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59話 緊急事態っぽい

僕的には最高に美味しいが、レイはどうかなと思って見てみると。


「……」


レイは目を閉じて、じっくり味わるようにゆっくりとモグモグしている。

 まるで有名な美食家の食事風景のようだ。


「レイ、美味しいかい?」


その様子を見れば一目瞭然なんだけど、一応聞いてみる。

 それにこういう感想は、ちゃんと言葉に出して表してほしいし。

 黙っていてもわかってくれるという風に会話に甘えを持っては、今後困るのはレイだ。

 いいことはどんどん口にして、悪口は黙る。

 これ、コミュニケーションの基本ね。


「これ、すき」


するとレイは僕を見て断言する。

 お、今までにない反応だな。

 もしかしてレイは、卵料理が好物なのかも?

 肉食幼児にとって、肉の元である卵は口に合ったか。

 こりゃあ、卵料理のレパートリーを増やしておかなきゃ。

 ……マーダーモンターナの巣、まだその辺りにないかな?

 あと、他にも美味しい卵が採れる魔物を、今度ギルドでチェックしておこう。



こうして卵料理に満足した、翌日。

 この日も朝からアイカ村に向かって歩いているのだが。


「ご機嫌だね、レイ」


「ん!」


昨日のオムレツがかなり美味しかったのか、機嫌よくズンズン進むレイの足取りは軽い。

 おかげで予定よりも早くアイカ村に到着しそうだ。


「そろそろ見えると思うんだけど、あれかな?」


僕は小高い丘の上からパネル地図を見ながら確認し、やがてそれっぽい集落を発見する。

 どうやらあそこかアイカ村のようだ。

 けれど――


「……なんか、様子がおかしいな?」


見れば村のあちらこちらから煙が上がっている。

 その煙は煮炊きに煙というより、何かが燃えているように黒っぽいもので。


「火事?

 大規模なたき火?

 にしてもなんだろう、変だ」


首を捻る僕の服の裾を、レイがグイグイ引っ張ってきた。

 その表情は怖い顔で、村の方向を睨んでいる。

 これは、良くないことが起きているということか。


「よし、レイ!

 ちょっと飛ばして行こうか!」


僕はそう言うとレイを抱え、シロを懐に入れると。


「フライング」


魔術を発動すると風が身体にまとわりつき、猛スピードで地面を滑るように進んでいく。

 幸いに今はこの街道を通る人はいないから、全速力で行くよ!

 村へ近づくにしたがって、焦げ臭さが鼻につくようになる。

 それに家屋が燃えているのがちらりと見えて、たき火という可能性が消えた。

 そしてあっという間に村の目の前まで来たところで、上空に飛んで村を見下ろす。

 この上に飛ぶのは、シロが飛んでいるのを見ているレイがどこか羨ましいみたいだったから、一緒に飛ばしてやるべく編み出したアレンジである。


「ただの火事?

 いや、暴れている奴がちらほら見えるな」


この身体になって劇的に視力が良くなった目を凝らせば、火が上がっている家屋に紛れて、複数人が剣を振り回している姿が確認される。


「レイ、村が襲われているみたいだから、助けに行くよ!」


「ん!」


僕の意見にレイが力強く頷くので、続けて言う。


「悪いことをしているっぽい奴は、生け捕りだよ?

 後から話を聞けるようにしておいてね」


これに、レイは一瞬の間を置いてから。


「……ん」


不承不承と言った感じの返事であった。

 レイ、今の間って「面倒そう」とか考えたんじゃないよね?

 この「生け捕り」の方針は、僕に人殺しをする度胸がない、というのが大半の理由だったりするんだけど。

 情報集めが難しいこの世界では、人から入手できる話は貴重な情報源である、ということもある。

 ぶっちゃけ、殺すことはいつだって出来るんだから、まずは治安を守る兵士の人にでも引き渡して、仲間の情報を得るのが優先だろう。

 こうして大事な事を確認している間、誰も上空を仰ぎ見たりはしなかったので、まだ僕らの存在は気付かれていない。


「レイ、行って!」


僕がレイの身体を離すと、レイは自分でも僕の身体を軽く蹴って勢いをつけると、弾丸のように村の中、人がもみ合っている現場へ飛び込む。


「なんだこのガキ!? どっから湧いたんだ!?」


突然目の前に出現したように見えるレイに、村の中で暴れていた男の一人が驚く。


「まあいい、どうせガキだ!」


それでもレイをただの村人だと勘違いした男は、洗練されているとは言えない緩慢な動作で剣を振り下ろす。

 うーん、ブリュネさんの剣に比べると子どものお遊びに見えるな。

 当然ながら、その剣は空振りした挙句、レイの蹴りをくらってあえなくノックアウトである。

 そして続けざまに暴れていた団体を片付けると、レイはすぐに次の獲物を求めて駆けていく。

 その跡地に降り立った僕は、懐から飛び出たシロを横目に、レイにのされた男を観察する。


「うーん……」


その格好はあまり村人っぽくない。

 なんというか……


「山賊?」


そんな風に思い至っていると。


「あの、助けが来たのですか?」


年配の女の人の声がしたかと思ったら、崩れかけた家の塀の陰から姿を見せた。

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