42話 ブリュネさんのスキル
「で、スキルはどうでした?」
僕が尋ねると、ブリュネさんが深く頷いて言った。
「スキルがあるって思ったら、格段にできることが増えたわね」
具体的には、技を繰り出すのがスムーズになったという。
「今までの苦労はなんだったのって言いたいくらい、戦いが楽よ。
全く、無理して剣を使わなくても良かったんじゃないの」
ブリュネさんが「やれやれ」と言いたげな様子でそう話す。
どうやら、スキルはやはり技を使えることに意味があるようだ。
「でもこれ、確実に教会と揉めるわね。
安易に話していいことじゃないわ、根回ししてから広めなきゃ」
渋い顔でそう話すブリュネさんに、僕は「やっぱりか」と思う。
スキルに関して牛耳っているらしい教会が、放っておくわけないよね。
昨日も冒険者ギルドの受付あたりで、初心者をカモろうと張ってたみたいだったし。
あ、でもブリュネさんに一つ聞いておきたいことがあるな。
「あの、僕は料理スキルを持っているんですけど。
そういう技を使って見せたら、驚かれたんですよね」
僕が気になっていたことを聞くと、「ああ、それね」とブリュネさんが説明してくれる。
「スキルっていうもののそもそもの使い方を、兵士ではない人たちは知らないと思うわ。
世間で知られているのは、ほとんどが剣のスキルですもの。
剣の技なんて、街中で見せるようなものじゃあないでしょう?」
「確かに、戦いで使うものですね」
この言葉に、僕も頷く。
街中が戦場になるなんて物騒な状況ではない限り、一般人がスキルを見る機会がないってことか。
「それに、スキルで技が増えたって教会に知られるとね、お布施を求められるのよ。
だから兵士もやたらに他人にスキルの話をしたがらないわ。
そんなわけでますます、スキルを覚えると技を使えるっていうことを、知る機会がないってわけ」
なるほど、要するに全部教会が悪いってことか。
もったいないなぁ、料理スキルなんてあんなに便利なのに。
「お金持ちで見せびらかすみたいに、スキルをたくさん買う人がいるんだけど。
アレ無駄よねぇ、スキルって技を使えてナンボよ?」
うーん、なんかスキルの扱いって、日本で履歴書に書ける資格みたいな感じなのかも。
でも履歴書の資格は一応勉強とかの努力があるけど、こっちのスキルはお金で買えるんだから、扱いがより軽いか。
僕がそんなことを考えていると。
「ちなみに、料理スキルってどんな技があるの?」
ブリュネさんが料理スキルに興味を持った。
「僕もまだレベルが低いんで、出来ることが少ないんですけど。
『攪拌』はすごく便利ですね」
「なにそれ、見たいんだけど」
知りたがるブリュネさんに、ここで料理スキルの便利さをアピールすれば、料理人たちが使うようになるかと考え、実際にやってみることにした。
「この場で出来るといえば、やっぱりコレかな」
というわけで僕が取り出したのは、パンケーキの材料だ。
レイのおやつにいつでも作れるように、材料が揃えてあるんだよね。
今タネを作っても、鞄にしまっていて後で焼けばいいし。
僕は鞄からパンケーキの材料を取り出すと、同じく取り出したボウルに全部を入れて『攪拌』する。
ちなみに作るのはフワフワじゃない方だね。
あっという間に混ざり合った材料を見て、ブリュネさんが感心する。
「へぇ、便利ねぇ!
アタシは料理の細かい作業が面倒で、つい外食で済ませちゃうけど。
料理スキルを覚えて楽をするっていうのはいいわね!
最初に苦労するけど、それはどんなスキルでも同じよね」
お、ブリュネさんが料理スキルの便利さに食いついたか。
これはぜひ、スキルについて広めることができるようになったら、料理人の人たちに使って欲しいもんだ。
僕がそんな事を考える一方、ブリュネさんは出来上がったパンケーキの生地に興味津々だ。
「これがパンケーキの元?
昨日はスキルを試すのに忙しくて、食べに行けなかったのよねぇ」
そう話すブリュネさんが、すごく食べたそうな顔をしていて。
「……あの、焼きましょうか?」
「いいのっ!?」
この僕の提案に、ものすごく食いついてきた。
「じゃあこっちでお願い、この部屋の隣に小さいけど台所があるのよ!」
そして案内してくれたのは、僕が日本で一人暮らししていたアパートにあったようなミニキッチンだった。
ここは普段、お茶を淹れるために使っているらしいが、パンケーキを焼く程度なら十分だろう。





