表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/84

52話 スキルは便利です

それから、ブリュネさんに園芸スキルの技を色々見せてもらった。

 なんと、鍬を使わなくても頭の中で思い描いた範囲を耕せるのだという。


「『耕作』」


ブリュネさんが唱えると目の前の畑が仄かに発光し、次の瞬間一気に耕作地に変化する。


「へぇ! すごいですね!」


「オンオン!」


急にフカフカになった大地に、シロが興奮したように突撃して土を掘り始め、レイまで一緒になってやり出す。

 やっぱり子どもって土いじりが好きなんだなぁ。

 にしても、あれだけスキルレベルが高かったら、使える技も高レベルになるのは当たり前か。

 きっと低レベルだと、楽に耕せるとかその程度なんだろうな。


「このことを広めたら、きっと農家は仕事が楽よぉ。

 そうなったら『仕事が辛い』なんていう理由で農家を継ぎたがらない若者も、家に残ると思うのよねぇ」


ブリュネさんがしみじみと言う。

 そうか、この世界でも日本と同じような問題があるんだな。

 そしてスキルは本来なら、日本の科学技術の代わりになっているのだろう。

 でもそれが何故か教会に独占され、結果正しい使用方法の伝承が途絶えてしまったと。


「そのスキルについては、どうなっているんですか?」


あれから大して時間が経っていないけど、方針くらいは決まっているいのかな?

 するとブリュネさんは肩を竦める。


「さすがにアタシ一人の手に負えるものではないわ。

 それにスキルは冒険者ギルド全体にとっても重要な問題ですもの。

 王都の本部長に緊急で連絡を入れて、今は返事待ちよ。

 多分国王陛下まで話が行くんでしょうね」


「そんな国の一番偉い人にまで!?」


「そうよぉ、だって本部長は王族の方ですもの。

 話が通りやすいと思うわ」


なんか、想像以上に話のスケールがデカくなってきたよ!?


そうこうしているとお昼になり。

 せっかく畑に新鮮な野菜があるんだから、ぜひ食べていってくれとブリュネさんに勧められた。


「アタシも料理をすることにしたのよぉ。

 料理スキルがあれば、このコたちをいつでも簡単に美味しく食べられるじゃない?」


というわけで簡単なものからチャレンジしているそうで、今回もフレッシュサラダを作ってくれている。

 それでも採れたての新鮮野菜はそれ自体が御馳走だし、ご近所さんから貰ったというドレッシングが絶品だそうで、楽しみになってきた。


「あらぁ、レイちゃん上手ねぇ」


レイもブリュネさんの隣で、野菜を千切るお手伝いだ。

 うーん、社会性が育っているなぁ。

 そして僕も一品作ることにした。

 ちょうど鞄に肉が入っているし、ロールキャベツを作ろうかな。

 キャベツの葉を茹でて具を巻くだけの、簡単料理だからね。

 ロールキャベツの具は肉種がよく知られているけど、これにお米を巻いても、具がリゾットみたいになって美味しいんだよねぇ。

 今のところお米料理に行き当たっていないから、この辺りだと食べられていないのかな?

 でも麦があるなら麦飯ができる。

 そろそろパンに飽きていたから、麦飯に向いた麦を探してみるのもいいかも。

 もちろん、お米が見つかるのが理想なんだけど。

 ともあれ、ロールキャベツを作っていこう。

 材料はもちろんキャベツと、具の肉だねにひき肉とみじん切りの玉ねぎと卵にパン粉、それと調味料をいくつか揃える。

 ひき肉とパン粉をどうやって用意したかというと、実は料理スキルのレベルが上がって、『粉砕』ができるようになったんだよね。

 物体を細かくする技で、荒い状態から細かい状態まで分けられる。

 これでいつでも挽肉が手に入るので、ハンバーグができるってものだ。

 今回はロールキャベツだけど。


「やっぱり便利ねぇ、料理スキルって」


あっと言う間にひき肉を作った様子に、ブリュネさんが羨ましそうだ。

 まあ、包丁でこの作業をやろうと思ったら、凄い労力だしな。


「はい、できれば知り合いの料理人の人にもスキルの事を教えてあげたいんですけど……」


「まだやめておいた方がいいわね。

 うっかり教会に知られたら揉め事になるわ」


「ですよねぇ」


ブリュネさんの指摘に、僕も頷きつつも肩を落とす。

 早く誰でもスキルが使えるようになればいいんだけど。

 スキルの事は置いておくとして、ロールキャベツ作りだ。

 まずは簡易竈を作ってお湯を沸かし、そこでキャベツの葉を茹でてから粗熱をとっておく。

 次に肉だねの材料を粘りが出るまで混ぜ合わせたら、俵型に整える。

 これを粗熱のとれたキャベツの葉に巻き、スープで煮込めば完成だ。

 ひき肉はイビルボアとアーマーバッファローの肉を合い挽きにしてみた。


「これ、アタシにも作れそうだわ」


「材料さえ揃えれば、混ぜて巻いて煮込むだけですからね」


煮込んでいる鍋をのぞき込むブリュネさんに、僕はそう返す。

 ブリュネさんは刃物の扱いが上手いので、手伝ってもらった玉ねぎのみじん切りを綺麗にやってみせた。

 やる気の問題だっただけで、きっと料理に向いている人だと思うんだよね。

 そうこうしているとロールキャベツが出来上がったので、皿に盛りつける。

 ちなみにレイにはロールキャベツはまだ食べにくいだろうから、肉団子と茹でキャベツというメニューになっている。

 こうして料理が揃ったところで地面にシートを敷いて、三人と一匹で円になって座ると、その中心に料理を並べる。

 ブリュネさんが早速ロールキャベツに手を伸ばした。


「美味しいわ、それにキャベツの甘味がよくわかるし」


「そう言ってもらえると嬉しいです」


レイもこの肉団子の食感が初めてのようで、首を傾げながらモグモグしている。

 挽肉にするには労力がいるので、屋台でも挽肉料理はあまり見かけないのだ。

 宿で挽肉料理が一度出されたことがあったけど、すごく粗挽きで滑らかな食感とは言い難かったし。

 ブリュネさん作のフレッシュサラダも、ただ野菜を千切っただけなのに美味しい。

 野菜の旨味というものが感じられ、さすが園芸スキル高レベルな人が育てた野菜だ。

 このドレッシングも確かに絶品で、僕も欲しくなってきたよ。

 こんな風に農園を大満喫したら、あっという間に時間が経っていた。


「アナタたちのおかげで、今日はとっても楽しい休みになったわ。

 これで明日からの面倒なアレコレも頑張れそうよ!」


笑顔のブリュネさんの面倒とは、きっとあれだろう。


「いよいよ調査隊が出るでしたっけ」


「そういうこと。

 でも高ランクの冒険者っていうのは、癖が強い連中が多くてね~、嫌になっちゃうわ」


その癖の強い冒険者の筆頭がブリュネさんだろうというのは、言わないお約束なんだろうな。

 なんにせよ、頑張ってくださいブリュネさん。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します」2巻がカドカワBOOKSより8月7日に発売されます!
ctpa4y0ullq3ilj3fcyvfxgsagbp_tu_is_rs_8s

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ