62話 依頼完了、からの再会
その後、書類にモーリスさんから依頼完了のサインを貰ったら、補給物資運搬の仕事は終了だ。
それから村に一軒だけだという宿屋の場所を教えてもらい、支払いはモーリスさんが持つという一筆も受け取って向かう。
その途中で、怪我人を集めて手当てをしている現場に遭遇したので、おやつを食べて休憩したおかげで魔力が回復した僕は、コッソリ治癒の術をかけた。
急激に完治しても謎と混乱を呼びそうだから、寝て起きれば朝には治っているイメージで。
一番重症だという人も一晩で治るってことだけど……そこは妖精の悪戯ってことでどうかな?
そんな通りすがりの一仕事をこなして、再び宿へ歩いていると。
「おんやぁ?
兄ちゃんじゃねぇか」
そんな声をかけられた。
この世界での知り合いがまだまだ少ない僕なので、誰だろうかと思って振り返ると、どこか見覚えのあるおじいさんがいる。
って、ニケロの街まで荷馬車に乗せてくれた人だ!
「ども、お久しぶりです!
ここはあなたの村だったんですね」
「おぅよ、そういう兄ちゃんはチビもワンころも一緒だが、またなんでこんな時にここにいるんだぁ?」
思わぬ再会に驚く僕に、おじいさんの方も首を捻っている。
そうだよね、魔物の問題で乗合馬車も商人の行き来もなくなっているのに、余所者がいるって不思議だよね。
「実は冒険者になりまして、ギルドで補給物資の運搬を引き受けてきたんです」
「そうかい!
はあぁ、兄ちゃんは腕の立つお人だったんだなぁ」
僕が伝えた内容に、おじいさんが感心しきりである。
あ、そうだ。この際せっかくだから聞いてみよう。
さっきモーリスさんに聞きそびれていたし。
「あの、この村で獲物を解体してくれる店ってありますかね?」
そう、村に着いたらマーダーモンターナの肉を料理すると、レイと約束したのだ。
早くしないと、一度我慢してもらったんだから、二度目の我慢は可哀想だ。
「おお、それならウチの息子が店で請け負っとるぞ。
なんでも扱う雑貨屋だ」
なるほど、リンク村の雑貨屋みたいなものか。
「ついでにその獲物の肉、余計にあるなら売ってくれるとありがてぇんだがな。
なにせ山賊と魔物のせいで、猟師が山へ入れねぇんだ」
「ははぁ、肉がないのは困りますね」
肉は健康維持のために必要な食材だ。
補給物資は保存のきく物が大半だろうから、あっても干し肉だろう。
「すごくたくさん狩ってしまったので、分けるのは構いませんよ」
むしろ狩り過ぎて、一体どのくらいの期間食べれば無くなるのか、謎だし。
「そうか!
そりゃあ助かる!」
こうしてマーダーモンターナの一部を売ることが決まった。
「レイ、疲れたなら先に宿へ行くけど……」
僕が一応、レイに確認しようとすると。
「おにく」
レイは僕がみなまで言うまもなく、即答である。
そうか、そんなに鳥肉を楽しみにしていたんだね。
卵だって養鶏のものとあんなに違ったんだから、肉だとどんだけなんだと期待が高まるよな。
というわけで、レイたっての願いもあり、宿より先に雑貨屋へ行くことにした。
雑貨屋は山賊被害を免れたそうで、特に壊れたり焦げたりはしていなかった。
僕らを先導するおじいさんがドアを開ける。
「おぅいザッシュ、客だ客!」
「あぁ!?
冗談を言ってるな父さん。
こんな時にそれどころじゃねぇだろうが!」
声をかけたおじいさんに怒鳴り返してくるのが、店主だという息子さんだろう。
年齢は四十代くらいか。
「すみません、マーダーモンターナを解体して、素材を買い取ってほしいんです。
肉は半分程度渡してもらえれば、残りは買取で構いません」
僕が喧嘩になる前にと割って入って説明すると。
息子のザッシュさんだけではなく、おじいさんもポカンとしていた。
あれ、どうしたんだろう?
僕が首を傾げていると。
「「マーダーモンターナぁ!?」」
二人揃って叫ばれた。
店の中の品物を見ていたレイが、ビクッと驚いて僕の足に抱き着き、シロがレイの頭の上から落ちる。
「マーダーモンターナって、あの暴れ鳥か!?
群れで出る行商の敵の!?」
「それを、兄ちゃんが狩ったぁ!?
ありゃあ軍を出してもらわにゃならん魔物のはずだがなぁ……」
ザッシュさんとおじいさんが口々に言う。
あれ、そうだったの?
レイがあっさり狩ったから、そんな大物だと思わなかったな。
っていうか、またこのパターンか!
「どうも街道沿いに巣が出来ていたようで、危ないので根絶やしにしてきました」
僕はそう話しつつ、鞄をゴソゴソしてマーダーモンターナを頭だけチラ見せしてみせた。
「マジックバッグか!」
「しかも根絶やしたぁ……」
「だから山ほど入ってます。
それで、解体お願いできますかね?」
呆気にとられるザッシュさんとおじいさんに、僕がお伺いをたてると。
「待て、猟師連中に声をかけてくる。
ここのところずっと村のモンは肉をろくに食えてねぇんだ。
こりゃあ祭りだぞ!」
するとザッシュさんがそう言うなり、店を飛び出して行った。
残されたのは、僕らとおじいさんだ。
「はぁ、兄ちゃんは大物だなぁ」
「はは……」
おじいさんの尊敬の眼差しに、僕は笑って誤魔化す。
僕も一応いくらか倒したけど、根絶やしにしたのは主にレイだしな。
そんなやり取りをしていると、レイが僕の服の裾をクイクイと引いてきた。
「どうした? レイ」
「おにく、たべられる?」
ザッシュさんが飛び出したのが不安だったのだろう。
どうやら話の流れが分からなったらしい。
「うん、食べられるよ。
卵も使って、美味しいのを作ろうな。
親子丼っていうの」
「おやこどん」
レイがかすかに表情を明るくする。
親子丼がどんな料理か分からないだろうに、「卵も使って」というのが嬉しいようだ。
こりゃあ、気合を入れて作らなきゃな!





