39話 屋台めぐり
そんなこんなで冒険者ギルドでのゴタゴタの後。
僕たちはニケロの街の観光を楽しむことにした。
ニケロの街はこの地方で一番大きな街らしい。
中央の大通りには屋台が並んでいて、どこからも美味しそうな匂いが漂ってくる。
人々はそれぞれの屋台で買ったものを手に、そこかしこに置いてあるベンチに座ったりして、思い思いに寛いでいるのが見て取れた。
今の季節は冬に向かっているところで、屋台のメニューも温かいものが主流のようだ。
あとはお酒とかだね。
「ちょうどいいから、僕たちもここで昼食にしようか。
レイ、どれが食べたい?」
レイが興味を示したものを買ってみようと、尋ねてみると。
「……」
レイが無言で指さしたのは、イビルボアの内臓の煮込みをを売っている屋台だった。
三歳児にしては渋いチョイスだな。
けれど食欲をそそる匂いではあるので、この匂いに釣られたのだろう。
レイの腕の中で、シロもフンフンと鼻を動かしている。
その屋台へ行くと、店主が大なべをかき混ぜているのが見える。
鍋の中身はブイヨンのようなスープで内臓が煮込まれていて、処理がいいようで臭みがない。
「らっしゃい、見ない顔だなニィちゃん」
「はい、昨日この街に着いたばかりです」
屋台のおじさんに話しかけられ、僕はそう応じる。
「温まりそうな料理ですね」
「おうよ、このあたりじゃあ冬の定番料理だぞ」
なるほど、ご当地料理ってわけか。
それは食べてみないといけないな。
「それ、二つください」
「あいよ、なんか器は持ってるか?
だったら値引きするぜ」
用意している木の器で買ってもいいし、鍋や器を持ってきたらそれに盛っているんだって。
ちなみに店の器も持ち帰って次に使うか、リサイクルのために返すかだそうで。
使い捨てという考え方がないあたり、エコだなぁ。
なので僕とレイの器に入れてもらおうと器を出すと、レイの器が小さいからと、シロ用にもう一つおまけしてくれた。
それらを持っていると両手が塞がるため、温かい器をすぐに鞄に入れると、「いいもん持っているなぁ」とおじさんが呟く。
こうしてレイお目当ての料理を買ったら、他にも買おうと屋台を覗く。
そしてガレットみたいなライ麦粉の生地を薄く焼いて、それに野菜なんかを包んだものと。
飲み物を僕はお酒、レイはホットミルクを買った。
それらを持って、空いているベンチへ座る。
「じゃあ、いただきます」
「いただきます」
食事の挨拶をしたところで、早速食べよう。
まずはレイが選んだイビルボアの内臓のスープから。
「あ、美味い」
僕は思わず口に出す。
濃厚でありつつあっさりとした口当たりのスープが、冷えた体に染みるようだ。
内臓肉は口に入れるとホロホロと崩れる程に柔らかく、レイでも食べられるくらい。
うん、コレは買って正解だな。
「レイ、美味しいかい?」
「……ん」
隣を見て尋ねると、レイは小さな手でスプーンを持って食べながらコックリと頷く。
次にガレットみたいな料理も食べてみる。
焼き立てを買ったので、まだ温かい。
外の皮がパリッとしていて、中の具も温かいものになっていて、これまた寒い季節にぴったりだ。
けどこれは夏になると、中の具が冷えたものを売るんだって。
「これも美味しいな」
「おいしい」
大口を開けて食べる僕の真似をしたいのか、レイも「あーん」と口を開けてガレットを頬張っていた。
ちなみにレイの分はこれもあらかじめシロと半分こに切ってもらっていて、仲良くもぐもぐ食べている。
このガレットもリンク村では見なかったが、それはこれがテイクアウト料理だからのようだ。
家で食べるにはやはり黒パンだと、このガレットを売る屋台の人が言っていた。なるほどねぇ。
リンク村の宿で出される料理は、どちらかと言えば上品な味付けがしてあった。
それもグルーズさんが有名な店の料理人だったのなら、上品な味なのも当然だろうけど。
その一方でこの煮込みやガレットは、ジャンクフード的な位置づけになるんだろうな。
僕としてはどちらも美味しいと思うし、レイにも好き嫌いをせずに食べて欲しい。
こんな風にこれらを食べつつ、お酒とホットミルクで喉を潤し。
お腹が温まったらさっきの冒険者ギルドでの揉め事も、どうでもいいことに思えてくるものだ。
こうして満足な昼食を終えたら、買い物をすることにした。
特に買いたいのは洋服だ。
冬になるんだから、当然冬支度が必要だよね。





