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22話 ベルちゃんを探せ!

「僕も、ちょっと探してきます!」


僕が女将さんにそう告げ、部屋に置いていたコートに袖を通すと。


「……」


部屋で自分なりに荷物を片付けていたレイが手を止め、無言で立ち上がってこちらへ来ると、僕のコートをキュッと握る。


「じゃあレイも、一緒にベルちゃんを探しに行こうね!」


僕の言葉に、レイがコックリと頷く。

 レイもなんだかんだで、ベルちゃんに無関心じゃなかったんだね。もしかして、どう接すればいいのか分かっていなかっただけなのかも。

 ベルちゃん捜索に加わる僕らに、女将さんが頭を下げる。


「アタシも旦那も宿屋の仕事から離れられないから、助かるよ。

 村の衆にも声をかけているんだけど、案外その辺に隠れていて、ひょいと顔を出す気がするがねぇ……」


女将さんは半ば自分に言い聞かせるように、そんなことを言う。

 子供って、大人が予想外のことをする時があるから、思いもよらない場所にいるかもしれない。


「レイと遊ぶって言ってたのなら、案外レイの姿をみたら出て来るかもしれませんね」


「そうだといいんだけど。レイちゃん、ウチのベルをよろしく頼むよ?」


屈んで頭を撫でる女将さんを見上げるレイは、なにか頼みごとをされたという雰囲気がわかったのか、再びコックリと頷く。

 うーん、「俺にまかせろ」感が半端ないというか、三歳児なのに頼りがいのあるオーラが出ている気がする。

 何者だこの子、って生体兵器か。

 ともあれ、ベルちゃん捜索のためにレイと一緒に「森のそよ風亭」を出たのはいいが、土地勘のない僕らがやみくもに探しても埒が明かない。


「こういう時は、探索!」


ベルちゃんだけを表示するように意識すると、素材の反応が消えて、遥か遠くにマーカーが一つだけ表示された。

 素材以外にも反応するかちょっと心配だったけど、探索スキルはちゃんと発動したのでホッとする。


「……って、これは森の方向?」


ベルちゃんは一人で森に行っちゃったのか?

 一体どんな用事があったのか知らないが、一言声をかけてくれれば付き合ったのに!

 なんにせよ、夜は魔物が活発になる時間だって村の狩人たちも言っていたし、早く見つけてあげないと!


「行くよレイ、ちょっと急ぐからね」


僕は一言そう断ってレイをひょいと抱えて駆け出し、村を出たところで魔術を発動する。


「フライング」


するとレイを抱えた僕の身体が浮き上がり、高速で飛んでいく。

 これは木材運びの際に、速く移動するために編み出した魔術だったりする。

 だって奥まで行ったら普通森で一泊しなきゃならなくなるし。

 できればベッドでゆっくり寝たいんだよね。

 そんなズボラ根性が元で生まれた魔術は、身体に風を纏わせて軽く浮いた状態で進むというもの。

 これは森の中の一部が見晴らしがよくなったから使える魔術なんだよねぇ。

 高速で飛ぶんだから、障害物を避けるのは難しくなり、激突必至。

 安全のため、木々が密集した場所ではちゃんと歩いて行きますとも。

 ともあれ、魔術のおかげであっという間にマーカーの近くまで来た。

 このカマイタチの道から右手に入ったところに、ベルちゃんの反応があった。

 しかし周辺には魔物の反応もちらほら見かける。


「レイ、ここからは魔物に気付かれないように、静かに歩くよ。

 しぃー、だ」


「しぃー」


僕が口の前で右手の人差し指を立てると、レイも真似をしてくる。

 うん、こんな状況だけど可愛いな。

 僕とレイだけなら魔物くらい撃退すればいいんだけど、うっかりベルちゃんの方に逃げられたらいけないからね。

 だからレイと二人、辺りの魔物を刺激しないように静かに歩きながら、マーカーのある方向に進む。


「……ぇっ、ふぇっ」


するとしばらくして、大きな木の根元にしゃがみ込み、メソメソ泣いているベルちゃんを発見した。

 しかし、そのすぐ近くにキラードッグ三匹潜んでいる。

 危ない、ベルちゃんはキラードッグに気付いていない!


「ベルちゃん!」


僕が注意を促すのと、レイがものすごい勢いで飛び出したのが同時だった。


 ズバゴォォン!


 レイの体当たりでキラードッグ三匹が吹き飛ぶと、反応が消える。

 ああ、一撃必殺……。

 そしてゴソゴソと音がしたかと思えば、レイがキラードッグたちを引きずって戻る。

 おぅ、力持ちだねレイ。

 すげぇな鬼神スキル。

 絵面が凄いことになっているから、さっさと鞄にしまっちゃおうね。


「アキヒサお兄ちゃん、レイちゃん……」


この一連の流れをきょとんとした顔で見ていたベルちゃんだったが。

 やがてくしゃりと顔を歪め。


「うわぁぁん! 怖かったよう!」


そして、わんわんと大声で泣きだした。大丈夫、結界を張っているから思う存分泣いていいよ。


「ベルちゃん、怪我をしていないかい?」


僕が近付きながら尋ねると、ベルちゃんはブンブンと首を横に振ってから、懸命に話す。


「あのっ、とちゅうから、道、わかんなくなってっ!

 だんだんくらくなってっ!

 でも動いちゃダメだって思ってっ!」


どうやら森の中で帰り道が分からなくなったうちに、暗くなってしまったようだ。


「うんうん、こんなところで一人、怖かったね。

 でも大きな声を出したら魔物が来ちゃうって思って、頑張って静かにして、助けが来るのを待ってたんだよね?」


ベルちゃんの反応はここから一歩も動かなかった。

 森で迷った時の行動を、ちゃんと教えられているのだろう。

 迷子になったら動かない、これ鉄則だからね。


「もう大丈夫だから、お家に帰ろう?」


ベルちゃんは涙でびしょ濡れになった顔で、コクコクと頷いた。

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