66話 トムくんを探せ!
「そりゃあ大変だ、すぐに探しに行かないと!
村の衆にも声をかけよう!」
「待ってください、モーリスさん」
慌てるモーリスさんに、けれど僕は待ったをかける。
「大勢で動くと、魔物を刺激してしまいます」
「それは、わかっていますが!」
もどかしそうに唸るモーリスさんに、僕は続ける。
「だから、僕が探しに行きます。
これでも、探索は得意なので」
「さがす」
いつの間にか親子丼二杯目と丸焼き肉を完食していたレイも、やる気を見せている。
「このあんちゃんと、ちっこいのが?」
ヤンさんが訝し気な目になる。どうやらヤンさんは、幼児無双の現場を目撃していないようだ。
けれど、村の人たちでは探索が無理な理由がある。
「それに今戦力になりそうな人は、皆怪我をしていますよね?」
「……そうでしたな」
モーリスさんに村の現状を確認すると、がっくりと肩を落として頷く。
その状態で大勢で探しに出るなんて、余計に危険だ。
それよりも僕一人で探しに行った方が、人目を気にせず早く行動できる。
「それに僕、トムくんがどこにいるのか分かるかもしれません。
薬草は、ゴルドー山にあるのではないですか?」
「……!
はい、群生地があるんです!」
僕が尋ねると、モーリスさんが何度も頷く。
となると、やっぱりゴルドー山の反応はトムくんか。
「けどよぅ……」
「あの、トツギさん!」
まだ僕一人に頼むのが不安らしいヤンさんだったが、彼がなにかを言うよりも早く、モーリスさんが僕に向き直った。
「村長としてトムの捜索を依頼をします!」
このまま揉めていても時間がもったいないと判断したらしいモーリスさんが、依頼の形で告げてきた。
「わかりました、お受けします。
レイ、シロ、行くよ!」
とうわけで、僕は夕闇の迫る中、ゴルドー山に向かうのだった。
村を出た僕らは、人目がなくなれば魔術で飛んでの高速移動で、あっという間にパネル地図で反応のある辺りに降りた。
村人が大勢で出られたら、この手が使えなくなるんだよね。
これも一人でって申し出た理由の一つだ。
それにしても、夜だから当たり前だけど暗い。
電灯なんてなくて、灯りといったらランプの火がせいぜいのこの世界では、日が暮れたら月や星明かりが頼りだ。
けれども山に入ったらその明かりだって、木々に邪魔されて届かない。
というわけで。
「ライト」
僕は魔術で灯りを出すと、それを宙にフヨフヨ浮かせたまま、山を進む。
うーん、トムくんがいるのはこの辺りのはずなんだけど、いないなぁ。
大きな声で呼べればいいんだろうけど、それで魔物を刺激したら駄目だし。
「レイ、なにか分かる?」
レイの気配察知に引っかからないかと尋ねてみるけど、首を捻っている。
たぶん魔物の反応があり過ぎて、トムくんの気配が消されてしまっているんだろうな。
なもんで、頼りの探索スキルの精度を上げるべく、パネル地図を精一杯に拡大してみる。
すると反応のある方向だけでも分かったので、そちらに向かって歩いていく。
途中襲ってくる魔物はレイが適当に狩って、キョロキョロしていると。
「ん? どうした?」
僕の裾をレイがグイグイと引っ張る。
どうやらなにかを見つけたみたいだ。
「トムくんがいたのかい?」
「あれ」
尋ねた僕にレイが指さして教えた先には、大きな木があった。
樹齢何年か分からないくらいに立派で、その根元をよく見たら、洞ができている。
「気付かなかったな」
昼だったらすぐに見つかったんだろうけど、暗いせいもあって見逃していたみたいだ。
それに目線が低いレイだから、見つかったみたいなものかな。
パネル地図と見比べると、反応があるのはその洞のある木のあたり。
となると、トムくんがいるのはあの洞の中か。
にしてもここって、結構山の深い所なんだけど。
六歳ってこんな所まで歩いてこれるものなんだな。
僕たちは念のために注意してゆっくり歩きながら、洞に近付くと。
「トムくん、そこにいるかい?」
出来るだけ穏やかに呼び掛けると、洞の中で物音がする。
「……だれ?
村の人じゃない」
そして、子どもの声が聞こえた。
「冒険者だよ、依頼で村の人に届け物をしに来たんだけど。
トムくんがいないって聞いて、探しに来たんだ」
説明しても、反応はない。
やっぱり知らない大人は怖いかな。
となると、大人じゃない方がいいかも。
「レイ、シロ、トムくんに洞から出てきてってお願いしてきてくれる?
もう大丈夫だからって」
僕はレイとシロに頼む。
「いってくる」
レイはコックリと頷くと、シロと洞の中へ入っていく。
でもレイもシロも、夜の闇の中でも白くて目立つな。
小柄なレイは、屈まなくても洞の入り口をギリギリ通れた。
「だいじょうぶ、でていい」
しかし他の三歳児と比べても口が達者ではないレイは、本当に僕が頼んだ通りの台詞しか言わない。
それでも幼児と子犬と言うビジュアルが安心感を与えたのか、やがてモゾモゾと戻ったレイとシロに続いて、知らない男の子が出て来た。
ツンツンした髪に日焼けした肌。
気の強そうな目をしているこの子が、トムくんだろう。





