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58話 卵をゲット

大量にマーダーモンターナを狩った僕らだったが。

 解体ができない以上、これを料理するのは後でのお楽しみである。


「レイ、食べるのはアイカ村で解体してもらってからな」


僕がそう言うと、レイはちゃんと頷いてくれたものの、がっかり感は否めない。

 どうやらすごく食べてみたいらしい。

 そんなレイをシロが足元から見上げているが、がっかり過ぎて相手をできないでいる。

 うーん、やっぱり解体技術を学んだ方がいいかも。

 それでスキルになったらラッキーだし。

 そのシロは、マーダーモンターナを怖がる様子はない。

 これが自分より格上の魔物だと、たとえ死体であっても怖がると思うのだが。

 となると、ウィングドッグは成獣であればマーダーモンターナよりも格上なのだろう。

 ちなみにシロは戦闘中も邪魔にならないように大人しく僕の懐に入り込み、たまに氷の息を吐いてダメージを与え、ちゃっかり、しかし地道に経験値を稼いでいた。

 それはともかくとして。

 今は、しょんぼりなレイの気分を上げる方が先だ。

 マーダーモンターナの肉は食べられないけど、卵は食べられる。

 鑑定すると「生食可」って出たんだよね。

 それにこの街道沿いにかなり大規模に巣を作っていたみたいで、結果として結構な数の卵が手に入っているんだよね。

 ちなみに、鳥の肉や卵は市場で養鶏や野鳩などのものが売られている。

 けれど魔物の肉や卵は魔力を含んでいるので、より味が濃厚に感じられるのだという。

 これはぜひとも味見をして比べねば!

 にしても、僕としては卵ゲットでラッキーだったけど、治安的にはアウトだよな?

 だって人が頻繁に通る真横で繁殖って、危ないなんてものではない。

 こうなると、ガイルさんたちの調査結果が早く出ることを願うばかりだ。

 まあそれはともかくとして、今は俯き気味なしょんぼりレイの方が先だな。


「レイ、今日はお肉は無理だけど、卵でなにか作るからさ。

 きっと市場で買った卵よりも美味しいよ?」


僕が両手で持つほどに大きな卵を見せてそう言うと、レイはちょっぴり顔を上げた。


「たまご?」


僕はレイの両手に卵を載せる。

 その卵をシロもフンフンと臭いを嗅ぎに来る。

 こんなに大きいのだから、卵焼きにすると何人分になるのだろうか?


「そう、この卵でなにかフワフワなのを作って食べよう」


僕の提案の「フワフワ」と聞いて心が動いたらしいレイが、とたんに目をキラキラさせる。

 うん、今夜は卵料理で決まったな。

 でも、卵料理かぁ。

 フワフワだと卵焼きもいいけど、子どもが喜ぶとなると、やっぱりオムレツかな?

 オムレツ自体は「とまり木亭」でもメニューにあったんだけど、フワフワじゃあなかったんだよね。

 ……ネックになっているのはメレンゲかも。

 となると、やっぱりスキルか。



というわけで、その日の夜。

 アイカ村まで歩けば三日だし、地図で確認したら明日にでも着くだろう場所で、野宿となった。

 テントを設置して布団もセットし、テント前に敷物を広げてその上にテーブルセットを設置すれば、野宿とは思えないダイニングスペースの完成だ。

 そして竈を作るんだけど、最近では魔術を使って作っている。

 こういう細かな作業で、繊細な扱いをマスターしていこうと思ってのことだ。

 こうして作った竈で、早速オムレツ作りの準備を始めると。


「たまご、フワフワ」


レイは僕の手元を、傍目には分かり辛いだろうがワクワクした様子で覗き込んでいる。

 レイが待ちきれなくなる前に、手早く作ってしまおう。

 まずは先に、オムレツの具を作ることにする。

 芋を蒸して潰し、『粉砕』でひき肉にしたイビルボアの肉を炒めて、二つを混ぜておく。

 それからいよいよマーダーモンターナの卵を取り出し、卵黄と卵白に分けると、手ごろな器に卵黄を入れて混ぜる。

 次に別の器に卵白を入れ、『攪拌』でメレンゲにすると、混ぜた卵黄の器にメレンゲを加えて混ぜ。

 油を熱したフライパンに入れたら、蓋をして弱火で蒸し焼きにする。

 途中で具を上に載せて、それを挟むように二つに折ったら完成だ。


「フワフワ!」


このオムレツを見たレイのテンションはだだ上がりだ。

 うーん、自分史上最高にフワフワなオムレツかもしれない。

 しかも卵の匂いが濃い。

 オムレツを皿に盛り付け、トマトソースを添える。

 このソースは「とまり木亭」の御主人お手製で、このソースでレイのオムレツにデフォルメされたシロの顔を描いてみた。

 オムレツだと主食はパンだろうと、僕は黒パンでレイはパンケーキを出す。


「レイ、これがレイの分な」


オムレツの皿をテーブルに置くと、レイは無言でいそいそと椅子によじ登り、「ふわあぁ!」と言わんばかりの表情でオムレツを観察している。

 その足元にいるシロにもちゃんと皿を置いてやり、自分の分も並べると、早速実食!


「いただきます!」


「いただきます」


「アン!」


それぞれに食前の挨拶をすると、レイは早速オムレツのソースで描かれたシロの顔の真ん中にスプーンをぶっ刺したのは、ある意味レイのお約束だ。

 その様子を横目に、僕もスプーンで掬い取ったオムレツを、口に入れる。


「……!」


想像以上の味に、僕は驚く。

 卵は思っていたよりもずっと濃厚で、生クリームを入れたわけでもないのにとてもクリーミーで。

 中に入れている具材に絡んだ、ねっとりとした部分もまた美味しい。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新ありがとうございます! レイくんがかわいくて何度も繰り返し読んでます。 フワフワオムレツよかったね〜。 コロナ禍の中、大変だと思いますが、これからも楽しみにしておりますので、無理なさらず…
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