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55話 例のアレ

食料品の買い出しが終わると、次に向かったのは鍛冶屋だった。

 ここはブリュネさんに紹介された店だ。

 以前にとあるものを注文していて、それがそろそろ出来上がっていると思うんだけど。


「おはようございまーす」


「おはよござます」


「アン!」


僕が朝の挨拶をしながら鍛冶屋に入ると、レイもシロも真似するように言いながら続いて入る。


「誰でぃ、ってあんちゃんか」


すると店の奥から出て来たのは、大柄で筋肉ムキムキなおじさんだった。


「アレ、そろそろ出来ていますかね?」


「ああ、そろそろ取りに来る頃だと思ってたぜ」


僕の問いかけにおじさんは再び奥へ行くと、片手で持てるサイズの箱を手に戻って来た。


「これでどうでぃ?」


箱を開けたおじさんが、中から一つだけ取り出して見せたものは――


「おおっ!? そう、コレです!」


見慣れたフォルムのものに、僕のテンションが上がる。

 それは掌に乗る小さなもので、握り手の先に小さな刃が連なって付いている。

 これはズバリ、シェーバーだった。

 実はこの国、シェーバー的なものがなかったりするのだ。

 男たちが髭の手入れに使っているのは、剃刀というよりほぼナイフ。

 肌のお手入れに向いているとは、到底思えない代物だ。

 僕は元々それほど髭が濃い方じゃないんだけど、それでも手入れはする必要があるわけで。

 髭を皮膚ごと切ってしまい、治癒の魔術で治すまでが髭剃りだったりする。

 しかも鏡が高価であまり出回っておらず、自力で髭剃りをしようとすると勘頼み。

 なので髭剃りは難しい技術で、専門店にお世話になるものだというのは一般的認識だった。

 だからというわけではないだろうが、少なくとも僕が見た限りでは、ニケロの街では髭男率が非常に高い。

 料理人とかサービス業のような、身だしなみの清潔さが求められる人たちは、髭剃り専門店へと通うのだ。

 しかしその髭剃り店も、昨今では技術の継承が難しくなり。

 尚且つ客層も限られているということで、苦境に立たされているんだそうな。

 けどそれも、このシェーバーがあれば話が変わってくるわけで。


「もちろん自分で試し済みよ。

 いやぁすげぇなソレ!」


そう言いながら、顎を撫でるおじさん。

 確かにそこには、依然訪れた時にはモサモサしていた髭がない。


「ふっふっふ、これで髭剃りに失敗しての流血沙汰からおさらばですよ!」


僕はニマニマしながら、箱の中に詰まったシェーバーを見つめる。


「……?」


「キャン?」


レイとシロは、シェーバーを不思議そうに眺めるばかり。

 まあ見慣れないとそういう反応になるか。


「あんちゃん、コレは革命だぜ」


「コレがあれば、髭を剃る人が増えるでしょうね」


おじさんと僕はお互いに頷き合う。

 シェーバーがあれば自分での髭剃りが簡単になるだろう。

 けれど僕だって日本で、理容室でしてもらう髭剃りは特別だったもんなぁ。

 やっぱりプロの技は違うものだし。

 髭剃り人口が増えれば、自然と髭剃り店へ通う人も増えると思うんだよ。


「なぁ、本当にコレを他で売ってもいいのか?」


「はい、幸せはみんなで分かち合いたいので」


僕が技術の独占をして一儲けをするのは簡単だろうけど、それよりも世の男たちに髭剃りをより身近に感じてほしかった。

 会社に髭を生やしている人がいたんだけど、彼が言うには毎日手入れしないと単なるだらしない人になるし、夏は蒸れるしで、結構苦労があるんだっけ。

 この街の髭男たちの中に、髭剃り店へ行くお金がないから髭男なだけな人がいるかもだし。

 そうした人に髭を剃るという選択肢を与えてもいいはずだ。


「これを大々的に売るためには、髭剃り店との話し合いも必要でしょうけど。

 むしろ売る場所を髭剃り店にするのも手ですかね?」


「そのあたりは俺にゃあわからん、職人ギルドを通じて商業ギルドへ持ち込んでみるかぁ」


僕の考えたなように、おじさんは首を捻りながらそう告げる。

 なんでも職人ギルドでは技術の管理をしており、日本で言うところの特許みたいなシステムがあるんだそうだ。

 そして商業ギルドは資金の管理をしたり商売の相談に乗ってくれる、銀行のような役割がある。


「このシェーバーっていうのを職人ギルドへ登録すると、提案者のあんちゃんにも金が入るぜ」


「あ、そうなんですね」


お金は生きていくうえでなにかと必要なので、収入があるのは純粋に嬉しい。

 そして冒険者ギルドで作ったカードは、各ギルド共通で使えるもので、商業ギルドでお金を預ける口座を作れるって聞いているんだよね。

 各ギルド共通カードだなんて、まるで銀行のATMカードみたいだ。

 今まで僕は鞄に入れちゃえばいいから嵩張らないけど、大金を持ち歩くリスクっていうのは確かにあるな。

 それに口座を作れば、そこに依頼料を振り込んでもらえるらしいし。

 この際だから、商業ギルドで口座を作っちゃうか?

 というわけで、シェーバーを受け取った僕は職人ギルドの件はおじさんに任せることにして、商業ギルドへ口座を作りに行くことにした。

 レイとシロは退屈だろうけど、もう少しだからね。

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