5話 装備を選びましょう
「さて、これからどこへ行ったものかな」
僕がそう呟くと、またまたパネルが現れた。
今度はどうやら地図を映しているようで、赤い三角のマークがチカチカしているのが、もしかして現在地なのか?
「ねえ、ちなみに『世界の中心の塔』ってどこ?」
僕が尋ねるとパネルの地図が縮小されて、青い三角マークが現れる。
なるほど、世界の中心という名前だけあって地図の中心にある。
そして現在地はそこからかなり離れていて、海を隔てた違う大陸である。
うん、あそこから遠いから簡単に戻れないことはわかった。
それに塔は機能停止しているんだから、戻っても仕方ないだろうし。
「となると、ここから最寄りの街か村はどこだろう?」
僕のさらなる疑問に、しかしパネルの画面が少々乱れたかと思えば、「只今更新中」という文字が浮かび上がる。
そう言えばあのコンピューター、最後に不安なことを言っていなかったっけ?
「千年くらい外の様子を知らない」とか。
そりゃあ情報が古いから更新が必要か。
この更新作業でかなり待たされ。
レイが暇を持て余したらしく、草を千切っては投げるという幼児らしい遊びを始めた。
綺麗な子だし無口なので、やはり人形めいた印象だったんだけど。
普通に幼児らしいところがあるんだな、とホッとする。
そんなレイの様子をほのぼのとした気分で観察しつつ、しばらくした頃。
「お、ようやく更新が終わった」
パネルに再び地図が映し出されたので確認すると、青い三角マークが複数あった。
「うーん、大きな三角マークと小さな三角マークかぁ。
規模の違いなのかな?」
地図の縮尺から計算すると、ここから歩いて一日程度の場所に小さな三角マーク。
三日程行けば大きな三角マークがある。
さらに地図を縮小して離れた場所を見れば、もっと大きな三角マークがあるので、こっちの方がもっと大きな街なのかも。
ひょっとしたらこの辺りは田舎なのかな。
「とりあえず、一番近い所にいってみるかぁ。
ほらレイ、ここに行こうか。
どんな所だろうね?」
レイにも地図を見せてみるが、無表情に首を傾げるだけだった。
まあ、子供に地図は難しいか。
ともかく、向かう場所が決まったなら出発だ。
「ここまで歩くから、こまめに休憩しながら行こうね」
レイの両脇に手を入れて立たせて土埃を払うと、僕も立ち上がる。
こういう場合って、手を繋いだ方がいいのかな?
でも身長差があり過ぎて、手を繋いで歩くってどっちも歩きにくそう。
「ゆっくり歩くから、服の裾を握っとく?」
そう言ってコートの端を手に持たせると、レイは僕をじぃーっと見てからそれをギュッとしっかり握り込む。
おお、だんだん意思の疎通ができてきたんじゃないか?
「じゃあ、出発だ!」
というわけで、僕とレイは異世界の地へと歩み出した。
道なんてないため方向を外れてはいけないので、地図は出しっぱなしで進むことにする。
「疲れたら裾を引っ張っていいからな」
歩きながら、レイにそう言っておく。
僕も気を付けるつもりだが、こちらが予想している以上に体力がないかもしれないし。
それから二人して無言で歩くことしばし。
今のところ順調だ。
無言だけど。
大事なことなので二回言いました。
おかげで小枝にとまる小鳥のさえずりが良く聞こえる。
今季節はどのあたりなのか、木漏れ日が気持ちよく爽やかな風がいい気分だ。
けれどこれが夜になるとどうなるかわからない。
丸一日は歩くとなれば、今夜は確実に野宿だろう。
荷物のテントが快適空間だといいけど。
それに、できれば食べられそうなものを採っておきたい。
あの味気ない食事が続くのはやっぱり勘弁かな。
こういう時に、探索を使うべきだろう。なんかRPGっぽくなってきたぞ!
「……って、そうなると武器くらい持っておくべきかな」
採取するのにナイフみたいなのはいるだろう。
それにこの世界がどんな世界なのかわからないけど、「全属性魔術」でも生きていくのに確実じゃないってことは、魔物とかが跋扈するような所かもしれないし。
「武器とかあるかな。お、あるある」
パネルが画面分割して武器一覧を表示したので、歩きながら確かめる。
どうやら長剣・短剣・ナイフ・槍・弓などなど、武器は一通り揃っているようだ。
あと防具が革の胸当てにローブ。
なんか、見るからに初期装備って感じだな。
まあ、こちらは異世界初心者なんだから、初期装備でいいんだけど。
「うーん、武器は短剣でいいかな」
単純に、剣とか槍なんかを扱える自信がない。
短剣を取り出すと鞘とベルト付きで出たので、立ち止まってそれを装着する。
あと防具も革の胸当てを装備した。
これでいっぱしの旅人っぽく見えるだろうか。
「あ、レイにもなんか装備がいるかな?」
日本であれば幼児に武器なんてとんでもない、と言われるところだろうが。
ここは異世界、危険は大人も子供も区別してくれないだろう。
でも重たいものを装備させても動けなくなるだろうから、ナイフにしておこうかな。
それに武器としてだけじゃなく、木の実を採るのとかにも役立つだろうし。
防具とかは成長を見つつ追々ということで。
「ほら、このナイフはレイのだからな」
やはり鞘とベルト付きで出て来たナイフを、レイに装着してやった。
すると僕の短剣と自分のナイフを交互に見て、首を傾げている。
うん、こうしているとお揃いだね。