表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/84

34話 スキルと兵士

こうしてカウンターの受付に何事か話していたオネェさんに手招きされ、連れられて行った僕たちだけど。

 向かったのはカウンターではなかった。

 その奥にある扉を潜り、通路を通っていった先にある部屋だ。

 そこは立派なデスクとソファーセットが置いてあるものの、可愛らしい小物なんかが置かれていて、乙女チックな雰囲気でまとめられていた。

 なんというか、「らしい」部屋ではあるな。

 そして座るように勧められて、ソファーセットにオネェさんと向かい合って腰をおろした僕は、一応確認しておく。


「あの、オネェさんがここのギルドマスターなんですよね?」


「あら、ちょっと言い方のニュアンスが引っかかるけど、その呼び方は気に入ったわ。

 そっちのボウヤは珍獣を見るような態度だけど、アナタたちってワタシを見ても物怖じしないなんていい子ね!」


そんな話をしていると、職員がお茶のセットを持ってきた。

 レイの前にはホットミルクとビスケットみたいなお菓子を置いてくれる。


「ありがとうございます」


「いいえ、可愛い子ですね」


そう言って退室する職員を見送り、お茶を飲む。

 リンク村ではお茶といえば森で採れる薬草のお茶だったけど、これは紅茶のような風味だ。

 爽やかな味わいで、とても美味しい。

 このお茶を飲みながら、僕は気になる事を聞くことにした。


「あの、さっきの人はどうなるんですか?」


「ああ、ちょっと『教育』が必要な子みたいね。

 兵士崩れにはたまに、ああいう手合いが出るのよ」


この質問に、オネェさんは自らもお茶を口にしながら、そう言って肩を竦める。


「兵士の人だったんですか。

 でもああいう手合いっていうのは?」


「兵士を抱える街だと、どこでもよくある話よ」


オネェさんはそう前置きをして、説明してくれた。


「兵士って入隊すれば、格安で剣のスキルを教会から買えるようになるでしょう?

 それ目当てで兵士になる輩は結構な人数いるのよね。

 そいつらが兵士の質の低下を招いているっていう問題もあるんだけど、まあこの話は置いておくとして」


兵士となって剣のスキルを買ったとしても、その力がメキメキと伸びる人と、全く伸びない人に分かれるんだそうだ。

 それで割安とはいえ決して馬鹿にできない金額を支払った人としては、剣のスキルが伸びないとあってはムダ金もいいところだ。


「周りに当たり散らすようになって、問題を起こして軍をクビになるでしょう?

 それでも剣のスキル持ちだっていうんで、ココに来るんだけどね」


それでも真面目に取り組めば、オネェさんも兵士時代の問題行動についてはアレコレ言ったりはしないらしい。

 けれど、一度堕ちたら自力では立ち直れない人物というのはいるもので。


「ああして酒浸りになって、世の中を恨んで過ごしているってワケ。

 不毛よねぇ本当に」


オネェさんがそう語りながらため息をつく。

 うーん、スキルかぁ。

 ガイルさんも他の人達も、スキルは教会で買うものだって言っていたけれど。


「スキルって、本当に買えているのかなぁ?」


「なぁに?

 本当はお金をケチって買っていなかったんじゃないのってこと?」


僕の半ば独り言のような呟きに、オネェさんが反応する。


「いえ、そうではなくてですね。

 そもそも僕にはその『スキルを買う』っていう感覚がわからなくて」


「まあ、普通に生きている分には、スキルなんて必要ないものですもんねぇ」


僕の言葉に、オネェさんが困ったように微笑む。

 うーん、そういうことじゃあないんだけど、言葉にするのが難しいなぁ。

 それに僕だってこのスキルっていうシステムについてイマイチ理解していないんだし、うかつなことは言えないか。

 でもオネェさんは剣のスキルを持っていたな。

 これも兵士になって買ったんだろうか?


「ギルドマスターさんは……」


「ブリュネよ、そう呼んでちょうだい。

 オネェさんでもいいけど」


どうやらオネェさん呼びを気に入ったらしいブリュネさんに、僕は聞いてみた。


「ブリュネさんも、スキルを買ったんですか?」


「そうよ、ワタシも兵士から始めて剣のスキルを買ったわ。

 お金がある人は頻繁に教会へ行ってスキルを増やすみたいだけど、ワタシは生憎そんなものをコレクションする趣味はなくてね」


なるほど、教会でスキルを買うのは人生で一度だけってわけじゃないと。

 そしてブリュネさんは剣のスキルしか買っていない。

 でもやっぱりというか、オネェさんは剣以外のスキルを持っているわけで。

 とすると、どういうことになるのかな?

 ともあれ、こうして二人でそんな話をしていたら。


 コンコン


 部屋のドアがノックされた。


「ブリュノルド、失礼しますよ」


そう言って室内に入って来たのは、眼鏡が知的な男の人だった。


「こちら、ギルドカードです」


彼がそう言ってトレイに乗せているのは、まるで前世の免許証のようなカードだった。

 写真は門で兵士にとられたあの写真で、名前とかの情報が載っている。

 あそこで入力された情報が反映されているのか。

 だとしたらこのカードも、コンピューター関連のシロモノなのかな?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します」2巻がカドカワBOOKSより8月7日に発売されます!
ctpa4y0ullq3ilj3fcyvfxgsagbp_tu_is_rs_8s

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ