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64話 丼ものは美味しい

僕たちがこうして親子丼を味わっていると。


「トツギさん、食べていますかな?」


そこへ、モーリスさんがこんがり焼けた肉の塊の載った大きな皿をもってやって来た。


「一番おいしい部位を是非にと言われましてな、持ってまいりました。

 それにしても、こんなに立派な肉まで売っていただき、どんなに感謝してもしきれませんん……!!」


モーリスさんが皿を捧げ持つような姿勢で、号泣してしまった。

 いやいや、その姿勢は止めて!?

 なんかイケニエを捧げられている気になるから!


「僕の方でも肉がだぶついてましたんで、その余剰を買い取ってもらっただけですから!

 そんなに頭を下げないでください!」


「なんとお優しいお言葉ぁ!」


モーリスさんは顔を上げたものの、さらに号泣モードだ。

 まあ、モーリスさんがこうなるのもわかるよ。

 食べるものが制限されると栄養が摂れなくなって身体が弱るし、気持ちも荒むってものだ。

 きっと村の中で些細なものから大きなものまで、揉め事が絶えなかったことと想像がつく。

 そこへ来ての、山賊襲来だ。

 このままだと村人たちのストレスがピークに達しただろう。

 けれど突如の肉投入で、村人たちのストレスが吹き飛んだと。

 うーん、肉パワーって凄いな。

 僕が感心していると。


「ところで、トツギさんたちは、変わった料理を食べられてますな?」


モーリスさんが、僕らの会話をガン無視して親子丼に夢中なレイを、チラッと見て言った。

 やっぱり気になるのか。

 レイが貰った丸焼き肉も気になるようなので、一口サイズに切り分けてあげつつ、モーリスさんに説明した。


「これは丼物という料理でして。

 上に載っている黄色いのが卵で、下に詰まっているのは、実は大麦です」


「大麦!? あの大麦ですか!?」


モーリスさんの驚くのに、僕は苦笑する。

 やっぱりこのあたりでの大麦は飼料なんだな。

 親子丼を離そうとしないため両手が塞がっているレイに、僕は切り分けた丸焼き肉を「あーん」で食べさせながら、僕は話を続ける。


「ええ、家畜の餌に使われる大麦です。

 けど僕の故郷では料理して食べるんですよ」


「ほう! ところ変われば、ですなぁ!

 けど分かります、この村で普通にスープなんかに使う香草が、ニケロでは雑草だと言われますからな」


モーリスさんがそんなことを言う。

 なるほど、この辺りに自生しているハーブがあるのか。

 どんなものなのか、後で探してみよう。


「それに大麦が食べられるなら、助かるというか。

 実は、小麦の保存小屋がいくつか焼けましてな。

 しかも小麦畑も荒らされ、今期の収穫が減る見込みなのです」


「そりゃあ困りますね。

 あ、でも大麦ならあるとか?」


「そうなんです、飼料は村はずれに保管していたんで、無事なんです」


「なら、口に合うかどうか、試しに食べてみますか?」


というわけで、モーリスさんに丼物を御馳走することになった。

 けれど親子丼ではなく、作り置きの牛丼だ。

 盛り付けて差し出された牛丼の器を、恐る恐る受け取ったモーリスさんが、しばらく呼吸を整えてから、意を決して食べる。


「うん? 美味いぞ?

 なんでだ?」


思わず疑問を口にするモーリスさんだけど。

 今まで家畜の餌だって思っていたのが美味しかったら、そりゃあそんな反応になるよね。

 モーリスさんが試食している間に、僕も丸焼き肉を食べるが、これがまたジューシーで美味しい!

 丸ごと焼くから、旨味が逃げないのかな?

 それはともかくとして、今は大麦だ。


「これは大麦を炊いたものなんですが、よければ教えましょうか?

 炊き方はそれほど難しくないですし」


「本当ですか!?

 助かりますぅ……!」


とうとうモーリスさんが泣きだしてしまった。

 なにせこんな状況だから、足りない食糧を仕入れるにしても、すぐに手に入るはずがない。荷馬車が動いていないからね。

 ただでさえ肉が獲れなくなっているのに、その上小麦まで駄目になってしまうと、村人は飢えるしかなくなる。

 この難題をどうするか、頭を抱えていたであろう所で解決策を見つけたのだから、嬉しいのもわかる。

 大麦だったら十分にあるので、数か月はもつだろうとのこと。

 そして買い出しするにしても、当然大麦は小麦よりも安い。

 小麦の収穫が見込めない今、安価な大麦で済むなら助かることだろう。

 ちなみにだが、流通がストップしている街道なんだけど。

 現在この村からニケロの街まで、人を走らせていたりする。

 何故なら、山賊たちを領主様の兵に引き渡す必要があるからだ。

 なので村の男の中でも元気そうな人を選んで、馬で向かってもらっているのだ。

 今なら僕らが魔物を根こそぎ狩っているので、街道が安全だということで。

 山賊たちが引き渡されたらいくばくかの報奨金が入ると、モーリスさんが言っていたが。

 山賊の数人は村人たちで倒していたので、報奨金は折半だと話はついている。

 僕がその報奨金を使ってこの村で買い物をすれば、まわりまわって村の人が潤うだろうと計画中だ。

 しかしそれも、今すぐにどうなるものではない。

 当面の食べ物は、今回売ったマーダーモンターナと大麦の活用でなんとかなるとして。

 今後を考えると、やっぱり普通に猟師が狩りをできなければ、すぐにまた前の状況に逆戻りだ。


「うーん、ゴルドー山かぁ」


僕は村から見える山の頂を眺める。

 気になるけど、今ガイルさんたちが調べてくれているんだし、待った方がいんだよね?

 そう思いつつも、心のどこかがモヤモヤしている僕の裾を、クイクイと引く小さな手がある。

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