45話 レイがはしゃげば死屍累々
とにかく、居心地悪い空間はさっさと通り過ぎてしまおう。
こうして幼児とペットを連れた僕は子ども冒険者たちの視線を集めつつ、さっさと林の奥へ向かう。
でも林の中なんてどこを向いても似たような景色なんで、それこそ初心者は迷うんだろうけど。僕にはパネル地図という強い味方があるからね! 迷わずに一直線に奥のエリアへと向かう。
そしてある程度進むと、子ども冒険者たちの姿が見えなくなった。これで安心できるな。なにせ近くに誰かがいたら、うっかりレイの攻撃の煽りを受けそうじゃないか。
「よぅしレイ、ちゃちゃっと魔物を狩って、早めに戻ろうか」
この僕の言葉が合図となった。レイはスイッチが入ったように戦闘モードとなり、木々の隙間に飛び込んでいく。あ、そっちに魔物が数体いるね。相変わらずレイの気配察知スキルは、僕の探索スキルよりも精度がいいなぁ。
「あんまり遠くに行くなよ~」
そう声をかけてはみるが、ニールさん曰くこの辺りは初心者を脱した冒険者の肩慣らしエリアらしいし。そう心配することもないだろう。むしろ魔物が可哀想だ。
こうしてレイが魔物相手に無双している間に、僕は探索スキルで採取物を見つけながら、たまにレイ無双から逃げて来た魔物を狩る。シロも採取の手伝いで、薬草を採るのに地面を掘ってくれたよ。
そして初めて見る薬草や木の実をいくつか採ったところで、レイが手ぶらで戻って来た。
「お帰りレイ、怪我とかはしてないか?」
ざっと見て怪我らしきものはないものの、一応確認をすると、フルフルと首を横に振る。
「……」
そして無言で近付き、クイクイと僕の服を引っぱる。
「たくさんありすぎて、持ってこれなかったのかな?」
僕が尋ねると、レイがコックリと頷く。それはずいぶんはしゃいじゃったもんだね。
とにかくレイについて退治された魔物を回収に行くと、まああるわあるわ、死屍累々とはまさにこのことだよ。しかも一番奥に、竜みたいなのがいるんだけど? これって、こんな初心者エリアの近くにいていい魔物なの?
とにかく鑑定っと。
アースドラゴン
ドラゴンという名だが、ドラゴン種ではない。鱗のような硬い表皮が、昔の人にドラゴンだと勘違いさせた。
土の中に潜むことを好み、性格は穏やか。しかし臆病でもあるため、ちょっとした刺激でパニックになる。
ドラゴンではないため、飛翼がなく飛べない。
なるほど、ドラゴンじゃなくて、でっかいモグラみたいなヤツか。だったらこんなところにいてもおかしくない、のかな? でもこれだけデカいと、プレ初心者の手に負えないんじゃないか?
色々と疑問はあるものの、とにかく全部回収だ。
そしてそんなことをしていると、太陽はとっくに真上に登っている。
「レイ、今日はここまでにしてお昼にしようか」
これからニケロの街まで帰るんだし、無理は駄目だということで、ランチタイムとなった。
そうそう、今日は宿で昼食を作ってもらっているんだよね。どんな風なのか楽しみだなぁ。
「まずは身綺麗にして、食事の準備をしようか」
「きれいにしてたべる」
僕がそう呼びかけると、レイが「クリーン」をかけてもらおうとスタンバイしている。これも普段の教育の成果だね。
というわけで、皆綺麗にしてから一応結界を張り、竈を作ってお茶を飲むためのお湯を沸かしつつ、鞄から昼食だと渡された結構大きめなバスケットを出す。
この昼食をお願いした際、荷物になる事を心配されたのでマジックバッグを持っていることを告げたら、今朝渡されたのがコレだったんだよね。
そのバスケットの蓋を開けると、中はパンケーキとおかずが入っていた。華やかな盛りつけは見た目に楽しく、しかも全部がレイに食べやすいサイズになっている。もちろん、シロ用の食事も入っていた。
さらにパンケーキには、デフォルメされた犬っぽい絵がソースで描いてある。これはシロをイメージしたのかな?
「レイ、この絵はシロじゃないか?」
レイに教えてやると、レイはパンケーキとシロを交互に見ている。
ご主人、きっとレイのためにしてくれたんだろう。戻ったらお礼を言わなきゃ。
お湯が沸いたのでお茶を淹れ、レイはホットミルクを作ったら、早速食べよう。
「「いただきます」」
「アゥン!」
二人と一匹で食事の挨拶をしたら、早速料理に手を伸ばす。うん、どの料理も美味しい! 冷めても美味しいっていうのは、結構技術がいるんだよね。
ちなみにご主人が作ってくれたかわいいパンケーキを、レイはどうするのかと思って見ていたら、描かれた犬の顔の真ん中にフォークをぶっ刺していた。
……もったいなくて食べられない、なんて気分にはならないんだね、レイ。
こうしてレイにとっては適度な運動&ピクニックな一日だったんだけど。
このレイが退治した大量の魔物、絶対ギルドで騒ぎになるよね。





