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20話 黒パン改造計画

「レイ、ちょっとここのカウンターに座って待っててくれな」


僕はレイをクッション増し増しのカウンター席に座らせ、厨房にお邪魔して、黒パン加工のための材料を鞄から取り出そうとすると。


「厨房にあるのを使え、コレは食堂で提供する食事なんだから。

 なにがいるんだ?」


「えっと……」


いい人な旦那さんに用意してもらったのは、ミルクに黒パン、卵、バターと、砂糖の代わりにハチミツ。

 この辺りでは砂糖は高価みたいだが、ハチミツでも問題ない。

 この材料で作るのはこれしかない、フレンチトーストだ。

 硬いパンのリメイクの王道だからね。

 作り方は、まず深さのある平らな皿に、ハチミツと卵を入れて混ぜ、それにミルクを入れて料理スキル「攪拌」で混ぜる。


「なんだそりゃ?」


「料理スキルです、便利ですよねホントに」


攪拌作業に驚く旦那さんに笑顔で答えつつ、僕は作業を続ける。

 この卵液にスライスした黒パンを漬け、両面ともしっかり浸ったところで。

 温めたフライパンにバターを溶かし、卵液がひたひたになった黒パンを両面こんがり焼いたら完成だ。


「うん、成功!」


ハチミツの甘い香りの漂う焼き立てフレンチトーストを、皿に盛ってレイの一口サイズにカットしてから、カウンターで待つレイの前に置く。


「ほらレイ、これでどうだ?」


すると既に旦那さんに貰ったらしいフォークを持って待ち構えていたレイが、フレンチトーストを一欠けら頬張る。

 ハチミツをたっぷり入れたから、子どもの口に合うと思うんだけど。

 ドキドキして待っていると、レイがモグモグごっくんをした後で一言。


「おいしい」


どうやら気に入ったようだ。

 よかった!

 ホッとする僕に、旦那さんが声をかけてきた。


「なんだそのパンの調理法、初めて見たぞ」


「あれ、やったことありませんか?

 卵がなくてもミルクトーストで。

 僕の故郷では、パンのちょっとお洒落な食べ方みたいな感じで知られてましたけど」


僕がきょとんとして答えると、旦那さんが首を横に振る。

 あれ、ひょっとして知らなかったのか?

 これまで黒パンが子どもには食べにくいと言えば、パン粥しか出されなかった。

 なので僕はてっきり、旦那さんがこういうお菓子系のものを作らない主義なのかと思って、自分で作ってみたんだけど。

 日本でフレンチトーストっていうものが知られたのは、それほど昔じゃないにしても。

 地球規模だとパンをミルクに浸して焼くという調理法は、古代から各地でされれていたはずなんだけど。

 不思議に思う僕だったけど、旦那さんは目から鱗が落ちたような顔をしていた。


「パンをふやかすのはしても、それを焼くって方法を思いつかなかった……。

 これ、ウチでも作ってみていいか?」


「もちろん、僕の独自レシピってものでもない、故郷では広く知られた食べ方でしたから」


僕が頷くと、旦那さんは早速ベルちゃんの昼食用にと卵液を作り黒パンのスライスを浸している。

 子どもは甘いものは好きなはずだから、きっとベルちゃんも喜ぶよね。

 それから僕もレイの隣に座って昼食を用意してもらう。

 もちろん、レイのパン以外のメニューも来た。

 昼食を美味しく頂いていると、旦那さんがカウンター越しに話しかけた。


「それにしても兄ちゃん、料理スキルなんて持っているのか。

 ちょいと料理の手際が良くなる程度のスキルに、あんな使い道があったなんざ驚きだ。

 第一、スキルなんて金持ちくらいしか持てないだろうに」


旦那さんのこの言葉に、僕は目を瞬かせる。

 なんだって?

 「料理の手際が良くなる程度のスキル」ってどういうことだ?

 それにスキルを買う?


「……そうなんですか?」


驚きつつもとりあえず相槌を打つと、旦那さんが話を続ける。


「そうさ、都会に行って教会で金を払えば、スキルを貰えるだろう?

 でもその金ってのがバカ高くていけねぇ。

 ま、でもスキルなんざなくても、たいていは同じことがちゃあんとできるから困らないがな」


この旦那さんの愚痴めいた話に、僕は「おやおや?」と首を傾げる。

 あれ? あのコンピューターの話だと、料理スキルは元々僕が持っていたスキルって話じゃなかったか?

 それがお金を出して買わないと、スキルは手に入らないって?

 謎な話に一人首を捻る僕の隣では、レイが無言無表情だが着実にフレンチトーストを攻略していた。

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