54話 再会とお仕事
「聞いたぞ、新人なのにすげぇ活躍の奴がいるってな。
飛び級で三級だって?
おめぇ、そんなに強かったんだなぁ」
リンク村ではガイルさんの前での戦闘なんてしなかったので、僕たちの実力なんて知るはずがないガイルさんが感心したように言う。
「ははっ、ありがとうございます」
ここで謙遜しても嫌味だろうから、僕は褒められて素直にお礼を言っておく。
「ありがとござます」
僕がお礼を言うととりあえず復唱する癖がついてきたレイが、同じようにお礼を言う。
「ガイルさんも、仕事ですか?」
「あん? 俺ぁ呼び出しだ」
そう話すガイルさんによると、今日明日にでも出立するという話のゴルドー山の調査隊だが、それに参加するのだという。
ガイルさんはニケロの街にいると聞いていたのに、さっぱり会わないなと思っていたんだけど。
どうやら依頼で街を離れていて、つい昨日帰って来たようで。
「それが戻ったとたんにブリュノルドに呼び出しだよ、ついてねぇったらよぉ。せめて一日休ませろってんだ」
そうボヤくガイルさん。
ギルドマスターであるブリュネさんを呼び捨てだなんて、よほど信頼のある仲なのだろう。
そういえばニケロの街が本拠地だって言ってたっけ。
「なんというか、ご愁傷様です」
「ごしゅーしょーさま」
苦笑するしかない僕が、ガイルさんにそう言っていると。
「おや、ガイルさんはトツギさんとお知り合いでしたか」
そんな声が聞こえたかと思ったら、背後にニールさんが立っていた。
「おうよ、コイツらとはリンク村で会ってな」
ガイルさんの答えに、ニールさんが軽く頷く。
「なるほど、よくあなたが休暇で向かう村ですね。
のどかで良い村だと聞き及んでおりますよ。
ところでトツギさん、今日はまだなにも依頼を受けていませんね?」
「え、はい、そうですけど」
ニールさんに突然そう尋ねられ、僕はそう答える。
どうも僕たちはニールさん専属みたいな認識が、受付の人たちに広まっているみたいで。
僕らが受付に並ぶと「少々お待ちください」って言われて、ニールさんを呼ばれちゃうんだよね。
だからまだニールさんに会っていない今日は、依頼もまだ受けられていないというわけなんだけど。
改めて確認されるなんて、どうしたんだろう?
疑問顔の僕に、ニールさんが告げた。
「実は、あなた方にお願いしたいことがあるんです」
そう前置きして話す内容によると、ニケロの街から三日ほど歩いた場所にあるゴルドー山の麓にある村が、魔物騒ぎのせいで馬車の定期便が走らなくなったため、物資が届かなくなって困っているらしいのだ。
村人たちが餓死するような状況を避けるために、腕のある冒険者に補給物資を運んでもらおうと、この辺りを治める領主からの依頼があったらしいのだが。
「それなりの腕のある冒険者というのが、現在手が空いていないんです」
「そのランクのベテランは今回、調査隊へ参加しているだろうな」
困ったように言うニールさんに、ガイルさんが補足する。
「なるほど、状況はわかりました。
引き受けるのは構いませんよ」
僕らにはこの鞄があるため、荷物が嵩張らないので早く移動できる。
こうした仕事にはうってつけだろう。
「そう仰っていただけると助かります」
僕の答えに、ニールさんがホッとした顔をした。
というわけで、ゴルドー山の麓の村まで行くこととなったんだけど。
できるだけ早く出立してほしいということなので、出立日を明日にした。
補給物資は街の兵士が管理しているらしく、街門での受け渡しとなるそうだ。
となると僕が今日の内にやることは、自分たちの旅の準備というわけだ。
食料や生活雑貨などの諸々を見に行こう。
旅は少しでも快適な方がいいからな。
テントは持っているけど、できれば布団が欲しいところだ。
あと僕の朝の支度に必要なアレとか。
こんな風に買い出し品をざっと脳内にピックアップした僕は、まずは今ならまだ朝市でにぎわっている時間帯だろう、市場に向かうことにした。
肉は十分にあるけど、野菜とか果物とかが欲しい。
健康のためにはビタミンって大事だよ。
この辺りは寒冷な土地らしく、青果店では葉物野菜が結構あったけど、果物はベリー類とアポルの実ばかり。
日本のスーパーみたいに、いろんな果物というわけにはいかないか。
とりあえず野菜も果物も多めに買って鞄に入れると、次は穀物店だ。
そちらではライ麦粉と、ちょっと高かったけど小麦粉も買ってみた。
そして店の奥で凄く安い麦を発見したんだけど。
「そりゃあ家畜の飼料用さ」
店主にそう言われた僕だったけど、なんとなく気になって良く見せてもらった。
するとなんとそれはまさに大麦だった。
なるほど、確かに日本でも大麦にはそういう需要があったな。
けれど大麦は大麦、これで麦ご飯をゲットできるというもの。
そしてご飯があれば牛丼が作れる!
「これ、ください!」
「まあ、買いたいっていうなら売るけどよぉ」
変わった客だと思われたようだが、そんなものはご飯の前には些細な問題だ。





