38話 問題のもと
「はぁ、スキルを買うんじゃなくて、覚える、ねぇ。
でもその説明だと、色々と納得できることがあるわね」
ブリュネさんが疲れた顔ながらも、納得した様子を見せた。
「そうなんですか?」
「そうなのよ。
兵士になって剣のスキルを買っても、ものになる人とそうでない人が出てくるのだけど。
その差はなんなのか、ずっと不明だったの」
ブリュネさんの話は、「なるほど、そんなこともあるかな」と僕ならば思えることだ。
僕だってスキルというものを、そう色々と検証しているわけではない。
けれど人は同じ作業をしていても、覚えがいい人とそうではない人が出てくるもので。
そうして覚えがいい人が、スキルになりやすいしレベルも上がりやすいんじゃないだろうか?
一方で覚えが悪い人は、そもそもスキルにすらならないこともあるとか。
「っていうか、だいたいスキルを売っているっていう教会は、どうやっているんですかね?」
「さぁ? そんなの疑問に思ったこともないわね」
僕の疑問に、ブリュネさんが肩を竦める。
どんな経緯で、「教会でスキルを買う」というシステムが出来上がったのか。
それに、そもそも僕にスキルをくれたのはあのコンピューターなんだから。
その仲間であろうタブレットみたいなので、本当に見れないのかな?
色々と気になることが出たものの、ブリュネさんは「既にスキルがある」ということが気になって仕方がないらしく。
鑑定結果を自分で検証したいとのことで、とりあえず話し合いはお開きとなり、また明日訪ねて欲しいと言われた。
そしてこの間に、レイの登録も終わってカードも貰えた。
「はぁ~、登録だけのはずだったのに、えらく時間を取られちゃったよ」
僕はそうぼやきながら、シロを抱えたレイを連れてカウンターのあるホールへ戻ると、そこは閑散としていた。
皆仕事に出払ったんだろう、数人が見受けられる程度だ。
「とりあえず、どんな仕事があるのか見てみようか、レイ」
今日もまだ午前中だし、近場での仕事があれば受けられるかも。
「おしごと」
レイもやる気があるようで、コックリと頷く。
というわけで僕たちは受付の人に教えてもらって、依頼書が貼ってあるという掲示板を見に行く。
「どんなのがいいかなぁ」
僕がレイを抱えて依頼書を一枚一枚見ていると。
「……」
レイが腕の中でモゾっと動いた。
なんだろう、トイレかな? 僕がそう思った時。
「もしや、冒険者になりたてですか?」
背後から突然話しかけられた。
驚いて僕が振り返ると、ホールに数人いたうちの一人がいつの間にか近くに来ていた。
その人はズルズルとしたローブを着ていて、冒険者っぽくない。
ゲームとかでの魔法使い職とか僧侶職はこんな格好をしているけど、リアルだと動き辛いことこの上ないし、移動に向かないだろう。
なんだろう、この人?
僕はあんまり人に対して多用は良くないなと思いつつ、鑑定をかけてみる。
すると、この人が何者かがすぐにわかった。
名 前 ビリー・テンス(人族)
性 別 男性
年 齢 36歳
職 業 司祭
レベル 12
スキル 観察レベル9 話術レベル25
噂をすれば影、司祭って明らかに教会の人だよ。
スキルの話術はなんとなくわかるけど、観察ってなんだろう?
僕が無言で考えていると、相手はニコニコ顔で話をしてくる。
「どうでしょう、冒険者として成功するのに、スキルの力は絶大ですよ?
あなたに向いたスキルを、特別に無料で見て差し上げましょう」
「え、いや……」
必要ないと断ろうとしたんだけれど、向こうは勝手に話を進めてしまう。
がしかし、なにか、小石を弾いたような感覚がしたかと思ったら。
「うわっ!?」
相手が突然尻もちをついた。
「なんだ今のは!?
それに、なにも見えない……」
そして必死に目を凝らして僕たちの方を見てくる。
……ははぁ、教会はどういうシステムでスキルを売っているかと疑問だったんだけど。
もしかしてこの人の観察ってスキル、鑑定の下位互換のスキルなのかも。
となるとこの観察スキルで相手のスキルを探っていたのか。
そして既に持っているスキルを売りつけると。
買った方もスキルがあると自覚できた方が伸びるだろうし。
日本でもどんな技術だって、伸ばすべき技術を意識するって大事だしね。
そして僕のスキルも、いつものように覗こうとしたんだろうけど、この様子からすると、僕たちのステータスを見れなかったようだ。
原因は定かではないけど、僕の鑑定スキルがMAXなのも関係あるのかも。
でもレイのスキルも見れていなんだろう、もし見えていたらなにか反応があるはずだ。
なにせ「鬼神」なんていう物騒なスキルなんだから。
だとすると、自分より高いレベルの人のステータスは覗けないとか?
でも高レベルの人はいるし、そのことに今まで気づかなかったのかなっておもうけど。
ガイルさんとかブリュネさんみたいなレベルが高い人って努力したんだろうし、そんな人は教会に何度もスキルを買いに行かないのかも。
スキルを買うっていう行為を、あんまりいいことだって思っていなかったみたいだし。
そしてこんな風にレベルの低い初心者ばかりカモにしていると、スキルレベルも上がらないと。
ともあれ、こうも色々あったらもう今日は仕事は無理だな。
「用事がないなら、もう行っていいですか?
レイ、今日は観光しようか」
「かんこー」
「え、ちょっと……」
というわけで僕たちはその人を放置して、冒険者ギルドを後にしたのだった。





