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60話 山賊も魔物も同じです

「大丈夫ですか? 怪我はありませんか?」


「はい、私は隠れることができたので……」


僕が尋ねると、彼女は弱々しいながらも頷くので、そのまま聞いてみた。


「こいつらは何者ですか?」


「山賊ですっ!

 ゴルドーの中腹辺りを根城にしていて、時折数人が街道を襲う程度だったのに。

 何故か今回は大勢で村を襲って……!」


彼女が泣きながら説明する。


 ――ここでもゴルドー山かぁ。


 ここまで発生した問題は、たいていがゴルドー山だな。

 本当に、なにがあっているんだろう?

 けど、それはともかくとして。

 山賊の方はレイに任せておけばいいかな。

 いくら武器を持っていたって、レイをどうにかできそうな相手は、上空からざっと鑑定してみたけどいなかったし。

 となると、僕の仕事はのされた連中の拘束と、消火活動か。

 なわけで、僕は放置されている山賊たちを見つけては魔術で地面に埋める作業をしていく。

 竈作りで土いじりに慣れた成果が見せられたね。

 そして燃えている家屋の消火だ。


「ウォーターシャワー」


こっそり小声で唱えると、上空に水が集まったかと思ったら、大雨のように降り注ぐ。

 フワフワ飛んでいたシロがこのせいで濡れそうになり、慌てて僕の所へ逃げてきて懐へもぐりこむ。


「なんだ、雨?」


「でも、ここだけ?」


超局地的な大雨は、懸命に井戸に水をバケツでかけていた村人たちが、不思議そうに首を捻っている。

 僕の今の魔力量だとあまり長時間降らせられないので、家屋の上の方の火の手が消えたら、後は村人たちのバケツリレーで消せる程度だ。

 そうなると後は任せることにして、次の火事現場へ行く。

 魔術を使っていて感じるんだけど。

 風や土のように元々あるものを利用する魔術より、火や水といった生み出す過程のいる魔術の方が、魔力を使うっぽいんだよね。

 多分、火や水の魔術は上級者向けなんだろう。

 ともあれ、こうして山賊を埋めて火を消してと動き回るうちに、魔力が切れそうなクラッとした感じがしたので、確認すると魔力の残りが2になっていた。

 危ない、これが0になると昏倒するのは、既に実験済みだ。

 レイとシロを驚かしたらいけないので、夜寝静まってからやってみたんだけどね。

 気絶して次に気付いたら朝の遅い時間だったっけ。

 珍しく寝坊した僕に、レイが不思議そうな顔をしてたな。

 魔力が無くなりかけているのなら、僕の役割は終了だ。

 大混乱な村人を横目に、広場なっているところまでやってくると、片隅にベンチがあるのを見つけてそこへ座る。


「あー、疲れた」


するとちょうどそのタイミングで、レイが両手に「荷物」を引きずりながら駆けてきた。

 ……「荷物」からは「うっ」とか「ごあっ」とか呻き声が聞こえて、引きずられているから擦り傷だらけだけど。

 僕はその待遇を叱る気にはならない。

 まあレイにとって敵は、山賊だろうが魔物だろうが扱いは同じってことだな。


「お帰りレイ、片付いたかい?」


そう尋ねると、レイは「当然だろう」的なドヤ顔で頷く。


「そっか、じゃあ動いてお腹が空いただろうし、おやつにするかい?」


「……!」


おやつと聞いてレイの口角がかすかに上がり、山賊をポイっと放り投げると、いそいそとベンチの僕の隣によじ登って座る。

 僕の残りの微かな魔力程度でも山賊たちを埋めるくらいはできるので、ちゃんと埋めた。

 それから鞄から濡れタオルを取り出して、汚れているであろうレイと僕の顔と手を拭いたら、おやつと飲み物を取り出す。

 今回のおやつは、ニケロの街の市場で買ったクッキーだ。

 色々な野菜が練り込んであって、見た目がカラフルな上に栄養もとれるという優れものなのだ。

 そのクッキーと、温かいまま入れておいた飲み物を出す。

 僕はタイム茶、レイはホットアポルジュースだ。

 レイにまずは水分補給にジュースを飲ませてからクッキーを渡すと、レイは無表情にモグモグしてから告げる。


「おいし」


「うんうん、動いた後のおやつは美味しいよな」


僕も野菜クッキーを口に入れながら、レイに同意する。

 シロも「くれくれ」と言わんばかりに前足で僕をぺしぺししてくるので、わけて上げていると。


「あのぅ……」


横手から声をかけられた。


「はい?」


僕がそちらを振り向くと、恰幅の良い髭もじゃのおじさんが立っていた。

 年齢は五十代くらいだろうか?

 その態度は恐々ながらも勇気を振り絞っているといった様子だ。

 こんな状況だし、余所者な僕らははっきり言って不審だよね。

 なので僕は持っていた野菜クッキーを全部シロにやって、ベンチから立ち上がる。


「この村の方ですか?

 はじめまして、僕は冒険者ギルドで物資運搬の依頼を請け負った者です」


「おおっ!?

 そうだったのですか!

 村の者からちっこいなにかがものすごい勢いで残賊どもを狩っているだの、知らない男が山賊を埋めて回っているだのと聞いて、もしやと思ったのですよ」


僕の自己紹介に、おじさんがあからさまにホッとしている。

 どうやらこのおじさんは、レイが山賊退治をしている現場を見ていないらしい。

 だったら子どもが無双していたなんて聞いても、意味不明だよね。


「村へ向かっていたら遠目にも様子がおかしいなと思いまして。

 お節介ながらも手助けをした次第です。

 怪我人などはいますか?」


おやつ休憩をしていたらちょっと魔力が回復しているから、もうしばらく休憩したら治癒の術をかけられると思うんだよね。

 そう思っての僕の質問に、おじさんが深々と頭を下げてきた。

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