63話 肉パーティー
山賊に襲われて、大変な目に遭ったアイカ村だったが。
日が傾いてきている時刻である現在、広場では肉パーティーの準備が進行していた。
「肉よ肉、しかも干し肉じゃないなんて、いつぶりかしら……!」
「しかもマーダーモンターナなんて、普段でも食べられるもんじゃなし!」
広場の片隅で肉を捌いている奥様方が、ある人は涙ぐみ、ある人は興奮で目を血走らせて、包丁を握っている。
一方で、男衆は動ける人を総動員して、広場から僕が持ち込んだマーダーモンターナを離れたところで解体していた。
さすがに今日全てを解体するのは無理だということで、小出しにしている。
とりあえず今日は、これから食べる分を解体して捌いてという流れ作業が出来ている。
僕たちはその様子を、広場の片隅で見守っていた。
「おにく、みんなうれしい?」
肉パーティーの準備模様を、レイが不思議そうに首を傾げているので、僕は状況を教えてやる。
「この村の人たち、ずっとお肉が食べられなかったらしいからね。
久しぶりだからすっごく嬉しいんだと思うよ」
「おにくが、ない……!?」
するとレイが真顔で固まってしまう。
どうやら肉が食べられないというのが、レイにはショッキングであったようだ。
そうだね、肉食幼児なレイには、肉が食べられなくなったら事件だよね。
「ゴルドー山からつよーい魔物が降りて来ちゃったせいで、村の人が危なくてお肉を狩りに行けなくなってたんだって」
「あぶない、ダメ」
レイなりに、魔物が多くて危ないという認識はうっすらとあったようで。
納得したようにコックリする。
「だから、早くゴルドー山で何が起きているのか、わかるといいねぇ」
僕の話をレイが本当に全部をちゃんとわかったのかは定かではないが、納得顔でゴルドー山をじぃーっと見つめていた。
それはともあれ。
僕も料理の準備をしなくっちゃだな。
モーリスさんからは御馳走するって言われたけど、レイには親子丼を作る約束をしたしね。
というわけで、親子丼を作っていく。
その間、レイは葉物野菜を千切ってサラダを作るお手伝いだ。
まずはマーダーモンターナの肉を適当な大きさに切り分け、玉ねぎを薄切りにする。
そして小鍋に、牛丼の具で使った「とまり木亭」の御主人特製ダレと水を適量入れると、煮立たせてから肉と玉ねぎを加えてさらに煮て。
仕上げにマーダーモンターナの卵を溶いたものを回し入れ、半熟状になれば火から降ろす。
これを、あらかじめ用意していた麦飯を盛った器にそっとのせたら、親子丼の完成だ。
適当な葉物を散らせば、ぐっと高級感が増した。
親子丼とレイ作サラダ、アイカ村の奥様方が作ったスープが並べば、夕食メニューの完成だ。
レイのサラダには、ブリュネさんのご近所さん特製ドレッシングがかかっていて、美味しそうに仕上がっている。
地面にシートを敷いた上に座り、それぞれの目の前に料理を並べる。
いつもならテーブルとイスを出すんだけど、村の皆が広場に集まってピクニックみたいにしているから、僕たちもそれに倣ったってわけだ。
「たまごとおにく!」
「そう、約束通りレイの好きなもので作ったから。
たーんと食べてくれな」
目を輝かせるレイに、僕は笑いかける。
僕らの他はどうしているかというと。
広場の真ん中ではたき火をして肉の塊を丸焼きしていて、まるで地球のケバブみたいに焼けた肉をそぎ落として配っている。
肉の焼けるいい匂いがするので、後で貰いに行こう。
しかし今は、目の前の親子丼だ。
「「いただきます」」
「アン!」
食前の挨拶をすると、早速僕とレイはスプーンで親子丼を掬い、シロは器に顔を突っ込む。
うーん、和食には箸が欲しくなるなぁ。
今度、手触りのいい木を探して作ってみるか。
そんなことを考えつつ、僕は親子丼の乗ったスプーンを口に運ぶレイを眺める。
「……!」
すると、レイはカッと目を見開いたかと思ったら、真剣な表情でモグモグしてからゴックンすると、目を閉じて余韻を味わうかのように黙った後。
「びみ」
一言呟いた。
美味ってことかな?
どこでそんな言い方を覚えたんだろう、ブリュネさんあたりが言いそうではあるけど。
そんなレイの観察は程々にして、僕も親子丼を食べる。
卵がトロトロで玉ねぎの味も染み出ていて、これまで食べた親子丼の中でも最高に美味しい。
味付けは慣れた和風ではないんだけど、「とまり木亭」の御主人特製ダレがなかなかに合っている。
ニケロの街へ戻ったらお礼を言わなきゃ。
それにしても、これは肉もそうだが、卵も美味しいからだろうな。
……やっぱり、マーダーモンターナの巣を探したくなってきた。





