33話 綺麗なオネェさんは好きですか?
静かだけれど、よく通る声だ。
そして言葉面だと女言葉なんだが、声がちょっと違和感がある。
ハスキーな女の人の声にしては、ドスがきいているというか、野太いというか……。
「あ、ギルドマスター」
カウンターに並んでいた受付の一人が、ホッとしたように呼びかける。
するとその人は「はぁ」とため息を吐く。
「おおまかな状況の察しはつくのだけれど。
酒に酔っ払っての仕事は禁止よ、そこのアンタは出直してらっしゃい」
そうぴしゃりと言うのは、ゴージャスな長い金髪を綺麗に巻いた、セクシーな女物の服を着た人だった。
……微妙に遠回りな表現をしているのには理由があって。
その人は綺麗に化粧をしている美人さんには違いないんだけれども。
体格が筋肉ムキムキで、喉仏があって、明らかに男の人なのである。
あれだ、オネェさんな人。
レイは初めて見るセクシー衣装が気になるのか、シロと一緒に観察の体勢である。
こんな風に、ちょっと気が抜けてしまった僕たちだけど。
「なんだとぉ!?
俺に出来ねぇっていうのか!?」
オネェさんの至極もっともな意見に、しかし酔っ払い男は噛みつく。
「出来る出来ないではなくて、ルールの問題よ」
けれどオネェさんは正論を突きつける。
しかしこれに、酔っ払いはさらにヒートアップしてしまう。
「なんだよ、どいつもこいつも!
俺はもっとやれるんだ!」
そう叫んで腰の剣に手をかけ、スラリと抜き放つ。
ちょっとちょっと、それはシャレにならないと思うんだけど!?
けれどオネェさんは慌てず騒がず。
「朝から煩いのよ、ちょっと酔いを醒ましなさい」
オネェさんがそう言ったかと思ったら、片手を軽く振った。
すると酔っ払いがカクッと体勢を崩して、床に倒れ伏した。
僕にはなにが起きたのかさっぱり分からなかったけど、レイがトコトコと歩いていって、なにかを拾っている。
「お仕置き部屋に放り込んでおきなさい」
オネェさんの一言で、周囲の冒険者たちがワラワラと動き、酔っ払いを担いでどこかへと運んでいく。
「あの、ありがとうございます」
僕がお礼を言ってペコリを頭を下げると、オネェさんは朗らかな顔で「いいのよぉ」と微笑む。
「あのコはここのところ問題ばっかり起こしていてね。
むしろこちらの対応が後手に回ったせいで、迷惑をかけちゃって御免なさいね」
そう話しながらカウンターから出て来たオネェさんに、レイがなにかを持って近付く。
「……これ」
そして手を上に伸ばしてオネェさんに差し出したのは、数本の小ぶりな鉄の棒だった。
もしかして、あれを投げて酔っ払いを無力化したのか?
あのなんでもなさそうなただの鉄の棒を。
「あらありがとう、拾ってくれたのね。
ボウヤはいい子ね」
オネェさんが床に膝をつくと、レイと視線を合わせてその鉄の棒を受け取る。
「一瞬すんごい殺気を感じたから何事かと思ったんだけど、ははぁ、なるほどねぇ」
そう語りながらレイの頭を撫でるオネェさん。
あ、ヤバい。
もしかして殺気って、レイのあの攻撃のことなのか?
僕にはその気配はさっぱり分からないんだけど、歴戦の強者的な人にはわかるものなのかも。
このギルドマスターって、どんな人なんだろう?
名 前 ブリュノルド・マーク(人族)
性 別 男性
年 齢 37歳
職 業 冒険者ギルドニケロ支部・マスター
レベル 63
スキル 剣術レベル35 気配察知レベル25 投擲レベル39 格闘レベル43 園芸レベル58
今まで見た人達の中だとガイルさんが一番レベルが高かったんだけど、それよりもさらに高レベルだった。
そしてスキルも全てレベルが高く、このオネェさんが強者であることは間違いないだろう。
そして戦闘系よりも園芸スキルが高い。
こんな風にコッソリと鑑定している僕に、オネェさんが尋ねてきた。
「それで、あなたたちはどういった御用でウチにきたのかしら。
依頼?」
「いえ、冒険者として登録しようかなと。
ただ、このレイも登録できますかね?」
これは事前に宿屋に質問しても、「聞いてみないとわからない」という回答だったんだよね。
この僕の懸念に、しかしオネェさんは目を輝かせた。
「あらぁ、こんな可愛いボウヤたちがウチの子になってくれるなんて、嬉しいわぁ!
じゃあいらっしゃい、やってあげるから!」
顔の横で手を組んで喜ぶオネェさん。
そのボウヤたちって、ひょっとして僕の事も入っています?
そしてレイ、興味津々な様子だけど、オネェさんは御触り厳禁だからね?





