16話 仕事を引き受けました
「あ、木製の皿っていいな」
まず目についたのが、木製食器シリーズ。皿とスプーンが置いてあった。
今使っているあのコンピューターが用意した食器は、陶器っぽい手触りの皿と金属のフォークとスプーンだ。
皿は飾り気の全くないデザインだし、フォークとスプーンも、いくらレイが鬼神スキルのおかげで力が強いとはいえ、三歳児の手には少々持ち辛いだろう。
それが木製だったら、軽いし落としても割れないし、レイが扱うのにも負担が少ない。
「レイ、これ持ってみな」
僕は小さめの皿とスプーンをレイに持たせてみる。
うん、サイズ感もいいな。
レイも木の感触が気になるのか、しきりに皿をナデナデしている。
これは買うしかないな。
「この食器、一揃いください」
「はいよ」
親方が食器を包んでくれているの横目に、他の作品も見る。
あ、まな板もいるな。
パンケーキ作る時に、地味に果物のカットがしにくくて苦労したし。
テーブルとイスもあったら便利だな。
でもこっちは値段が桁違いだ。
いつかお金が出来たら買おう。
いい品が手に入ってホクホク顔の僕に、親方が尋ねてきた。
「……なあ兄ちゃん、アンタ旅人だろう?
先を急ぐのかい?」
「いいえ?
特に目的があるわけじゃないですね。
こっちのレイに色んなものを見せながら、あちらこちらをゆっくりブラブラしてまわろうかと考えてます」
レイの頭を撫でながら、僕は答える。
そう、レイをヤンチャでヒャッハーな性格に育てないためにも、色々な場所で色々な人と出会って、色々な経験をさせてあげたいんだ。
それが世のため人のため僕のためである。
こうした僕の決意表明のようなものに、親方が軽く頷く。
「なるほど、つまりは急ぐ理由はないんだな。
だったらよ、仕事を頼まれてくれねぇか?」
親方の言葉に、僕はピンと来た。
「……もしかして、大木の運搬ですか?」
「勘がいいねぇ、その通りだ。
言ったろう、コレを人力で運べば一苦労だと。
そこに兄ちゃんのそのマジックバックなら、これだけの大木を一人で一度に運べるんだ。
手間と苦労が省けるじゃねぇか」
確かに僕一人で事足りるなら、これほど楽なことはないな。
この世界に僕自身が慣れるため、そしてレイが人とのコミュニケーションに慣れるために、しばらくこの村に滞在するのもいいかもしれない。
「わかりました、引き受けます」
それにこの大木置き去りの件は、元々僕が原因だしね!
木工工房で仕事を引き受けることとになった後、僕とレイはもう一度雑貨屋に戻って買い物をした。
着替えとか生活雑貨とかの諸々を買い込んだよ。
これで人並みの生活が送れるってものだ。
そしてそれから、ようやく宿屋へと向かった。
村に一軒だけの宿屋「森のそよ風亭」は、二階建ての可愛らしい外観だった。
内装もアットホームで、ホッとする場所である。
「あの、宿泊したいんですけど」
「いらっしゃい、何泊するんだい?」
受付にいた宿屋の女将さんらしき人に声をかけると、そう尋ねてくる。
うーん、どのくらいになるかなぁ。
引き受けた仕事の件がなくても、いい雰囲気の村みたいだし、お金も余裕ができたし、ゆっくりしていくのもいい気がする。
「とりあえず三泊で。
たぶんもっと逗留する気がしますけど」
「はいよ、じゃあ先に三泊分だね」
続いて部屋はどれにするか聞かれ、一人部屋でいいと言っておいた。
レイはまだ小さいし、同じベッドで寝ればいいかと思って。
三歳児って早ければもう一人寝ができる頃かもしれないが、なにせレイは精神年齢0歳児。
それにあのカプセルの中から外に出たばかりなんだし、傍で様子を見ていてあげたい。
そんな気持ちを込めて隣のレイの頭を撫でると、キュッとコートの裾を握りしめていた。
「その子と一緒に寝るなら、枕は余計に入れとこうかね」
「助かります」
気を利かせてくれた女将さんに、僕はペコリと頭を下げる。
こうして無事に宿をとれたら、早速女将さんに部屋へ案内された。
「ここだよ」
女将さんがカギを開けてくれたので、僕はレイを促して中に入る。
「レイ、しばらくここでお泊りだよ」
そう話しかけながら、まずは窓辺に行ってみる。
村の景色が一望できて、見晴らしがいい。
これはいい部屋だな。
レイはベッドを不思議そうに眺めている。
まあ、目が覚めてからベッドって初めて見るだろうし、寝る場所だって分からないんだろうな。
それぞれに部屋の中を見回る僕たちに、女将さんが説明する。
「食事は朝はついているが、昼と夜は別だよ。
下の食堂で食べるなら、カギを見せてくれれば割引するからね」
「わかりました、ありがとうございます」
他にもトイレの場所、湯を使いたい場合など、細々としたことを説明した後、女将さんは部屋から出て行った。
よぅし、改めてここから異世界生活のスタートだ!





