49話 他の狩場へ行ってみよう
というわけで、その後すぐに林エリアの立ち入り禁止のお触れが出された。
このことはニケロの街を治める領主にも使者をやり、住民にも知らせるそうだ。
あの林に入るのは冒険者だけではなく、猟師とか薬師とかもよく使う場所であるらしい。
幸いそうした人たちは、あの時はたまたま林に入っていなかったそうだけど。
ともあれ、あの林はしばらく狩場として使えないことになった。
そのせいで、初心者たちの行き場が減ってしまったわけだが。
この件を早く解決しないと、手柄欲しさに無茶をする連中が出るのではと、ブリュネさんとニールさんは心配していた。
そんな事態を避けるためにも、調査を早く済ませて問題を解決するために、高ランクの冒険者に依頼を出すらしい。
早く問題の原因が分かって、平穏になればいいんだけど。
ところで、僕がやってしまった『治癒』の魔術だが。
倉庫での話し合いの後で、ブリュネさんから叱られた。
『アナタの魔術は非常識なんだから、目立つマネをしたら厄介ごとを引き込むわよ!』
そう言われたものの、こちらを心配しての言葉なので、素直に頷いておく。
それでもその後、『若いコたちを助けてくれてありがとう』ってお礼を言われたけどね。
叱るのと褒めるのをうまく伝えるあたりが、ギルドマスターという上に立つ人っぽくて、ちょっとジーンときてしまった。
……社畜してた頃に、こんな上司に出会いたかったなぁ。
そんな感じでいい話で終わるかと思いきや、これに意外なところから横槍が入って来た。
ホールに戻ると、怪我人の人数が半分ほどに減っていた。
怪我が治って帰ったのだろうか? と思いきや、ホールにいたある子ども好きの冒険者が教えてくれた話によると。
僕たちが倉庫で話し込んでいる隙に、教会関係者が現れ。
『あれは、まさしく神の奇跡です!』
そう宣言したのだという。
というかその教会関係者とは、どうやら昨日僕が絡まれた司祭の男のようだ。
彼は冒険者ギルド専門に営業している人だと、その冒険者は言っていた。
教会にも営業仕事があるんだな、まるで会社みたいだ。
とにかくあの司祭の男は、若者たちに演説したという。
『神は、もっとスキルを得て危機を乗り越えよと、そう申されているのです!』
この主張は、普段ならば相手にされなかったのだろうと、その冒険者が言っていた。
けど実際に傷を癒された若手冒険者は、奇跡を目の当たりにしたわけで。
『そうだな、やっぱりスキルって必要だよな』
『でも、兵士にならないと高いし……』
若手冒険者たちの不安に、教会の男はにっこり笑った。
『ご安心を、分割払いも取り扱っております!』
そう吹き込み、結果としてそのセールスに乗ってフラフラと教会に連れていかれる者が続出したそうだ。
……なんか、妙な被害が飛び火している気がする。
このスキルに関しては、ブリュネさんに期待するしかないんだよね。
冒険者として新参者の僕がなにを言っても、他の冒険者たちの心に響かないだろうし。
それに教会と揉めるなんて、嫌な予感しかしないっていうか。
そんなこんなで、翌日。
冒険者ギルドは大騒ぎになっていた。
「いいじゃないか、俺らは大丈夫だって!」
「どうせ弱っちい連中が下手打ったんだろう?」
昨日のあの状況を知らない他の初心者冒険者たちが、受付に食って掛かっているのだ。
あそこは彼らにとって手軽なランクアップ場所みたいだから、そこに入れないとなると不満が出るのも無理はない。
一方の僕たちは、あの林に入れなくなっても、さほど問題はないというか。
元々、僕らがあそこを狩場にするのは、荒し行為に近いんじゃないかって気がしていたからね。
なので昨日のうちに情報を集めていたんだけど、ちょっと離れた草原の方へ行ってみることにした。
「草原にはね、アーマーバッファローがいるみたいだよ。
そのお肉が美味しいんだって」
「おいしいおにく」
のんびり歩きながらの僕の説明に、レイはちょっと興味を持ったようだ。
そのアーマーバッファローが料理店に人気とかで、幾ら狩っても追い付かないんだそうだ。
美味しい肉かぁ。
宿に肉を直接持ち込んだら、贅沢にステーキにしてくれるかな?
あとバッファローって牛の仲間だっけ。
となると牛丼とか食べたくなってきた。社畜やってた日本で、よく食べてたなぁ。
調味料で醤油を見つけられていないんだけど、今手に入るもので牛丼に近いものができないものか。
海外だと現地の人の口に合うようにアレンジされているものだし。
よし、今度どこかで色々調味料を手に入れて試してみるか。





