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51話 ブリュネさんの農園へ

そんなわけでブリュネさんを訪ねて執務室に向かうと、あちらはちょうど休憩中だったようだ。


「聞いたわよぉ、すっごい量のアーマーバッファローを持ち込んだそうね?」


僕らの顔を見るなり出たブリュネさんの台詞に、苦笑するしかない。


「耳が早いですね、ってそうだった」


すっかりこのことをニールさんに言うのを忘れてたな。

 僕はとりあえずブリュネさんに勧められてソファに座り、レイとシロにおやつと飲み物を出してあげてから、ブリュネさんに改めて報告する。


「今日はアーマーバッファローの群れに行き当たったんですよね。

 僕にはいつもの状態がわからないなりに、それにしても数が多いかなと思ったんですけど」


僕の話に、正面に座るブリュネさんが難しい顔をする。


「数としては確かにちょっと多いかなとは思うけど、異常だというほどでもないわね。

 でも、気を付けるに越したことは無いわ、異常の前触れって考え方もあるわけだし」


そう話しながらメモをとるので、後でニールさん辺りと相談するのだろう。

 こうして前置きを話し終わると、本題だ。


「今度のアタシの休みに、農園へ招待したいの。

 小さい子って土いじりが好きでしょう? きっと楽しいわよ」


「はい、ブリュネさんがよければ、ぜひ伺いたいです」


というわけで、場所と訪ねる時間を打ち合わせ、必ず行くと約束した。



そして約束の日である、二日後。


「いらっしゃい! ようこそアタシの農園へ!」


ニケロの街の郊外にあるその場所で僕らを出迎えたのは、麦わら帽子にツナギ姿という、ファーマールックに身を包んだブリュネさんだった。

 うーん、似合っている。美人はどんな格好も似あうんだな。

 オネェさんだけど。

 かくいうレイも、あのコスプレ店で手に入れたファーマー姿だったりする。

 首に巻くタオルまでミニマム仕様というこだわりの品だ。

 それにしても、ブリュネさんの農園というのがまたすごい。


「これはもう、趣味のレベルじゃないって言うか……」


僕は感心しながら見渡す。

 よく手入れされている結構広い畑の他に、小さいながらも果樹園があり、いくつかの木に立派な実がなっている。

 さすがブリュネさん、園芸レベルが高いだけあるな。

 その中でもなにも植えられていない畑へ、僕らは案内された。


「今日はこの種を蒔こうと思っているの。レイちゃんこれを見て」


そう言ってしゃがんで見せるブリュネさんの掌に、なにかの種があった。


「つぶつぶ」


レイがそれを見てこてんと首を傾げる。


「そう、つぶつぶなのよ。

 このつぶつぶを土に埋めてお水をあげながら気長に待つとね、美味しいお野菜になるのよぉ」


ブリュネさんに説明されても、まだ首を傾げるレイ。

 種と野菜のイメージがつながらないんだろう。


「レイ、あっちの畑の葉っぱみたいなのになるんだよ」


僕がそう話すと、レイは目を丸くする。


「つぶつぶなのに」


「そうよね、不思議よねぇ」


レイの感想に、ブリュネさんが頷く。

 言われてみれば、こんな小さな種があんな立派な葉っぱを生むんだから、不思議だよね。

 そんな話をしてから、ブリュネさんがあらかじめ整えてくれていたその畑に、レイは教わりながら種を一つ一つ埋めていく。


「レイちゃん、『美味しいお野菜になりますように』お願いしながら種を埋めるとね、ちゃあんと美味しく育ってくれるのよぉ」


「ん、おいしくなりますよーに」


「アン!」


真面目な顔で言うレイの横で、シロも真似するように鳴くと、手伝うように前足で穴を掘っている。

 こうして種を蒔き終わったら、ブリュネさんが畑に「レイちゃんの畑」という看板を立ててくれた。


「このコたちが食べられるようになった頃には、レイちゃんももうちょっと大きくなっているかしらね?」


「ハハッ、どうですかね?」


ブリュネさんの言葉に、僕は笑いつつも「どうなんだろう?」と疑問に思う。

 生体兵器のレイは、果たして人間と同じように成長するものなのか?

 こればっかりはこの野菜の種と同じように、育ってみなければわからない。


「この野菜は、どのくらいで食べられるようになるんですか?」


「これは成長が早いから、ちょっと待ってもらえれば食べれるようになるんだけど」


なるほど、ブリュネさんはレイのために収穫の早い野菜を選んでくれたんだろう。


「この街にはしばらくいるつもりなんで、ぜひ収穫までお願いしたいですね」


そのためにもレイを連れて、ちょくちょくお邪魔しようかな?

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