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24話 ニケロの街を目指して

リンク村を出た僕たちは、のんびりと街道を歩いていた。

 リンク村からニケロの街まで、夜通し歩き続けて二日、きちんと夜は休んで進めば四日程度だという。

 しかもこちらは三歳児連れ。

 レイは普通の三歳児よりも体力があるとはいえ、歩幅故に進める距離は大人より短い。

 僕がレイを背負っていくという手もあるが、そこまでして急ぐ理由もなし。

 なのでニケロの街までそれ以上かかるかと思いつつ、休み休み進んでいる。

 それにこの街道は、同じ景色が延々と続く道ではなく。

 現在ちょうど紅葉の季節で、景色の移り変わりが楽しめた。


「紅葉が綺麗だね、レイ」


休憩のために街道わきの草むらにシートを広げて座る僕は、隣に座るレイに話しかける。

 するとレイは飛んできた紅く色付く葉っぱを拾って、眺めている所だった。

 綺麗なグラデーションが出ている葉っぱで、とっておいて栞にしてもいいかもね。

 思えば日本で、紅葉狩りなんてずいぶん行っていなかったな。

 学生時代に、友人とドライブで行ったきりかもしれない。

 そんな風に、僕がまったりとした気分でいると。


 クイクイッ


 突然、レイが僕の服を引いた。


「なんだい?」


トイレにでも行きたいのかな? と思いつつ尋ねると、レイの視線は上を向いている。

 空になにかあるのか? と僕も上を見上げると。


 キュエェー!


 鳥っぽいなにかの鳴き声が聞こえた。

 よく見ると、遠くの空になにかが飛んでいる影が見える。

 どうやらアレを見ているようだ。

 レイが反応したということは、魔物かな?

 遠目なのでどんな魔物なのか判断し辛いが、しきりに雄たけびっぽい鳴き声を上げていて、狂暴そうなのは見て取れる。

 そして基本肉弾戦が得意なレイには、遠距離攻撃の手段がない。

 だから僕を頼ったのだろう。

 僕としてもあれが間近にいるならビビるだろうが、幸い遠くにいるのであまり恐怖はない。

 放っておくと危なそうだし、魔術で倒しておくのが安全のためだろうか。


「とはいえ、どんな魔術でいこうかな?」


毛皮は傷がない方が高く売れることは学習済みだし、カマイタチは避けよう。

 というかあれは、森の中での延焼を防ぐための選択肢だったから。


「傷をつけずにやるとなると、雷とか?」


魔術の方向性が決まった時には、その飛んでいる影は結構近くまで来ていて、はっきりと姿が確認できた。

 それは結構な巨体で、大蛇の頭と尻尾に鳥の身体がくっついたような姿で、目が血走っていてちょっとグロい。

 あんまりじっと見ていると夢に見そうだし、さっさと退場してもらいたい。


「サンダー」


 バリバリッ!


 僕の手の平から、雷撃が轟音を立てつつ一直線に空の魔物へ向かう。

 そして魔物は命中すると全身を痙攣させて、地上へ落ちて来た。

 よかった、ちゃんと威力調整ができたよ。

 カマイタチの二の舞だけは御免だからね。


 ズドォン!


 自由落下の勢いでちょっと地面をへこませた魔物は、そのままピクリとも動かなかった。

 雷で感電死したらしい。

 どんな魔物なのか、早速鑑定っと。


フライサーペント

大蛇の頭と尾、鷲の身体を持つ魔物。

 大蛇の口からは毒を吐くため、接近戦は危険。

 時折地上の生き物や、時には馬車を掴んで攫ったりするため、見かけたら要注意の魔物である。

 素材は肉は筋っぽい上に臭みが強くて食肉に向かず、蛇皮と羽が安価で売れる程度。

 危険な割に倒し甲斐がないため、冒険者からは嫌がれる。


空飛ぶ大蛇とか、まんまの名前だな。

 そして危険を冒しつつ倒しても、大した金額にならないと。

 実に遭遇したくない魔物だな。

 となると、これを売っても迷惑がられるだけかも……。


「そのあたりはとりあえず、仕舞っておいて後で考えよう」


僕がそう決めてフライサーペントに触れようとすると。


「キュゥーン……」


「うん?」


今、なにか聞こえたぞ?

 音の出所を探る僕のコートを、またしてもレイがクイクイと引いて、フライサーペントの口元を指さす。

 あそこになにかいるのか?

 もしかしてコイツは飛びながら食事中だったりした?

 でも鳴き声が聞こえたってことは、まだ生きているのか。

 僕はフライサーペントに近寄り、「よいしょっ」と掛け声と共に口を開ける。


「キュゥ」


するとフライサーペントの口の中に、羽が生えた小犬がいた。

 唾液でベトベトになっているその身体はフライサーペントの喉の奥、ゴックンされる寸前の位置にいた。

 フライサーペントが絶縁体代わりになって、感電せずに済んだのかも。

 とにかく生きているとわかっていて、このまま放置するのも気が引ける。

 しかもレイは羽付き子犬が気になるのか、じぃーっとこっちを見ていた。

 レイがこんなに興味を持つのは出会ってから短い間でも珍しいことで、ここでスルーするわけにはいかないだろう。

 僕は気持ち悪いのを我慢して、フライサーペントの口の中に半身ねじ込み、喉の奥に引っかかっている羽付き子犬を救出する。


「お前、なんで食べられちゃってたんだよ」


僕はそうぼやきつつ、この羽付き子犬を鑑定する。


ウイングドッグ(幼体)

犬の身体に羽の付いた魔物。 集団で行動する習性があり、戦闘能力が高く、氷のブレスを吐く。

 一方で幼体は、一部の者に愛玩目的で飼われることがしばしばあり。毛皮は高級品として売買される。

 雑食性で、なんでも食べる。

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