41話 コスプレですよ
「お買い上げどうも!」
在庫が捌けてホクホク顔な店員さんに見送られ、店を後にした。
……ウイングドッグの着ぐるみ姿のままで。
レイってばこれが気に入ったみたいで、頑として脱がないんだよね。
無表情なのは変わらないんだけど、雰囲気はルンルンのようで、足元が弾んでいる。
ウイングドッグの子どもを抱いている、ウィングドッグ着ぐるみを来た幼児。
うん、目立つことこの上ないよね!
当然周囲から好奇の視線を集めているものの、本人は知ったことではない様子。
うーん、大物だ。
こうして人目を惹きながら宿へ戻ると。
「なぁに、そのかわいい格好っ!?」
受付にいたリーゼさんに絶叫された。
まあ、こんな反応になるよね。
この絶叫に驚いたご主人が、何事かと食堂から飛んでくるし。
「実はですね……」
僕がこの服をどこの店で買ったのかを話すと、二人から「ああなるほどあそこね」という言葉が返ってきた。
「あの店のデザイナーはね、たまに突飛な服をつくりたがるみたいなのよね」
「売れないのをな」
悟ったような表情の二人に、僕は苦笑する。
「ははっ、確かにこれも着る子を選びそうではありますよね」
そう言いながら、足元でシロを抱えてちょっと胸を張っているレイを見る。
子どもは誰もがかわいいけど、その誰もがコレが似合うかというとそうでもない。
似合う子と似合わない子がいるのだ。
そんな話を宿の受付の前でしていると、宿の男性客が通りかかり、レイの格好を見て目を丸くする。
「珍しい服だな、どこかで売っているのかい?」
この着ぐるみ服に興味を持ったようで尋ねてくるので、あの店の事を教えてやると。
「へぇ、面白い。
話のタネに子どもの土産にするか」
そんなことを言って出かけて行った。
図らずも宣伝をしてしまったようだ。
案外あの店員さんも、これを狙っていたりして。
まあ僕としてはいい買い物ができたってことで、気にしないけどね。
他にもこんな服があると話すと、リーゼさんが他の服も見たがった。
なので、部屋でちょっとしたファッションショーを開催することになったのは想定外だ。
こうして今日は冒険者ギルドでごたついてしまい、ケチが付いた気分であったものの。
美味しい屋台料理とコスプレ服のおかげで、結果楽しい一日となった。
明日こそ、依頼を受けたいところだね。
というわけで、翌日の朝。
僕はブリュネさんとの約束通りに、再び冒険者ギルドへやって来た。
今日も人が多いものの、誰にも絡まれることはない。
その代わり、遠巻きにヒソヒソされているけどね。
「おいあの幼児……」
「ヤベェんだってな」
「あのニィちゃんも只者じゃあないって話だぜ」
うーん、ヤバい人認定されちゃっているなぁ。
出来れば仕事仲間とかが欲しいし、仲良くさせてもらいたいんだけど。
まあ、まだ仕事もしていないし、人間関係も追々やっていこうかな。
ちなみに今日のレイの格好は、自ら選んだ猟師スタイルだ。
「仕事するぞ!」という気概が現れているようだ。
そしてもちろん、ブリュネさんにも食いつかれた。
「んまぁ!? なぁにソレ、似合っているじゃないのレイちゃん!」
やはり絶叫されたが、褒め言葉が「かわいい」じゃなくて「似合っている」なのがオネェさんなブリュネさんらしいな。
レイだって生体兵器とはいえ男の子、「かわいい」ばかりを言われるのはどうかと思うんだよ。
もちろん「かわいい」が好きな男の子ならいいんだろうけど、やっぱり男の子には「カッコいい」が好きな方が多いんじゃないかな。
「しかも、つくりがいいわぁ。
どこで買ったの?」
ブリュネさんに尋ねられ、店の名前を告げると。
「ああ、あの店ね」
ブリュネさんも店の事を知っていた。
さらにはデザイナーの人と友人だと言うではないか。
「たまぁにミョーなのをつくりたがる癖があったけど、こんな似合う子が限定されるようなものを作っちゃったのねぇ。
売る方は困ったでしょうに」
ブリュネさんが呆れている。
そうだよね、この猟師スタイルなんて着こなしを間違えれば、ただの山育ちな子どもでしかない。
オシャレと本物のバランスが難しいのだ。
「売れ残りだから安くするって言われたんで、色々買っちゃいました」
「あら、もしかして他にもそのミョーな服があるの?
なら次会う時を楽しみにしなくっちゃ」
こうしてレイのコスプレ服の話は一旦終わったところで、そろそろ本来の用事についてを話そうか。





