表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/84

30話 旦那さんはすごい人

カウンターに取り残された僕らが、ボーッと待っていると。


「ほら、この人たちよ!」


そう言いながら、あの彼女が優しそうな男の人を連れて戻って来た。


「あんたたちかい?

 グルーズさんからの紹介状を持って来たっていうのは」


「あ、はいそうです」


彼の質問に、僕は肯定の返事を返す。

 ちなみにグルーズさんというのは、「森のそよ風亭」の旦那さんの名前だ。


「リンク村で『森のそよ風亭』という宿屋に滞在しまして。

 そこの方から『ニケロの街へ行くなら宿を紹介してやる』って言われまして。それを貰いました」


「リンク村だと!?」


僕の説明に、彼は仰け反って驚愕する。


「まさか、そんな近くにいたとは……」


そしてガックリと肩を落とす彼の様子に、僕はなんのことかわからず、戸惑うばかりだ。


「あの、それで宿泊はできるんですかね?」


恐る恐る尋ねる僕に、二人はハッとした顔になる。


「もちろんよ! それにぜひお話を伺いたいわ!」


というわけでよく状況がわからないながらも、とりあえず三日分で前金を払った。延長したい時は、その都度ということで。

 こうして彼女の方に案内された部屋は、落ち着いた雰囲気でまとめられた、居心地のよさそうな室内だった。

 明るい光が差し込む窓からは、外の景色がよく見える。

 僕たちが荷物を置いて寛いでいると、一旦離れた彼女がお湯を張った桶を持って戻って来た。

 このお湯で旅の汚れを落とすのだ。

 やはり彼女はこの宿の女将さんで、名前をリーゼさんといった。


「さっきはごめんなさいね。

 主人はグルーズさんがどこにいるのか、ずっと探していたものだから」


「そうなんですか?」


それはまた、どういった理由だろうか。

 なにか悪さをしたとかじゃないといいんだけど。

 グルーズさんは強面だったけど、いい人だったし。

 そんな僕の不安を感じ取ったのか、リーゼさんが「悪い話じゃないのよ」と前置きしてから、説明してくれた。


「うちの主人とグルーズさんは、以前に同じ料理店で働いていたの」


そこは有名な高級料理店らしく、グルーズさんは料理長だったそうだ。

 高級料理店の料理長とは、それは確かにすごいな。

 日本でもそうした立場の料理人は、一目置かれるものだし。

 そしてご主人はそんな料理長を尊敬して慕っていたという。


「グルーズさんの料理のファンもたくさんいたのだけれど、突然店を辞めてしまったの。

 娘さんが病弱でね、空気のいい土地に行くって言って」


娘さんって、あのベルちゃんが?


「すっごく元気な娘さんでしたけど」


「あら、じゃあ元気になったのね。よかったわ。

 リンク村は空気のいい所だし、水や食べ物も美味しいですものね」


ともあれ、突然店から去って姿を消してしまったグルーズさんに、ご主人はすごく気落ちしてしまったらしい。

 それまで仲がよかったのなら、置いてけぼりにされた気分になったんだろうなぁ。

 けれどグルーズさんの方も、相談しても引き留められるのがわかっていたから、あえてなにも言わずに姿を消したとか?

 僕の想像でしかないけど、あの人のことだから意地悪でじゃない気がする。


「でもリンク村にいたって知らなかったのなら、あの夫婦は元々あの村が故郷だったとかじゃないんですか?」


「いいえ? 二人とも確か王都の生まれだったはずよ。

 だからビックリしちゃったわ」


僕の質問に、リーゼさんは本当に驚いた顔になる。

 そうか、リンク村はあの夫婦がベルちゃんのために探して、たどり着いた場所だったのか。

 それにそんなにスゴい料理人なら、あの食堂目当ての客がいるのは分かる気がする。

 たとえ遠回りでも、美味しい料理って旅の目的にだってなるからね。


「でも、そんな有名な店にいた料理人なら、すぐに知れ渡りそうなものですけど」


「あの人ったら、自分から名声を吹聴するような柄ではなかったし、そもそも立場に執着してもいなかったもの。

 だからあっさり店を辞めてしまえたのでしょうし」


なるほど。

 あまり自己主張する質じゃないっていうのは、なんかわかる気がする。

 でもこうして紹介状を書いてくれたってことは、グルーズさんの方はこの店の事を知っていたっていうことで。


「主人は『独立したい』って言って店を出て、ここに店を構えたの。

 だから知っているお客様はそれなりにいて、その頃からのお客さんも結構いるのよ」


こうしてここの宿の料理が美味しいって話が、リンク村まで流れたっていうのはあり得る話だ。

 なにせ多少遠くても道沿いにある村なんだから。

 人に歴史ありっていうけど、本当にそうなんだなぁ。

 ちなみにこんな話題に全く興味のないレイはというと、シロをお湯の張った桶に浮かべて遊んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します」2巻がカドカワBOOKSより8月7日に発売されます!
ctpa4y0ullq3ilj3fcyvfxgsagbp_tu_is_rs_8s

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ