表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/84

67話 謎の鳴き声

「君がトムくんかな?

 ギルさんのために夜の山に入って薬草を採りに来るなんて、なかなか度胸があるね」


僕はトムくんにニコリと笑いかけて、そう告げる。


「……あの、俺」


叱られるとばかり思っていただろうトムくんは、逆に褒められて戸惑っているみたいだ。

 けど、いけないことをしたってことは、誰よりもトムくん自身が一番分かっているはず。

 魔物が徘徊する山の中でじっとこの洞に隠れている間、すごく怖かったに違いない。

 だからこの場では叱らずに、それは両親に任せよう。

 それに逆上してこの場で大きな声を出される方が困る。


「けど、その度胸が無駄にならないように、知識と強さを身に着けような。

 あの女の子にいい所を見せたかったんだろう?

 小さくっても男ってことだね」


僕はちょっとニヤリとして、トムくんを小突く。


「そんなんじゃねぇし」


照れたようにそう言ってそっぽを向くトムくんだったけど、ずっと小刻みに震えていたのが止まっている。


「ギルさんはね、見た目程ひどい怪我じゃなかったようなんだ。

 だから明日には良くなるかもよ?」


「そうなのか?」


ギルさんの怪我の事も教えてやると、トムくんは呆けた顔になる。


「そうなんだ。

 だから早くその持っている薬草を届けたら、きっともっと良くなるね」


「……うん。

 なんだ、アイツが大げさに思ってたんだな、そっか」


トムくんの方から力が抜けた、その時。


 グゥォオーーン!


 ゴルドー山全体に響き渡るような。

 大音響の獣の鳴き声がした。


「ひっ……」


トムくんが恐怖からか、両耳を手で抑えてしゃがみ込む。


「……っ! なんだ今の!?」


明らかに普通の魔物の鳴き声じゃないよな!? 

今まで僕らが見て来た魔物よりも、もっと巨大なモノの鳴き声に聞こえる。


「トムくん、今の鳴き声の魔物のこと、知ってる?」


「し、知らない!

 初めて聞いたし!」


今まで静かにできていたトムくんが、そう絶叫してガタガタ震え出した。

 いけない、パニックになっている!

 僕はトムくんを落ち着かせようと、抱きしめて背中を撫でる。


「大丈夫、大丈夫だよ」


けど不思議な事に、僕は怖くないんだよね。

 なんでだろう?

 って、そう言えば僕、スキルの精神攻撃耐性がMaxだったな。

 そのおかげだったとしたら、社畜経験が生きていたってことか。

 助かったけど、微妙に嬉しくない……。

 僕が微妙な気分になっていると、ふとレイが静かな事に気付く。

 いつもなら、魔物となれば突進していくのに。

 さすがのレイも、怖かったとか?


「レイ?」


僕がトムくんを抱っこしたままでそちらを見ると、眉間にギュッと皺を作って、困ったような怒ったような顔をしている、幼児らしからぬ表情のレイがいた。

 それが、今まで見たことのない顔なのは確かだ。

 そのレイの傍らで、シロがギュッと丸くなってプルプルしている。


「レイ、どうかした?」


僕がシロを懐に入れながら尋ねると、レイは僕をじぃーっと見て首を捻る。


「しっている?

 きいたことがある?」


いやいや、僕に聞かれても困るんだけど。


「レイ、聞いたことがある気がするの?」


僕がもう一度尋ねると、レイがコックリと頷く。

 レイは初期化された生体兵器。

 なので以前の記憶はなくて、覚えているのは僕と出会って以降の事だけのはず。

 それなのに知っている気がする声って、それだけ記憶の深層の方に残っているってことか?

 それだけレイに強く焼き付いている声って、なんかヤバい感じがひしひしとするぞ?



声の正体は気になるものの、この場はトムくんを村へ戻すのが先だ。

 というわけで、僕はトムくんを連れて急いで降りることにした。

 けれど当然、魔術で飛んでいくわけにはいかない。

 なのでトムくんを抱き上げた状態で走って降りることになるんだけど。

 これ、前の身体だったらとうの昔に音を上げているな。

 この身体を造ってくれたコンピューターに感謝だ。

 パネル地図で確認しながら最短ルートを降りるのに、レイは遅れずに付いてきている。

 道なき道を駆けているので、多分全身葉っぱと草まみれだろうが、今は構っていられない。

 そうしてようやくアイカ村が見えてくると、村の入り口では、村人が総出で待っていた。

 僕が村の中に入ってトムくんを降ろすと、トムくんのご両親が駆け寄ってくる。


「トム! この馬鹿息子が!」


「本当にもう、この子は……!」


ヤンさんが真っ赤な顔をして大きな声で怒鳴りつけ、奥さんが泣きじゃくった顔で、それぞれにトムくんを抱きしめた。


「ごめん、ごめんよ父ちゃん、母ちゃん!」


トムくんも村に戻って気が抜けたのか、涙が浮かんできてワンワンと泣き出した。

 よかった、よかった。

 トムくんの小さな冒険は、ご両親にたっぷり怒られて終わることになるだろう。

 けれどその手に握られている薬草が、この冒険の成果だ。

 その薬草を見て、ヤンさんが怒り笑いのような顔になった。


「おめぇ、そんな所まで行ったのか。

 遠かっただろうによぉ」


ヤンさんがそう言って、また抱きしめている。

 その光景に僕がもらい泣きをしそうになっていると、僕の足に温もりが貼りついてくる。

 何事かと下を見ると、レイがピットリと抱き着いていた。

 レイってば、ベルちゃんの時もこうだったな。

 親子の触れ合いに、心を揺さぶられているみたいだ。


「レイも頑張ったな、偉いぞぉ」


僕がレイを抱き上げて、懐に入ったままのシロごとギュッとすると、さらにピトッと寄り添ってくるのが、まるで小動物めいていて可愛かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します」2巻がカドカワBOOKSより8月7日に発売されます!
ctpa4y0ullq3ilj3fcyvfxgsagbp_tu_is_rs_8s

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ