2話 子供を押し付けられました
『「全属性魔術」、「鑑定」、「探索」がサービスで付けたもの。
「精神攻撃耐性」と「料理」はお前が元々持っていたものだな』
コンピューターが説明してくれるが、「全属性魔術」っていかにも厨二病っぽいんですけど。
そして年齢が微妙に若返っている。
アラサーがハタチになっちゃったよ。
「鑑定」と「探索」ってのは置いておくとして、「精神攻撃耐性」ってあれか?
社畜根性の事を言われているのか?
それに料理レベル2って、高いのか低いのかどっちなんだ?
ちなみに料理以外のスキルがカンストしているけど、Max値はレベル百らしい。そして経験を積むとスキルになるとか。
そして肝心なのは「異世界人」とあること。
おぅ、やっぱりここって異世界でしたか……。
『これだけのスキルがあれば、塔の外へ出てもなんとか生きていけるだろう』
コンピューターがそんなことを言う。
え、これって「なんとか」というレベルだったの?
そこは安全のために「確実に」というレベルが欲しいんだけど。
僕のジト目に、コンピューターが『仕方なかろう』と応じる。
『本当は「大魔導」の方がいいのだろうが、お前の転送にエネルギーを使い果たしたため、これが精いっぱいだ』
なるほど、容量の問題だったと。
出し渋ったわけじゃないなら仕方ないな。
むしろないよりは断然いいはずなので、感謝するべきだろう。
それにここへ転送されなくても、僕はどっちみち心臓発作で死んでしまったわけで。
むしろ生き残る術と一緒に異世界で第二の人生を歩むチャンスを与えられたと思えば、前向きになれる気がする。
今度はあくせく社畜暮らしじゃなくて、のんびりスローライフをしたいなぁ。
畑を耕したり魚を釣ったりして、可愛いお嫁さんを貰って幸せに暮らすんだ……。
僕がそんな妄想に浸っていると。
『ああ、言い忘れたが。
この塔は機能停止となり、そうなると生命活動が不可能な空間となる。
なので早く脱出するといい』
軽い調子でそんなことを言われ、僕はぎょっとする。
「はぁ!?
そういうことはもっと早く言ってくれないかな!?」
『仕方ない、今計算してわかったのだ』
悪びれないコンピューターである。
しかしそうとなれば、ここで口論する暇も惜しい。
旅立つにしても、身一つっていうのはどうなんだ?
あ、そう言えば自分をよく見ると、見慣れない格好をしているんだけど。
生成りっぽいシャツとズボンに、革のコートにショートブーツ。
身体を造った時に、服も一緒に作ってくれたのか。
裸で放り出されなかったのは有り難い。
『ついでのサービスだ。
この鞄はよく使われている便利な品なので、役に立つだろう。
中に色々入っているから、後で確認しろ』
コンピューターがそう言うと、僕の目の前に革の肩掛け鞄がポンと現れた。
おお、まるで魔法だな。
って魔法なのか。
そうだよな、「全属性魔術」って要するに魔法使いのことだしな。
ヤバい、今更興奮してきた……。
遅まきながら、僕がワクワクしていると。
『ああそうだ、このカプセルの中身も持って行ってくれ。
機能停止となると保存が出来なくなるからな』
コンピューターがそう言うと、床の一部がパカッと開き、大きなカプセルがせり出て来る。
その中に入っていたのは、なんと子どもだった。
三歳児くらいだろうか?
すっぽんぽんの状態で水の中に浸かっており、白いくせ毛がユラユラと揺れていて、眠っているように目が閉じられている。
『塔と共に朽ち行くのはさすがに哀れだ。
供にして外に出してやってくれ。
きっとソレも役に立つ』
いや、「ソレ」とか「役に立つ」とかって、子供だよ!?
この子のパパとママはどこにいるのさ!?
『では、そろそろ時間だ。
塔の外に転送してやるから、せいぜいこの世界を楽しむとよい。
とはいえ我も、ここ千年ほど外の様子を知らぬがな』
しかしそんな疑問をぶつける暇もなく。
ブォン、と音を立てて僕の周囲が光っていく。
「ちょっと、もう少し話を聞かせろって!」
『ほんの短い間だったが、さらばだ。
達者で暮らせ』
そんな会話を最後に、僕はそのコンピューターの前から姿を消したのだった。
『心残りはなくなったし、長く起動しているのも飽きたところだ。
眠りについて、次に起動するのは百年後か、千年後か』
コンピューターがそんなことを呟いてから、やがて起動停止したなんてことを知ることもなく。