさせていた。
初めて経験する味だったのかな?
もしかして本当に、あのミールブロックしか食の経験がないとか……。
だとしたら不憫過ぎる!
気に入ったなら、見つけたらたくさん摘んでおこうな。
他にも薬草があったので、売れるかと思って取っておく。
薬草採取って、RPGの基本な気がするし。
するとレイも真似をするようになって、薬草とただの草を見比べて首を傾げている。
鑑定がないと、薬草と雑草って一見区別がつきにくいからね。
ただ、手に取ったものを口に入れる癖だけはないようで、そこは安心だ。
こうして僕やレイは目につく役立ちそうなものを手あたり次第、次々に鞄に入れていく。
そうそう、この鞄なんだけど。
鑑定するとどうも保存がきくっていうか、鞄の中の時間が停まっているみたいなんだよね。
しかも盗難防止機能付き。
盗まれても自動で戻ってくるらしい。
盗難の心配も中身が腐る心配もないとは、なんとも便利な鞄だ。
あのコンピューターが「便利な品」って言うだけのことはあるよね。
あと、荷物に水筒もあったので、通りがかった小川で水を汲んでおく。
ちなみに川の水の鑑定結果は「美味しい清水」と出た。
こうしてまるでピクニック気分で進んでいる僕らだが、今のところ危険な生物には遭遇していない。
けどやはり、攻撃手段は持っておきたい。
武器をうまく使いこなせる自信なんか皆無だしね。
というわけで魔術の練習だ。
せっかく「全属性魔術」なんてワクワクするものを貰ったんだから、使わない手はないよね。
魔術ってどうやって使えばいいのか尋ねると、パネルに表示される。
「へえ、呪文とかはなくてイメージで発動するか」
歩きながらできそうな魔術で、安全そうなものはなんだろうか。
僕は学生時代にやり込んだRPGの知識を引っ張り出す。
社畜になる前はそれなりにゲーマーだったんだよね。
「ここは森だし、火はまずいか。
風の魔術なんかだといいかな?」
風の魔術といえばカマイタチあたりか。
そこいらの小枝を払うくらいがいいかな。
そうイメージしていると、身体の中でなにかが動くのがわかる。
これが魔力ってヤツなのかも。
その魔力らしきものが大きくうねり、前にかざした僕の手の平に集まる。
「カマイタチ」
声に出さなくてもいいのかもしれないが、イメージしやすいかと思って唱える。すると――
バシュゥゥン!
手のひらから透明な風の刃が飛び出し、目の前の森の木々を一直線に刈り取った。
「……え?」
ドドドド
瞬きをする僕の前で、木々が次々に倒れていく。
「マジで?」
見通しが良くなった景色に思わず足を止め、呆然とするしかできない。
パチパチパチ
カマイタチの威力に隣でレイが無言で拍手してくれるが、全く喜べない。
これって明らかに魔術に失敗したよな?
だって僕はこんな大威力のカマイタチを放つつもりはなかったんだから。
あのカマイタチ、どこまで行ったんだろう?
そして森の動物や人に被害はなかったんだろうか?
そんな心配をすると、冷や汗が止まらない。
けれどもここで止まっていても仕方がないし、被害者が出ていないことを祈りつつ、魔術の失敗原因について考えながら先に進む。
倒れた木が邪魔で歩きにくいので、木を丸ごと鞄に収納するという荒業を使いつつ、歩いていく。
するとレイが急に立ち止まり、握っていた僕のコートをクイクイと引っ張る。
「うん? どうした?」
見るとレイの視線がカマイタチで出来た道のはるか先を捕らえていた。
なにか見つけたのかな?
そう言えばレイのスキルに「気配察知」というのがあったっけ。
それになにかがひっかかったのかもしれない。
僕はゆっくり慎重に足を進めていると、探索スキルにも反応が出る。
そしてやがて、犬っぽい動物たちが一か所に集まっているのが見えた。