13話 村へ行こう
そんなこんながあったものの、特に問題になることなく。
朝食を済ませたらテキパキと片づけをして、出発の準備をする。
あ、歯磨きはちゃんとしたよ!
レイが虫歯になったら可哀想だしね。
歯磨き葉っぱを噛んでから歯にすり込むんだけど、やっぱり歯ブラシが欲しい。
どこかに売っているかなぁ?
こうして出発となった僕らだが。
パンケーキをごちそうになったお礼だというガイルさんが、近くの村へ連れて行ってくれることとなった。
場所を聞けば、僕らが目指していた地点である。
村へは地図を見ながら進めばたどり着けるんだけど、村によく出入りしている人の案内があるのは助かる。
田舎の方だと、知らない人を警戒することもあるしね。
というわけで、地図を気にする必要がなくなった上、村までの道中は昨日ガイルさんが魔獣を蹴散らしていたらしく。
戦闘にはならず、いたって平穏そのもの。
……僕としてはちょっと魔術を試してみたかったんだけど、また今度の機会だな。
大木を拾って片付けるのも、今は止めておくことにする。
どうも僕の鞄は、ガイルさんの知っているマジックバックの限界を超えているようだから。
あんなに大木が入ったらマズいだろう。
ともあれ、そういう理由で僕らは探索に専念しながら歩いていく。
特にアポルとベラの実は、この森を出たら手に入るかわからないから、見かけたら即ゲットする。
ベラの実がすっかりお気に入りらしいレイも、一生懸命に摘んでは僕の方へ持ってきてくれた。
それにしても、レイもたった一日足らずで、だいぶ三歳児らしく見えるようになったなぁ。
まだ超絶無口なのは変わらないけど。
やっぱり美味しいもので釣ったのがよかったのかな?
こんな風に色々なものを見つけてはせっせと鞄に入れる僕を見て、ガイルさんが若干あきれ顔だ。
あ、進むのが遅いと思われているのかな?
採取に夢中になり過ぎたのかも。
「すみません、僕ら遅いですよね」
謝る僕に、ガイルさんが「いいや」と首を横に振る。
「子どもがいるから、ハナからそんなに急げると思ってねぇさ。
ただ、さっきからよく見つけるなぁ。
俺は薬草と雑草の区別がつかねぇ」
ガイルさんはそう言いながら、僕が握っている薬草と足元のただの草を見比べ、肩を竦めている。
「ははっ、レイもそうみたいですよ。
草を見比べて不思議そうにしてますから。
僕はただ、探索スキルを持ってますから、そのおかげですね。
あ、レイ。今手に取ったのが薬草だよ」
僕が教えてやると、レイはちょっと嬉しそうに口元を緩めてから、トコトコと僕の方へ持ってくる。
それを鞄に入れてやると、また次のターゲットを探しに行く。
どうやらレイは、薬草当てゲームみたいに思っているようだ。
楽しいならいいんだよ。
ただ水分補給はちゃんとしようね。
それからただの草を引っこ抜いたレイを、僕が微笑ましく見ていると。
「……探索スキルって、『なんとなくあっちになにかありそう』って程度の、ほぼ役立たずスキルじゃなかったか?
そんなもんを、わざわざ金出して買ったのか、アイツ?」
ガイルさんがそんなことを呟いていたなんて、僕には全く聞こえていなかった。
そしてやがて村が見えてきたのは、昼前頃だった。
「あれがリンク村だ」
そこは、こじんまりとした村だった。
僕がこの世界で初めて見たのがコンピューターだったから。
魔術とかスキルとかのファンタジー要素があっても、生活面では案外日本とそう変わらないのかもって思ってたんだけど。
そのリンク村は見たところ、近代的というよりは昔ながらの農村といった感じだ。
家屋はヨーロッパ風の建物で、近寄るにつれて牛を飼ってあるのが見えて、逆に機械の類は見当たらない。
獣避けなのか、ぐるりと木の柵で囲われているが、RPGのように入口を誰かが守っている様子でもない。
きっと平和な村なのだろう。
うーん、あの「世界の中心の塔」っていうのが特殊な場所だった、って思った方がいいのかなぁ。
そして本当に、村の目の前までカマイタチさんの痕がある。
村の皆さん、お騒がせしてしまい申し訳ありませんでした。
僕が神妙な気持ちで村を眺めていると、ガイルさんが軽く説明してくれる。
「ちょっと行ったところに大きな宿場町があるんだがな、ここだって一応街道沿いの村だから、宿なんかの旅人に必要なモンは一通りあるぜ?
それに森の近くなもんで木工が盛んだから、質のいい木工製品が手に入る」
へぇ、それはいいことを聞いた。
後でいいものがないか探してみよう。
他にも僕とレイはあのコンピューターが用意したものしか持ってないし。特に着替えを手に入れたい。
いくらクリーンの魔術で綺麗にできるとはいえとはいえ、同じ服を着続けるのは気分的にねぇ。
そんなことを考えつつ、僕らはガイルさんの後ろに続いて、村の入り口らしい木の柵がぽっかり途切れた場所から入る。
「あ、ガイルさんお帰り!」
するとその辺りで作業をしていた青年が、ガイルさんを見つけて駆け寄って来た。





