43話 お仕事しよう
竈に火をつけるのに僕が魔術を使ったのには、ブリュネさんに「普通にも使えるのね」と言われたが、それ以外はいつも通りの手順だ。
ジュワァァ……
いつもより高い位置で焼かれるパンケーキに、見えないレイが背伸びしているのを、ブリュネさんが腕の中のシロごと抱えてくれる。
「粉を水と塩だけで溶いて焼くのは作るけど、卵を入れるとこうなるのねぇ」
ブリュネさんが言っているのは、屋台で食べたガレットみたいな料理のことかな?
「ああそれ、昨日屋台で食べました。
パリッとして美味しかったです」
「野菜も肉も一緒に食べられるから、サッサと食べたい時にちょうどいいのよね、アレ」
そんな話をしているうちにも、パンケーキが焼けてくる。
「できました」
美味しそうな匂いを漂わせる焼き立てに、ブリュネさんが目を細める。
「早いわね。パンよりも簡単で、しかも温かいなんて素敵だわ。
でも卵とミルクを入れるのは贅沢ね」
どうもこのあたりでは卵が高価らしい。
日本のような養鶏方法はとられていなくて、基本自由な環境で飼っているようだ。
だから卵の流通量が少ないのだろう。
昔は日本でも、卵は高価だったって聞くし。
ミルクも同様の理由で高価だとか。
となると、二つともリンク村で買いだめしておいてよかったかも。
あそこは小さな村だったから、卵やミルクが手に入りやすかったんだな。
ともあれ、焼きあがったパンケーキを持って部屋へ戻って食べることにした。
「やっぱり美味しいわねぇ、自家製ジャムをつけたいわ」
出来立てを笑顔で、しかし上品に食べながら、ブリュネさんがそんなことを言う。
そう言えばこの人、園芸のスキルが高かったな。
「もしかしてジャムって、材料から手作りなんですか?」
僕のこの質問に、ブリュネさんが「あら、鋭いわね」と返す。
「そうよぉ、あたしが手間暇かけて育てた分、余計に美味しく感じるのよねぇ」
「それはわかります」
僕も小学生の頃に授業の一環でさつまいもを育てたことがあったけど、多少形が悪くったって特別な味がしたもんな。
「そうだ!
色々と教えてくれたお礼に、今度ジャムを持ってきてアゲル。
お裾分けしているご近所さんにも評判なんだから」
自慢気なブリュネさんだが、園芸スキルが高いなら、それだけ手をかけているってことで。
きっと作物の出来もいいんだろうなぁ。
「それにレイちゃん、今度アタシの農園を見に来る?
小さいけど、たくさんの種類を育てているんだから。
収穫作業って楽しいわよぉ」
ブリュネさんが「いいことを思い付いた!」という顔で、そんな提案をしてくれる。
「それはぜひ、お願いしたいですね」
日本でも子育てには食育が大事だって言われていたからね。
レイにも食べ物が出来るまでを見せてあげたいな。
「じゃあ、今度アタシが休みの日に招待するわ」
こうしてブリュネさんと収穫体験の約束をして、この場はお開きとなった。
よし、今日こそは依頼を受けるぞ!
ブリュネさんと話し込んでいる内に、受付の朝のピークは過ぎたらしい。
カウンター前はそこそこ空いていた。
僕はそのカウンター横の掲示板を見に行く。
昨日はここで教会関係者に絡まれたわけだが、今日は見当たらない。
なら、落ち着いて探せるな。
「レイ、お仕事を探そうか」
「おしごと」
まだ字を読めないレイだが、それでも見たいかと思って抱えてあげて、一緒に掲示板の張り紙を覗く。
「どれにしようかなぁ」
ここは初心者らしく採取とかがいいんだろうけど。
旨味がある仕事は当然、もうとられているわけで。
残っているのは冒険者になりたての僕らだと受けられないような、高ランクのものばかりだ。
あ、冒険者にはランクがあって、一級から始まって五級が最上位。
たまに五級越えが出たら伝説級とされるらしい。
このランクはギルドカードに星のマークで示されていて、受付で身の丈に合わない依頼を受けられないようになっているみたいだ。
なので登録したての僕らは一級で、受けられるのは一つ上の二級までというわけ。
「うーん、どうするかなぁ」
悩みながら掲示板を眺めていると。
「うん?」
掲示板の隅の方にランクの書いていない、これまでの道中で見たことのある薬草の採取依頼を見つけた。
鑑定結果だと確か、貴重な薬の材料だった気がする。
というか当然採取して持っているし。
僕がその依頼書の前で考え込んでいると。
「なにかお困りですか?」
気が付けば昨日ブリュネさんの部屋であった男の人が、背後に立っていた。





