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21話 フワフワ食感とスキルの謎

フレンチトーストを作って見せた、その翌日。


「アタシ、この柔らかくて甘いパン、好き!」


朝食の席でベルちゃんがご機嫌で報告してくれた。

 昨日、ベルちゃんは甘くて柔らかくなった黒パンにとても喜んだ。

 大はしゃぎで食べるベルちゃんの皿にある変わった料理に、興味を惹かれた客たちが同じものを食べたがり。

 旦那さんは別料金を払えば作ることにしたようだ。

 まあ、特別な材料を使っていないから、作りやすいよね。

 そしてこれを教えたのが僕だと、ベルちゃんは旦那さんに聞いたらしい。


「そりゃよかった。

 甘くしない味付けで食べても美味しいから、お父さんに色々試してもらうといいよ」


「へぇ、例えば?」


僕がそう助言すると、すかさず尋ねるベルちゃん。

 おぉ、ちゃんとレシピを聞いてくるのはさすが宿屋兼食堂の娘だな。

 そしてカウンターの奥で、旦那さんがしっかりメモの準備をしているのが見える。

 この親子の連携プレーに苦笑しつつ、僕は日本で食べたものを思い出す。


「黒パンを付ける卵液に、ハチミツの代わりにチーズや塩気のあるもので味付けしたりかな。

 ハーブ――食べられる薬草なんかもいいね。

 焼いてからハムを挟んでも美味しいし、パンに切り込みを入れて具を詰めてから卵液に漬けてもいいよ」


一時期母さんがフレンチトーストに凝っていて、色々作ってたなぁ。

 要するに卵焼きやオムレツに合う食材だったらなんでも合うんだよね。


「チーズ!

 私チーズも好きよ!」


「そうか、チーズ味も美味しいから、作ってもらいな」


「うん!」


この調子だと、これからこの食堂でフレンチトーストの種類が増えることだろう。

 けれども、フレンチトーストが万人受けしたかと言えば、そうでもなく。

 フレンチトーストを真っ先に気に入ったのは、やはり噛む力が弱い高齢者や子どもだった。

 一方で「硬くないとパンを食べた気がしない」という人が一定数いて。

 これが恐らく、この土地でフレンチトーストが生まれなかった要因だろうと、僕は思う。

 小麦粉が手に入りにくいこのあたりではライ麦が主で、よって柔らかいパンという概念が無い。

 故にパンと言えば硬いものという考え方が固定化し、工夫の余地が生まれなかったのではなかろうか。

 スープやミルクに浸して食べるんだから、それを焼けばいいだけなのに。

 でも今は拒絶感が強い人達も、時間と共に案外好きになっていくのかも。

 だってフワフワの食感って、なんか幸せを感じるものだしね!


フレンチトーストと別にもう一つ、気になることがある。

 それは、スキルを教会で買うということだ。

 これはさりげなく食堂で他の客に聞き込みをしても、同じことを言われた。

 曰く、協会に行けば自分に向いたスキルが分かり、そこでお金を払えばスキルを得られるという。

 そしてスキルを得たかどうかはどうやって分かるのか?

 それは「なんとなく、感覚的に」らしい。

 なんともあやふやな話なんだけど、どうもどこかで定期的にスキルの成長が確認できる、というシステムがないようなのだ。

 この話を聞いた時、コンピューターにスキルを貰った僕が特別なのかな、と考えた。

 でも、旦那さんをコッソリ鑑定してみると、ちゃんと料理スキルを持っていたんだよね。

 旦那さんはスキルなんて買っていないっていう話なのに。

 やっぱりスキルって、本人の性質とか頑張りで身に着くものなんじゃないのか?

 でもだったら、どうしてそれを教会で買うなんてことになっているんだろう?

 うーん、なんかモヤモヤするなぁ。

 そんな疑惑を抱えてしまった僕だが、明日にはこのリンク村を出立するつもりだ。

 なので昼間は村の中をぶらついて、旅に必要なものを色々調達する。

 ほんの数日間の滞在だったにもかかわらず、食堂で知り合った村人たちはよくしてくれて、色々なものを持たせてくれた。

 特にレイは人気者だ。

 たとえ超絶無口でも、幼児は幼児であるだけで可愛いんだから。

 そんな風に色々貰ったものを「森のそよ風亭」に戻って整理しつつ、夕食前の時間を過ごしていると。


「アキヒサさん、いるかい?」


女将さんが部屋を訪ねてきた。


「はい、なんでしょうか?」


僕がドアを開けると、そこには不安そうな顔の女将さんが立っていた。


「ここに、うちのベルがお邪魔していないかい?」


そしてそんな質問をされるが、ベルちゃんとは朝食の時に会ったきりだ。


「いえ、今日は朝会ってから見てませんけど」


正直にそう答えると、女将さんが困ったようにため息を漏らす。


「そうなのかい?

 レイちゃんと遊ぶって言ってたから、てっきりこの部屋にいるのかと」


「……もしかして、ベルちゃんがまだ帰っていないんですか?」


僕が尋ねると、女将さんが頷く。

 今の時刻は夕食前、しかも冬を迎えようかという時期は、日が暮れだすと急に暗くなる。

 田舎故に街灯なんてなく、そうなると月明かりだけが頼りの真っ暗闇だ。

 これは、早く見つけないと怖い思いをするだろう。

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