25話 ウイングドッグ
コイツも立派な魔物だった。
大人のウイングドッグはそこそこ強いらしいけど、幼体だと愛玩目的で飼われちゃうくらいだから、それほど戦闘力がないのだろう。
この子は親と離れている隙に、フライサーペントに攫われてしまったのかもしれない。
「……」
そして魔物となるとテンション上がりがちなレイが、このウイングドックの子どもをそこいらで拾った小枝でツンツンしている。
どうやら討伐する気になれないようだ。
そりゃあ、ほんの子犬だしね。
しかし構うには全身がフライサーペントの唾液まみれで、非常に汚い。
このままの状態でレイに触らせるわけにはいかないだろう。
「というわけで、クリーン」
するとウイングドッグの幼体は、真っ白な体毛に青味かがった模様が入る、綺麗な毛皮が露わになった。
おお、これは確かに愛玩したくなるかも。
ウイングドッグの幼体の身体が綺麗になったら、レイがツンツンするのを小枝から指にかえている。
さっきまでは汚くて直接触りたくなかったんだね。
その衛生観念は大事だと思うよ。
しかし、コイツをどうするべきか。
「お前、どこから来たんだ?」
「キュゥーン」
僕の質問に、しかし当然このウイングドッグの幼体が答えられるはずもなく、震えるばかり。
この子が棲んでいるのは、少なくともこの辺りじゃあないよな。
どこか遠くからモグモグされつつやって来たはず。
だとすると、果たして自力で群れへ戻れるのか?
まあ、そこまで僕が見届ける必要はないように思えるけれども。
「……」
しかしレイはこのウイングドッグの幼体が気になるらしく、さっきから近くに座って動かない。
もしかして、飼いたいのか?
生体兵器が魔物を飼うって、かなり状況がアレな気がするが。
……ペットは、子どもの情操教育にいいって聞くしね。
それにここで野に放っても、他の魔物にモグモグされる未来しか浮かばない。
一度助けたのに、それはさすがに寝ざめが悪いか。
「レイ、この魔物を飼う?
一緒に連れていくのもいいかもよ?」
僕がそう声をかけると、レイがギュルンとこちらを振り向いた。
若干目がキラキラしている気がしなくもない。
これは決まりだな。
「飼ってもいいから、ちゃんと面倒を見るんだぞ?」
子どもがペットを飼う際のお約束のセリフを言うと、レイはコクコクと頷く。
こうして、僕らにペットができたのだが。
「飼うとなると名前がいるな……じゃあシロで」
安易と言うことなかれ。
こういうのはシンプルがいいんだよ。第一呼びやすいじゃないか。
それからしばらく歩くと、そろそろ野宿の準備をする時間となり。
「ここでいいかな」
街道から逸れたところに、テントを張るのにちょうどいい広さの空き地があったので、本日の野宿はここですることにした。
比較的新しそうな火の跡があって、多分僕らのような旅人がこの場所を使っているんだろう。
早速鞄からテントを出して設置すると、その前に大きめのシートを広げ、リンク村で購入したテーブルと椅子を出す。
うん、これだけで寛ぎの空間って感じがするな。
あとは火も起こしてセッティングが出来たところで、早速夕食作りに取り掛かろう。
今日はシロが仲間になったお祝いということで、夕食を特別なものにしようかと思っている。
明日にはニケロの街へ着くだろうし、リンク村で買い込んだ食材を思いっきり使っちゃおう!
そうそう、食材と言えば。
ミールブロックとドリンクは、いざという時の貴重な栄養食として取っておくことにしている。
鞄に入れておけば消費期限も問題ないし、なにせあれだけで一食の栄養を賄えるというのは、やはりメリットだからね。
そんなこんなで考えたメニューは、イビルボアのポークステーキの香味ソース掛けに、彩野菜のサラダ、それと「森のそよ風亭」の旦那さんお手製ピクルス。
美味しかったから、大瓶一つ分を買ったんだよね。
そして主食はズバリ、フワフワパンケーキだ。
これまで主食ははあらかじめ焼いておいたパンケーキと買い込んだ黒パンで済ませていたんだけど、レイにいつか作ってあげようと思っていたんだよね。





