31話 人気のフレンチトースト
それからゆっくり寛いでいるうちに夕食になった。
ここ「とまり木亭」でも食事は朝食のみがサービス、昼食と夕食は自由に食べるシステムだ。
けれどこの宿の宿泊者は、他で食べる約束がない限りは皆、ここの食堂で食べるようだ。
ニケロの街にはたくさん食事する店があるだろうに、それだけ評判っていうことなんだろうなぁ。
けどここでもやはり、パンは黒パンだ。
聞けばニケロの街では小麦のパンも売られているらしいが、やはり小麦が高価なのでパンも高価らしい。
だから庶民の口に入るのは、当然黒パンだ。
というわけで、僕はご主人にお願いして厨房の隅っこを貸りて、レイの分の黒パンをフレンチトーストに加工した。
これにご主人がすごく食いついたのは、まあ想定内の出来事だろう。
グルーズさんは案外、このフレンチトーストの存在を後輩にも教えてやりたくて、この宿を紹介したのかな、と思わなくもない。
だってご主人は、グルーズさんがリンク村にいることを今まで知らなかったってことは、紹介なんてこれまでしたことがないってことなんだから。
柔らかくて甘いフレンチトーストに、たまたま隣に座っていたお客さんのおじいさんが欲しがったので、早速ご主人が作ってあげていた。
やっぱり慣れていても、黒パンって硬いんだな。
フレンチトーストはともかくとして。
ご主人が作る他の食事はとっても美味しかった。
グルーズさんとはまた違っていて、盛り付けも華やかな見た目だった。
あれだ、日本のオシャレなレストランで出てくるみたいな、芸術品みたいなの。
グルーズさんの料理も色鮮やかで綺麗だなって思ったけど、あくまで庶民の食卓に出てくる範囲のものだった。
この両者の違いはお土地柄というものなのかも。
ちなみにシロ用のごはんもちゃんと用意してもらえた。
ペットは食堂に入れない店もあると思うんだけど、大人しくしているならばいいとのこと。
そしてご主人はペット用ごはんも手を抜かず、お洒落なお皿が出て来たりする。
こうして夕食に満足したところで、またご主人にお願いして厨房を借りて、レイのおやつ用のパンケーキを焼かせてもらった。
旅の道中でも余計に焼いていたんだけど、無くなっちゃったんだよね。
片付けをしていたご主人がこっちにも興味を持ったんだけど。
「そう言えばパンケーキはリンク村では作らなかったな」
僕はふとそう零す。
出かける際にはグルーズさんがレイのためのおやつまで用意してくれていたし、パンケーキは森で休憩時に焼いていたんだよね。
「そうか、グルーズさんは知らないのか!」
ご主人が嬉しそうな顔をして、自分でもパンケーキを試し焼きしてみていた。
そしてここでも、僕が料理スキルを使うのを見たご主人に驚かれた。
兵士みたいに補助をもらってスキルを買うならばともかく、それ以外の人はスキルなんて買わないらしい。
兵士以外だと、お金持ちが持っているくらいだそうだ。
だけど、ご主人にもちゃんと料理スキルがあるんだけどなぁ?
しかもそこそこレベルが高いし、使えば僕よりもスゴい便利技とかできると思うんだけど。
そんなことがあった、翌朝。
朝食にはレイ用に、ご主人が作ったとってもお洒落に盛り付けられたフレンチトーストが出て来た。
一口サイズのサイコロ上に切られていて、レイに食べやすくなっている。
僕なんかはその芸術的な出来栄えに、手をつけるのを迷いそうなんだけど。
レイはそんなことを全く構うことなく、フォークをフレンチトーストにぶっ刺してモグモグしていた。
「おいしい」
ゴックンした後でそう感想を述べていたので、本当に美味しかったんだろう。
ぜひ僕も今度作ってもらおう。
美味しく朝食を食べたら、次にやることと言えば。
「レイ、冒険者ギルドへ行ってみようか」
「ぼーけんしゃぎるど?」
僕が声をかけると、レイが首を傾げる。
ガイルさんや兵士の人から一緒に話を聞いていても、意味がわかっていなかったようだ。
まあ精神年齢0歳の幼児だしね。
「冒険者ギルドに行って登録すれば、お仕事を貰えてお金を稼げるんだよ」
「おしごと」
「そう、リンク村で木を運んだみたいなことをするんだ」
この僕の説明でレイなりに理解できたのか、コックリと頷き。
食後の満腹感でウトウトしていたシロの首根っこをひっつかみ、抱え上げる。
……レイ、荷物じゃないんだから、もう少し優しく抱えてあげようか?
これは、シロ用にリードみたいなのを作った方がいいのかも。
というわけでレイにシロの抱え方をレクチャーしてから、冒険者ギルドへ出発したのだった。





