68話 猟師たちの話
アイカ村での肉パーティーからの、トム捜索から一夜明けて。
僕たちは宿屋でぐっすり寝て、美味しい食事を食べて元気いっぱいになった。
元気になったのは、僕たちだけではない。
重傷だった女の子のお父さんのギルさんも、一晩寝たらすっかり良くなっていて、神の奇跡だと騒ぎになっていた。
よかった、予定していた通りだ。
僕たちはそんな騒ぎを横目に、猟師の人たちがマーダーモンターナの素材を処理しているところを訪れた。
ゴルドー山について、改めて教えてもらおうと思ったのだ。
もちろん、ニケロの街でもゴルドー山にはどんな魔物が出るかなどは調べた。
けれど、ゴルドー山は生活の一部であるこの村の猟師たちは、また別の意見があるかもしれないしね。
それにゴルドー山の道についてとか、山小屋の場所とかを聞いていたら、山に入ってから楽だし。
それに昨夜のあの鳴き声についても、意見を貰いたいところだ。
「あんなデケェ声のヤツなんざ、俺も聞いたことがねぇな」
話を聞きたいと言った僕に、猟師の中でも年嵩の男性が、トム同様にそう言った。
「けど、もし山にいるとしたら山頂だろう」
けれど、そうとも付け加える。
「ああ、あそこな」
他の猟師たちもそれぞれ頷いている。
「山頂に、なにがあるんですか?」
尋ねる僕に、年嵩の猟師が教えてくれた。
「そこそこ広い洞窟があるんだ。
昔っからある天然ものでな、鉱石が採れるんだよ。
たまに採掘目当てで登っていく余所者がいるぜ」
へぇ、その情報はニケロの街では聞かなかったな。
その洞窟は、ニケロの街側からは行くのが難しいのかもしれない。
「にしても、ここまで響いたんだ。
身体も相当デケェことは間違いないだろうな」
「ああ、ワイバーンだってあんな声出さねぇよ」
他の猟師たちもそれぞれに語る。
確かに、ワイバーンならたまに上空を通過するのを目撃するけど、あんな鳴き声は出さないな。
少なくとも対象の魔物が、ワイバーン以上なのは間違いないと。
「そもそもがよ、そんなおっそろしいモンがうろつく山の間近に、村なんて作ってねぇよ」
「そりゃそうだ」
最後の意見に、猟師たちが皆して頷く。
「だがよ、おかげでここのところ魔物の動きがおかしさが腑に落ちたな。
あんな鳴き声のヤツがどっかからか移ってきたのなら、そりゃあ元から住んでいる魔物も動物も、ビビって逃げるってもんだ」
「ああ、やっぱりこのところの異変を、そう考えますか?」
「おうよ、けど問題は、ソイツがゴルドー山にずっと住む気なのかってことだ。
もし住処にしちまうのなら、俺らも村を捨てることを考えにゃならん」
猟師たちの話を聞いて、僕も「うーん」と唸ってしまう。
そうだよね、そうなるよね。
このままの状態が続くなら、アイカ村に住むことは相当なリスクだ。
……調査に出たガイルさんたち、どうしているかな?
昨夜のあの鳴き声で、トムみたいに恐慌状態になっていなきゃいいけど。
僕がこうして情報を集めている一方で。
「……」
ちょっと離れたところにいたレイはシロを抱っこした状態で、ボーッと山頂辺りを見つめている。
あれからあの鳴き声は聞こえないんだけど、何故か気にしているんだよね。
たまに「ウーウー」と唸りながら、スッキリしないといった顔をしている。
けれど不思議なことに、レイは「鬼神」スイッチが入らないんだよね。
今までだったら魔物の気配を察知した途端に、鬼のように突撃して狩りまくるレイなのに。
……もしかして、あの鳴き声の主は魔物ではないとか?
でも、動物ではあり得ないプレッシャーだったぞ?
「ねえレイ、あの鳴き声のことをどう感じた?」
僕は分かりにくい聞き方をしているなと思いつつ、あえて尋ねてみる。
レイは真剣に考えているようで、ギュッと皺になっている幼児らしからぬ眉間を僕は揉んでやる。
「怖い? やっつけたい?」
さらに尋ねると、これにはレイはすぐにフルフルと首を横に振る。
「じゃあ、会ってみたい?」
これには、首を捻るものの否定はしないけど、会いたいってわけでもなさそう。
やっつけたい敵ってわけではないけど、会いたいのとも違うと。
なんだか、聞いたら余計に混乱したぞ?
気になる事を放置するのは、精神衛生上良くない。
ということで、やっぱりゴルドー山の山頂まで行ってみるしかないか!





